佐藤伸明 Nobu Sato

良い市場、入りにくい市場:対日直接投資はどれほど低いか

良い市場、入りにくい市場:対日直接投資の低さ

連載「日本に入る前に見ておく五つの数字」 · 第1回/全5回

日本進出を考える会社が最初に見ておくべき数字が一つある。外国資本の対日直接投資残高が、日本のGDPの何%か。2024年末、OECDの基準では5.2%。同じ年、カナダは82%、英国72%、米国40%、フランス31%、ドイツ27%、イタリア21%。日本はG7で最も低く、僅差ではない。

まず数字を正確に

この数字には二つの計算方法がある。ジェトロは「資産・負債原則」で、日本企業の海外子会社から親会社への投資も含める。2024年末で53.3兆円、GDP比8.7%。OECDは「親子関係原則」でその部分を除き、5.2%。どちらも正しく、違いは分子の定義にある。どちらを使っても、日本は主要経済圏の最下層にいる。

政府もこれを知っている。対日直接投資推進会議は2030年の残高目標を100兆円から120兆円に引き上げた。達成してもGDP比は二桁の下のほうに届く程度で、他のG7諸国にはまだ遠い。

カナダ81.9%英国72.3%米国39.9%フランス31.3%ドイツ26.5%イタリア20.6%日本5.2%

Fig.1G7各国の対内直接投資残高のGDP比、2024年、OECD基準。日本は5.2%。ジェトロの資産・負債原則では8.7%で、順位は変わらない。

よくある読み方:日本は閉鎖的な市場

この数字を見た多くの人の結論は、日本は閉鎖的だ、規制が多く手続きが遅く排他的だ、というものだ。1980年代なら筋が通ったが、いまは成り立たない。日本の外資参入規制はOECDの指数では緩い部類に入り、法人登記は数週間で終わり、税務とビザの手続きは明確で予測できる。

それに、難しいのが規制なら、いちばん困るのは手続きのはずだ。だが外資系企業が日本でいちばん困っていることで見たジェトロと経産省の調査の答えは、人材が上位三位、手続きは九位だった。入ってきた会社が不満を言うのは、入口より、入ったあとのことだ。

方法論の読み方:難しいのは時間と信頼

外資残高が低いことのより妥当な説明は、日本参入の回収期間が長すぎて、多くの会社が回収前に撤退するか、最初から来ない、というものだ。

日本市場の顧客は仕入先の切り替えが遅く、販路は既存の関係の中に握られていて、新しいブランドが最初の訪問から最初の注文に至るまで、年単位でかかることが多い。規制のせいではなく、信頼の築き方のせいだ。日本の顧客は、製品と同じくらい、五年後もこの会社がここにいるかどうかを見ている。外資残高がGDPの5%しかない市場は、「外国企業は来ては去る」が繰り返し実証されてきた市場でもあり、顧客の慎重さには経験の裏づけがある。

だからこの数字が変える参入の判断は、コスト計算の単位だ。多くの本社は日本の投資対効果を四半期か年度で測るが、日本市場の回収期間は三年から五年ある。単位を間違えると、二年目に失敗と判定される。

行動に落とす:最初の一歩は、登記より地図

コストが年単位なら、初年度にいちばん金をかけたいのは、オフィスや法人の設立より、この三年から五年でどこを攻めるかの見極めだ。

具体的には先に市場マップを描く。本当の競合は誰か、どの販路を誰が握っているか、顧客は誰から買っていて、なぜか。競合を間違えると、競合がいないより悪いで展開した話だ。地図を描いてから、登記するか、どの形態にするか、最初の一人を誰にするかを決める。順序を逆にして、法人を作り、人を採り、二年かけて市場の入口が思っていた場所にないと気づく。その二年のコストが、外資残高の低さの一因になっている。

自分で確かめる

自社の日本事業の予算は、何年の回収期間で承認されているだろうか。答えが一年なら、この数字が示しているのは、自社が分母の中の去っていく側になるということだ。


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