一人雇うと、給与の何倍かかるか

日本法人の最初の予算を海外本社に出すと、たいてい同じ質問が返ってくる。給与以外に、一人あたりいくらかかるのか。
日本の人事にとっては当たり前の話でも、本社から見ると社会保険の事業主負担や通勤手当は見えにくい。私が説明に使っている目安は、2年目以降で年収の約1.2倍、紹介会社を使った1年目で約1.5倍だ。
その内訳を、数字で置いておく。
全国平均では、労働費用は現金給与の1.22倍
厚生労働省の就労条件総合調査(2021年1月調査、2020年の実績)によると、常用労働者一人一か月あたりの労働費用総額は平均408,140円だった。このうち現金給与は334,845円で、全体の82%。残りの18%が、法定福利費、退職給付、法定外福利、募集費、教育訓練費になる。
倍率に直すと、現金給与の1.22倍である。
これは大企業を含む平均で、退職金や福利厚生が厚い会社ほど倍率は上がる。立ち上げ期の外資系日本法人は退職金制度を持たないことが多い。それでも、法定の社会保険は必ずかかる。
社会保険の事業主負担は、給与の約15.7%
2026年度、東京の一般的なサービス業(建設や製造を除く)で、事業主が負担する率は次のとおり。
| 項目 | 料率(労使合計) | 事業主負担 |
|---|---|---|
| 健康保険(協会けんぽ東京) | 9.85% | 4.925% |
| 厚生年金 | 18.3% | 9.15% |
| 子ども・子育て支援金(2026年4月分から) | 0.23% | 0.115% |
| 子ども・子育て拠出金(全額事業主) | 0.36% | 0.36% |
| 雇用保険 | 1.35% | 0.85% |
| 労災保険(その他の各種事業、全額事業主) | 0.3% | 0.3% |
| 合計(40歳未満) | 約15.7% | |
| 介護保険(40〜64歳は加算) | 1.62% | 0.81% |
40歳未満の社員なら事業主負担は約15.7%、40歳以上は介護保険が加わって約16.5%になる。
本社への説明で抜けやすいのは二点だと感じている。
一つは賞与にも社会保険料がかかること。年収の二、三割を賞与で払う会社なら、その分にも同じ率がかかる。
もう一つは通勤手当だ。所得税は非課税でも、社会保険料の算定基礎には含まれる。ほとんどの会社が通勤費を全額支給しているので、その分にも約15%の負担が上乗せされることになる。
逆に、高い給与の職種では倍率が少し下がる。厚生年金の標準報酬月額は65万円が上限で、それを超えると年金の負担は増えない。
年収600万円の社員一人で試算する
40歳未満、年収600万円(月給40万円、賞与年120万円)、通勤手当月1.5万円の社員を置いてみる。数字はいずれも仮のものだ。
Fig.1年収600万円の社員一人にかかる会社の負担。2年目以降は年約714万円(1.19倍)、紹介手数料を含む1年目は約924万円(1.54倍)。前提:40歳未満、東京、サービス業、手数料35%。
給与と通勤手当で618万円、社会保険の事業主負担が約96万円。2年目以降は年約714万円で、年収の1.19倍になる。全国平均の1.22倍とほぼ同じ水準だ。
1年目は採用費が加わる。紹介会社の手数料は、一般的な職種で理論年収の30〜35%程度というのが私の実感で、35%なら210万円。1年目の合計は約924万円、1.54倍になる。
日本法人の代表クラスになると手数料率はさらに上がり、採用までに半年から一年かかることも珍しくない。
PC、席、ソフトウェアのライセンス、入社時の研修は、ここには入れていない。
初年度の人件費予算をどう組むか
私は、1年目は年収の1.5倍、2年目以降は1.2倍で一人分を見積もるようにしている。その差の0.3倍は、ほぼ採用費だ。
採用費を抑えたいなら直接採用という手もあるが、時間のコストも一緒に見ておきたい。日本では、合う人ほど自分から応募してこない。理由は日本の転職率に書いた。
給与水準そのものは日本の賃金を、最初に誰を採るかは日本法人の最初の一人を見てほしい。採用後に就業規則が整っていないと何が起きるかは、労働審判の記事で別の試算をしている。
確信が持てないところ
料率は毎年動く。2026年度は東京の健康保険料率が9.91%から9.85%に下がる一方で、子ども・子育て支援金が加わり、差し引きはほぼ変わらない。長い目で見れば上がっていくと考えている。
試算は東京・サービス業が前提で、都道府県が違えば健康保険料率も変わる。製造業や建設業は労災保険率がずっと高く、倍率ももう少し上がる。
皆さんの会社では、初年度の一人分をどの倍率で見積もっているだろうか。
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