佐藤伸明 Nobu Sato

日本のリファレンスチェックで、実際にわかること

日本のリファレンスチェックで、前職の人事・本人・推薦者・非公式な聞き込みからわかることを比べた図

海外に本社がある会社で採用をしていると、最終面接のあと、本社からよくこう聞かれる。リファレンスは取ったか。

本社の頭にあるのは、たいてい自国のやり方だ。前の会社の人事に電話をして、評価や給与、辞めた理由を確かめる。

日本では、このやり方はほとんど通用しない。わかることは思っているより少なく、聞き方を誤ると問題にもなる。

前職の人事は何を答えてくれるのか

答えてもらえるのは、ほぼ在籍していたという事実だけである。

私たちもこうした電話を何度もかけてきた。在籍の確認まではしてもらえる。その先、評価や退職理由を尋ねると、返ってくるのは「これ以上の個人情報はお答えできません」という一言だ。

相手が非協力的なわけではない。個人情報保護法では、個人データを第三者に渡すには原則として本人の同意が要る。答えた側があとで責任を問われかねないのだから、断るのは自然な対応だと思う。

給与を外から確かめるのも難しい。必要なら、本人に源泉徴収票を出してもらうのがいちばん素直なやり方だ。

相手わかることわからないこと前職の人事✓在籍の事実✗評価・退職理由・給与候補者本人✓給与(源泉徴収票)—候補者が選んだ推薦者✓面接で聞いた出来事の裏付け✗人柄の良し悪し非公式な聞き込み—✗しない:転職の意向が漏れる

Fig.1日本で確かめられるのは主に事実の裏付けだ。前職は在籍のみ、給与は本人から、推薦者には面接で聞いた出来事を確かめる。

日本の採用で聞いてはいけないこと

職業安定法第5条の5と厚生労働省の指針は、採用で集めてよい情報の範囲をはっきり決めている。業務に必要な範囲に限ること。人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地、思想・信条、労働組合への加入状況は原則として集めないこと。本人以外から集めるときは本人の同意を得ること。

日本の人事にとっては当たり前の話でも、海外の本社にとってはそうでもない。家族構成や結婚の予定を、悪気なく質問項目に入れてくる本社は少なくない。そこを日本側で止めるのも人事の仕事の一つだと感じている。本社と日本法人の認識のずれについては、「トップが二人いる組織は、いつうまくいくのか」でも触れた。

なぜ内定の前に終わらせておくのか

内定を出したあとで取り消すのは、かなり難しいからだ。

1979年の大日本印刷事件で、最高裁は内定によって労働契約が成立すると判断した。取り消せるのは、内定の時点で知ることができず、知ることを期待できなかった事実があり、それを理由とすることが客観的に合理的で社会通念上相当な場合に限られる。リファレンスで出てきた話がこの基準を満たすかどうかは、なんとも言いにくい。

だから順番は、リファレンスが先で、内定があとになる。

まだ判断を変えられる取り消しのハードルは高い最高裁 1979年 大日本印刷事件面接リファレンス内定入社

Fig.2リファレンスは内定の前に終える。内定で労働契約が成立し、取り消せるのは客観的に合理的な理由がある場合に限られる。

推薦者に確かめていること

推薦者からわかるのは事実が合っているかどうかで、人柄の良し悪しまではわからない。

候補者が選んだ推薦者は、当然ながら好意的に話す。「どんな方ですか」と聞いても、得られるものは多くない。

私は面接で書き留めた出来事を持って話を聞く。そのプロジェクトは何人で、誰が決めて、本人はどの部分を担ったのか。反対した人はいたか。推薦者が悪く言うことはまずないが、細部が合うかどうかはすぐにわかる。「書類選考のあと、面接で私が探しているもの」で書いた証拠集めの、答え合わせに近い。

もう一つ、毎回必ず聞く質問がある。機会があれば、また一緒に働きたいと思いますか。

ただ、ここで返ってくるのはたいてい建前だ。電話口で「一緒に働きたくない」と言う推薦者はまずいない。だから聞きはするが、答えをそのまま受け取ることはしない。頼りになるのは、やはり先ほどの出来事の細部が合うかどうかだ。

好評だけでは足りなかった

苦い経験もある。

ある候補者は、推薦者の評価がそろって好意的だった。入社してみると、実行力が大きく足りなかった。決めたことが前に進まない。

推薦者がうそをついていたとは思わない。評判が良いことと、物事を最後までやりきれることは別の話で、あのときの私はそこを分けて聞けていなかった。今は、強く押し切る必要があった仕事を一つ挙げてもらい、どう進め、どこで止まり、最後に誰が引き取ったのかを聞くようにしている。

非公式な聞き込みはしない

候補者の会社にいた知人に、こっそり様子を聞く。日本でもよくある話だ。

私はしない。危うすぎるからだ。

尋ねた時点で、その人が転職を考えていることが相手に伝わってしまう。その話がどこまで広がるかは、こちらには制御できない。候補者の仕事や生活にどんな影響が出るか、誰にも予測できない。本人の同意なく第三者から情報を集めるという点でも、先に書いた線を越えている。

まだ答えが出ていないこと

推薦者を候補者が選ぶ以上、どうしても好意的な人が並ぶ。会社側で選ぼうとすれば本人の同意が要るし、管理職の候補者の多くは在職中で、今の上司は転職活動を知らない。

いちばんよく知っている人に、いちばん聞けない。この空白をどう埋めるかは、まだ答えが見つかっていない。

皆さんの会社では、リファレンスチェックで本当に役に立つ情報は得られているだろうか。


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