AIのあと、どの層から値が下がるか

以前、職務経歴書がとても充実している候補者を面接したことがある。あれも担当し、これも責任者だった。具体的な出来事を一つ、そのときの状況、何を選び、どうなったかを聞くと、話が止まった。
あの面接は、いま起きていることを少し先に見せていたのだと思う。経歴書に書けることの値打ちが、下がり始めている。
私は人を四つの層に分けて見ている。いちばん内側が核で、何を求め、何を絶対にしないか。二つめが行動様式で、強いストレスがかかったときにどうなるか。三つめが装備で、スキル、経験、経歴。いちばん外側が状況で、この会社、この上司、このチームと組んだときに力が出るか、すり減るか。この見方は退職理由の記事でも使った。
AIが入ってきて、この四つの層は同じ速さでは値下がりしない、と私は見ている。
Fig.1四つの層がAIのあとに値下がりする順序。測定したものではなく、私の見立てである。装備のうち書き出せる部分が先に下がり、行動様式と核はむしろ目立つようになる。
先に下がるのは装備の層、とくに書き出せる部分
装備の層のなかでも、書き出せるものが先に値を下げる。知識、型、言語の文法、コードを書く速さ。書き出せるものはモデルが学べるし、新人がツールを使えば七、八割の水準まで届く。
スタンフォード大学の研究者が2025年8月に出した論文は、米国最大の給与計算ソフト会社のデータを使い、生成AIの普及後に誰の雇用が先に影響を受けたかを調べている。AIの影響を最も受ける職種では、22〜25歳の雇用が相対的に13%減った。同じ職種でも経験の長い層の雇用は安定し、むしろ増えていた。減少は、AIが人を補助するより置き換えやすい職種に集中していた。
若い人が先に影響を受ける理由を、私はこう考えている。入社して間もない人の装備は、ほとんどが書き出せるものだ。学校で学んだこと、教材で練習したこと。経験の長い人の装備には、局面の読みや失敗から得た勘が混ざっている。そこは書き出しにくく、すぐには持っていかれない。
装備の層がゼロになるわけではない。入口の条件としては残るし、それがなければ面接にも進めない。ただ、ほかの人との違いを示す材料にはなりにくくなる。
状況の層は、半分が下がる
状況の層には、情報の差から生まれる強みがある。社内の手順に詳しい、どのシステムをどう設定するか知っている、決裁できる人を知っている。日本の会社では、こうした「社内に詳しい」ことが長く評価されてきたと感じている。この強みは薄くなっていく。文書や検索、社内のナレッジにAIが加われば、新しく来た人が一週間で、以前なら半年かかったことをつかめるようになる。
もう半分は下がらない。この上司、このチームと合うかどうかだ。チームが小さくなるほど、むしろ重くなる。五人のチームで一人がかみ合わないのは、五十人のチームで一人がかみ合わないのとは影響がまるで違う。
行動様式の層は下がらず、むしろ目立つ
行動様式は、ストレスがかかったときの自分だ。プロジェクトが危うくなったとき、管理を強めるのか、連絡が途絶えるのか。疑問を向けられたとき、説明するのか、反発するのか。
この層はAIが肩代わりできず、重視される方向にある。経済学者のデビッド・デミングによれば、1980年から2012年に、米国で人とのやり取りを多く必要とする仕事が労働力に占める割合は12ポイント近く伸び、数学的な要求は高いが人とのやり取りが少ない仕事は3.3ポイント減った。AI以前のデータだが、向きは今と同じだと思う。機械ができることが増えるほど、人と人がどう連携するかの価値が上がる。
面接でこの層を見るには、出来事を聞くしかない。面接で私が探しているものに書いたとおり、面接官が書き留めるのは形容詞ではなく出来事だ。冒頭の候補者が答えに詰まったのも、この層だった。装備の言葉はそろっていたが、行動様式を示す出来事が一つも出てこなかった。
核の層は最も下がらないが、最も示しにくい
核は、何を求め、何を絶対にしないかだ。ツールのおかげでできることが増えれば、何をやるかを選ぶことが制約になる。何を選ぶかは、最後は核が決める。
難しいのは、核が経歴書でも面接でも最も示しにくいことだ。過去にどう選んできたかからしか見えない。なぜ辞めたのか、なぜ残ったのか、何を手放したのか。過去三回の転職の本当の理由を並べて書いてみるのがよいと思う。やり方は転職の前に、自分を四層で描くにまとめた。
いま、何をしておくか
装備は磨き続けたいが、ため込まないほうがいい。書き出せるものは自分で先に書き出し、自分のやり方として持っておく。
面接の準備は重心を変える。「何を担当したか」を並べるより、具体的な出来事を三つから五つ用意したい。そのときの状況、どう判断したか、結果と代償。どの出来事でも、追い込まれたときに自分がどう動いたかを話せるようにしておく。
次の仕事を選ぶときは、状況の層のうち下がらないほうの半分をよく見たい。チームの規模、上司は誰か、その人とストレス下でかみ合いそうか。会社の知名度より、こちらのほうが効いてくると思う。
社会に出たばかりなら、入口は確かに狭くなっている。小さくてもいいので、自分で決め、その結果にも責任を持つ立場を探してほしい。行動様式と核は、本当の出来事のなかでしか育たない。
確信が持てないところ
スタンフォードのデータは米国のものだ。日本には新卒一括採用があり、若い人が会社に入る仕組みが違うので、影響は遅れて来るかもしれないし、新卒採用枠の縮小のような別の形で来るかもしれない。日本には同じ精度のデータがまだなく、私も待っている。
四つの層の値下がりの順序も、測ったものではなく私の見立てだ。違う動きを見ているなら、ぜひ教えてほしい。
ご自身のどの層を、いちばん守りたいと思っているだろうか。
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