佐藤伸明 Nobu Sato

上司が替わったら、最初の三か月は新しい面接だ

上司が替わった後の三か月に部下がやっておくことを示す図

4月の内示で、上司が替わると知る。仕事の中身も、チームも、自分の力量も何ひとつ変わっていない。それでも半年後の評価が前と同じになるとは限らない。上司が替わるというのは、自分の働く「環境」が丸ごと入れ替わるということだからだ。

新しい上司の最初の三か月に何が起きているのか。そしてこちらは何をしておけばいいのか。人事として異動の前後を何度も見てきた立場から、考えていることを書いておきたい。

同じ人でも、上司が替わると評価が変わる

人の働きぶりは、本人の力だけでは決まらない。私は人を内核・パターン・装備・環境の四層で見ているが、上司は環境の層のいちばん大きな部品である。内核や装備が同じでも、環境が変われば出てくる成果も、それが他人にどう見えるかも変わる。

これは感覚の話にとどまらない。米Gallupは2015年の記事で、事業単位ごとのエンゲージメントのばらつきのうち、少なくとも70%はマネジャーで説明できると推計している(Gallup, 2015)。米国の調査が中心で、日本の職場にそのまま当てはまるかはわからない。ただ、上司が替わってから急に元気をなくす人、逆に急に伸びる人を見ていると、数字の方向は実感と合っている。

自分の環境の層がどういう条件で強く、どういう条件で落ちるのかは、転職の前に自分を四層で見ておく話で詳しく書いた。上司交代は、転職しなくても環境の層だけが入れ替わる出来事だと考えるとわかりやすい。

新しい上司の最初の三か月

着任したばかりの上司は、限られた材料でチームの見立てを急いで作っている。マネジャーの着任後90日をどう使うかは、Michael Watkinsの『The First 90 Days』(2003年)以来、管理職向けの定番テーマになっている。着任した側は早く結果を出す必要があり、そのためにまず「誰が何をできる人か」を決めたい。

その材料はだいたい決まっている。前任者の引き継ぎ、会議で発言する人の印象、目に見える成果物。この三つで最初の見立てができることが多い。

前任者の引き継ぎ 会議で発言する人 目に見える成果物 最初の見立て 着任後およそ三か月 見えにくいもの 部署間の調整 未然に防いだトラブル 口約束の昇格・評価 右側は、自分から言葉にしない限り見立てに入りにくい

Fig.1新しい上司の最初の見立ては、引き継ぎ・会議での発言・見える成果物からできやすい。調整や未然に防いだ問題、前任との口約束は、こちらが言葉にしない限り入りにくい。

引き継ぎは、前任者の主観を通した一枚の要約にすぎない(伝言ゲームの一段目だと思えば、だいたい合っている)。会議でよく話す人は実際より目立ち、黙って調整を回している人は実際より小さく見える。上司が悪いわけではない。90日で判断しようとすれば、誰がやってもそうなりやすい。

部下の側がやっておくこと

面接の問いを、観察でやり直す

会社より上司を選ぶ話では、面接で将来の上司に聞く三つの問いを挙げた。最近辞めた人の理由、部下と意見が割れたときの決め方、最初の三か月でいちばんやってほしいこと。上司が替わったら、これを面接ではなく日々の観察でもう一度やる。

新しい上司は、前の部署で人が辞めた話をどう語るか。会議で反対意見が出たとき、持ち帰るのか、その場で押し切るのか。最初の一か月で何度も口にするテーマは何か。答えは一か月もあればかなり見えてくる。

自分の仕事を、新しい上司に見える形にする

前の上司は、こちらの仕事を何年もかけて知っていた。新しい上司にはその蓄積がない。だから着任から早いうちに、30分ほどもらって自分の担当、いま動いている案件、表に出にくい調整の仕事を一枚にまとめて渡しておくといい。自己アピールに見えるのが気になるなら、「引き継ぎの補足です」と言えば十分通じる。

優先順位を、言葉で合意し直す

前の上司と暗黙に共有していた優先順位は、新しい上司にとっては存在しない。「今期はAを優先し、Bは後回しにする認識でよいか」と一度確かめる。この一言を省いたために、半年後の評価面談で「Bが進んでいない」と言われるのはよくある話だ。

前の上司との約束は、引き継がれていると思わないほうがいい

「来期は昇格を推す」「この案件が終わったら評価で見る」。前の上司とのこうした口約束は、新しい上司に伝わっていないことが多い。伝わっていても、新しい上司がそれを自分の約束として扱うとは限らない。

日本では定期異動を4月と10月に置く会社が多い。少し古いが、労務行政研究所の2007年調査(労政時報、日本の人事部掲載)では、異動時期を年2回と決めている会社のうち4月と10月が45.2%で最も多かった。随時行う会社も6割強あるので、どこでも同じではない。ただ、4月に上司が替わり、9月ごろに上期の評価がつくような流れだと、新しい上司は半年分も見ていないうちに評価者になる。期の途中の実績は前任者から聞くしかない。

こういう時期は、前の上司がまだ社内にいるうちに、期初の目標と途中の実績を書面やメールで残してもらうよう頼んでおく。そして新しい上司には、約束の中身を責める調子ではなく「前任とはこう話していたが、いまの考えを聞きたい」と出す。答えが変わるのなら、早く知っておくに越したことはない。

どこから「新しい面接」と考えるか

私がエンジニアから人事に移ったときの面接は、人事の経験がない人の今の力でこの仕事が回るか、その一点だけを確かめていた。新しい上司との最初の数か月も、それに近いと感じている。相手はこちらの過去の実績よりも、今の力が自分のチームで通用するかを見ている。

だから、前の評価が良かった人ほど、気持ちを切り替えたほうがいい。積み上げた信用は、上司が替わった時点でいったん半分くらいに戻る。そう思っておくくらいで、ちょうどいい。

どこまで合わせにいくべきかは、私もまだ線を引けていない。三か月観察して、内核の層で明らかに合わない上司だとわかったら、合わせ続けるより異動や転職を考えたほうがいい場合もある。一方で、最初の印象が悪かった上司と一年後にいちばん組みやすくなった、という話もよく聞く。三か月で見切るのは早すぎるのかもしれない。

上司が替わるとき、私たちは相手を評価する側でもある。その観察を、半年後の自分の評価が出る前に終えておけるかどうか。分かれ目はそこにあると思っている。


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