佐藤伸明 Nobu Sato

企業の九割九分が中小企業。誰に売るかを先に決める

企業の九割九分が中小企業。誰に売るかを先に決める

連載「日本に入る前に見ておく五つの数字」 · 第4回/全5回

日本には337.5万の企業がある。中小企業庁の区分では、大企業が10,364社で0.3%、中小企業が336.5万社で99.7%、中小企業のうち285.3万社が小規模事業者(製造業は20人以下、商業・サービス業は5人以下)で、全企業の84.5%。従業者数では中小企業がおよそ七割を占める。

この数字は日本進出の事業計画書のほぼすべてに引用され、そのあとに「日本の中小企業市場は潜在力が大きい」と一文が続く。この一文は何も言っていない。

よくある読み方:日本は中小企業が多い

多いとは、何と比べてか。どの国でも中小企業は企業数の99%以上を占める。企業規模の分布の普遍的な形であって、日本の特徴ではない。日本の本当の特徴はピラミッドの形にある。大企業は一万社しかなく、その一万社が雇用のおよそ三割と付加価値の半分以上を占める。小規模事業者は285万社で、平均すると一社五人に満たない。

中間の層、二十人から三百人の中堅企業はおよそ五十万社。この層は、多くの外資の目標顧客名簿で空白になっている。大企業向けの営業では手が届かず、小規模店向けの販路では合わない。

大企業1.0万社 · 0.3%直販中堅企業(20〜300人)約50万社代理店 · SI · 業界団体小規模事業者285万社 · 84.5%金融機関 · 商工会 · プラットフォーム

Fig.1日本企業の三つの層と、それぞれに現実的な販路。中間の層は多くの外資の名簿で空白になっている。

方法論の読み方:どの層に売るかが、販路を決める

私が販売体制を設計する順序は、誰に売るかを決め、どう売るかを決め、最後に誰が売るかを決める、というものだ。この数字は一段目に当たり、一段目が二段目を直接決める。

一万社の大企業に売る。直販で届き、一社ごとに人を置く価値があるが、意思決定の連鎖は長く、周期は年単位で、既存の仕入先との関係が深い。五十万社の中堅企業に売る。直販では届かず、代理店、システムインテグレーター、業界団体に頼ることになり、各販路が一区画ずつ受け持ち、重ならない。285万社の小規模事業者に売る。間接販路しかない。金融機関(地方銀行、信用金庫の法人顧客網)、商工会議所、税理士、各種プラットフォーム。一社に届くコストを数千円以下に抑える必要がある。

三つの層で、販路、価格、製品の形、営業チームの姿はまったく違う。一社が三層を同時に攻めることは、三つの販売体制を同時に作ることで、三つは互いに資源を奪い合う。

行動に落とす:層を選び、一社に届くコストを計算する

この数字が変える参入の判断は、目標顧客は業界ではなく、業界の中の一つの層だ、ということだ。

手順は二つ。一つ、大企業、中堅企業、小規模事業者の三層から、最初の二年の目標として一層を選ぶ。基準は製品の単価と意思決定の周期だ。単価が高くカスタマイズが要るなら大企業か中堅企業の上部、標準化されていて単価が低いなら小規模だが、そこに届く間接販路があることを先に確かめる。二つ、その層で一社に届くコストを計算する。直販なら一回の訪問の人件費、代理店ならマージンの比率、プラットフォームなら獲得費用。このコストに届けたい社数を掛けたものが販売予算で、最初の営業を採る前に出ているべき数字だ。

これは代理店が自社製品を売らない理由で書いたことの前提でもある。代理店は「直販の補完」ではなく、ある層の顧客に対する唯一の現実的な販路だ。層を選んで初めて、代理店が要るか、どの種類かがわかる。

よくある間違い

本社の製品は本国では大企業に売れている。日本に来て大企業に入れず、小規模事業者に向かう。だが製品の形と価格は大企業向けのまま。結果、製品は小さな店には重すぎ、価格は高すぎ、販路は直販のままで、一件あたりのコストが単価を上回る。問題は製品ではなく、ある層を選びながら別の層のやり方を使っていることだ。欲しい製品から、チームの形を逆算するで書いた「製品が先、組織はあと」を、ここではもう一歩前に進める。顧客の層が先、製品はあと。

自分で確かめる

自社の日本の目標顧客は、三層のどれか。一社に届くコストは計算したか。答えが「三層とも」なら、まだ選んでいない。


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