女性管理職比率は一つではない

競合分析をしていると、単純に見える問いに何度も出会う。この会社に女性の管理職は多いのか。日立が2026年6月に提出した有価証券報告書を開くと、同じ表の中に答えが四つある。17.4%、22.7%、8.9%、6.8%だ。
どれも間違いではない。同じものを四つの範囲で数えた結果である。
四つの数字は、それぞれ誰のものか
図1同じ有価証券報告書、同じ年度で、女性管理職比率が四つある。濃い色の二本が、日本で働く人が実際にいる範囲だ。
17.4%は「当社及び当グループ」、つまり連結の数字だ。内訳を見ると、日本以外の連結子会社が22.7%、日本国内の連結子会社が6.8%。8.9%は提出会社、日立製作所単体の数字で、女性活躍推進法の基準で算出されている。
同じ報告書には国内の子会社が一社ずつ並んでいて、低いところは0.0%、高いところでは26.0%になる。
日本にいる候補者が「日立は女性の管理職が多いか」と聞くなら、関係が深いのは6.8%から8.9%の帯であって、17.4%ではない。グローバルの昇進ルートを聞かれているなら、17.4%や22.7%のほうが近い。どの数字が「正しい」かは、問いによって変わる。
会社自身の報告:範囲は明記、推移には範囲が混じる
図2統合報告書2025は二つの範囲を並べて示している。グループの線は2022年度に9.8%から13.0%へ跳ねており、注記は増加に集計範囲の拡充を含むとしている。
日立の統合報告書2025は、二つの範囲を並べて開示している。日立グループは2020年度の9.5%から2024年度の15.8%へ、日立製作所は6.5%から8.5%へ。範囲がはっきり書かれており、この点で数字は対応している。
ただし注記には、女性管理職の数と比率の経年増加には「集計対象範囲の拡充および連結対象会社の変動」によるものを含む、とある。グループの線は2022年度に大きく跳ねているが、そのうちどこまでが範囲の変化で、どこまでが登用の増加なのかは、報告書の中では分けられていない。
多くの会社は、一つしか出していない
日立は少数派だ。PwC Japanは2023年3月期の有価証券報告書を分析している。対象は東証プライム上場で3月決算の非金融企業890社。女性管理職比率を開示した850社のうち91%は個社ベースのみで、連結ベースは9%だった。
つまり有報の数字は、多くの場合、親会社単体しかカバーしていない。持株会社の単体は数百人規模で、事業は子会社にあることも多い。海外比率の高い会社なら、単体とグループの差はさらに開きうる。一方でコーポレートサイトや統合報告書、採用ページの数字は、グループやグローバルの範囲であることが多い。範囲をそろえずに並べると、結論を誤る。
突き合わせのチェックリスト
競合の選び方や人材マップの作業では、次の項目で確かめるとよい。
- 有報の「従業員の状況」:提出会社か連結か、日本国内と海外の内訳があるかをまず見る。平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与は提出会社だけの数字だ。
- 統合報告書・サステナビリティデータ:数字ごとの集計範囲と注記を探す。「範囲の拡充」「連結対象の変動」といった説明には特に注意する。
- 厚生労働省の女性の活躍推進企業データベース:単体ベースで、管理職は課長級以上、時点も明記されている。非上場企業も載っているので、有報で拾えない部分を補える。
- くるみん、えるぼしなどの認定:厚生労働省が公表する認定企業を基準にし、採用ページのマークだけで判断しない。
- 年度と時点:有報は決算期末、データベースは別の時点であることが多い。年度の違う二つの数字は、そのまま引き算できない。
考え方は日本企業の多くは財務が見えないの記事と同じだ。範囲が合わないなら表には「範囲が異なる」と書き、推測で埋めない。
一つ目。例として取り上げたのは日立一社だけだ。四つの範囲を開示するほど詳しいからで、他社でも同じだけ差があるとは限らないし、日立のどの数字に問題があるという話でもない。
二つ目。統合報告書2025のデータは2024年度、有報は2025年度で、年度が違う。そのため本文では二つの組を直接比べていない。
三つ目。PwCの集計は2023年3月期のものだ。その後、連結で開示する会社は増えているかもしれない。
手元の競合比較表で、女性管理職の欄に入っているのは、どの範囲の数字だろうか。
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