40代の転職で売るのは、判断の仕方だ

営業戦略の責任者候補と面接をしたことがある。職務経歴書は立派で、口頭でも手がけた施策が次々に出てきた。ところが「その中で一つ、具体的な案件を聞かせてください」と頼むたびに、話が止まった。
やったことの量は十分だった。足りなかったのは、そのとき何を見て、何を捨てて、どう決めたのかという話だった。40代の転職で問われるのは、まさにそこだと私は考えている。
「35歳限界説」は、数字の上ではもう成り立たない
40歳以上の転職は、すでに例外ではない。厚生労働省「令和7年転職者実態調査」(2026年9月公表)の個人調査では、転職者のうち40歳以上が合わせて約52%を占めている。年齢階級で見ると40〜44歳が12.0%で、30〜34歳の13.7%とほとんど変わらない。
Fig.12025年の転職者のうち、40歳以上は合わせて約半数を占める。最も多いのは25〜29歳(16.8%)だが、40〜44歳(12.0%)は30〜34歳(13.7%)と大差がない。各階級の数値を足し上げた概数。
なお、この調査の「転職者」は、1年以内に他社で働いた経験があり、正社員などの一般労働者として採用された人を指す(短時間労働者は除く)。対象の取り方が違えば数字も変わるので、比率そのものより「40代以上が半分前後いる」という規模感で受け取ってほしい。
民間の数字も同じ方向を指している。リクルートが2024年9月に出した「ミドル世代の転職動向」は、リクルートエージェントのデータから、40代・50代の転職者数の伸びが全体の伸びより大きいと報告している。同じ資料では、40代・50代で賃金が1割以上増えた人の割合が2014年度の15.6%から2023年度の27.4%に上がった。
年齢そのものが入口で門前払いされる時代は、少なくとも統計の上では終わりつつある。全体の転職の動きについては、日本の転職率を数字で見た記事でも整理した。
40代が買われているもの
企業が中途採用で見ているのは、年齢より経験と能力のほうだ。同じ転職者実態調査で、管理的な仕事に転職者を採用した理由は「経験を活かし即戦力になるから」が60.7%、「専門知識・能力があるから」が50.2%だった。賃金を決める際に考慮した要素も、「これまでの経験・能力・知識」が59.2%で、「年齢」の35.3%を大きく上回る。
ここで言う「経験」を、私は二つに分けて考えている。一つは資格、ツール、業界知識、担当してきた業務のように書き出せるもの。私の四層モデルでいう装備だ。もう一つは、情報が足りない中で何を優先するか、どこで撤退するか、過去にどんな失敗の型を見てきたか。こちらはパターンの層にある。
20代の転職なら装備で勝負できる。40代になると、装備は若い人やツールに追いつかれやすい(表計算ソフトのショートカットの速さで20代と勝負するのは、あまり分のいい戦いではない)。AIの時代にどの層から価値が下がるかを考えたときも、最初に目減りするのは書き出せる装備だという結論になった。40代が売れるのは、残る方の層、圧力の下でどう判断するかの方だと感じている。
私自身、エンジニアから人事に移ったとき、面接で試されたのは一点だけだった。人事の経験がない状態で、これまでの能力がこの仕事を支えられるのか。装備はゼロに近かったので、見られていたのは判断の仕方の方だったはずだ。
判断が見える職務経歴書の書き方
多くの職務経歴書は「担当業務」の一覧になっている。営業戦略の立案、KPI設計、組織マネジメント。どれも事実だが、読む側には同じ肩書きの他の候補者との違いが見えない。
私が読み手として助かるのは、案件を2つか3つに絞り、それぞれに次のことが書いてあるものだ。当時の状況と制約、選択肢として何があったか、なぜそれを選んだか、結果はどうだったか。うまくいかなかった案件が一つ混ざっていてもいい。むしろ、結果が悪かったのに判断の筋が通っている話は、成功談より多くを伝えることがある。
書き方の例を一つ挙げる。「営業KPIの再設計を担当」と書く代わりに、「受注件数を追う指標を、商談の質を測る指標に替えた。現場からは反発があったが、四半期単位で受注率の推移を見せて合意を取った。結果は〜」と、迷いどころと決着を一行ずつ入れる。中身は架空の型だが、読む側はこれで候補者の判断の筋を追える。
数字は結果の欄に置けばいい。売上が何%伸びたかより、「予算を半分に削られた中で、どの顧客層を切ったか」の方が、40代の書類では効いてくる。
面接で「具体的に」と言われたら
冒頭の候補者が止まったのは、準備不足というより、話の単位が大きすぎたのだと思う。「営業体制を立て直した」は成果の要約で、そこからは判断の場面が見えてこない。面接官が「具体的に」と言うときに欲しいのは、ある一日、ある会議、ある決断の瞬間だ。
準備としては、職務経歴書に書いた案件ごとに「一番迷った場面はどこか」を一つ決めておくといい。そこで何が見えていて、何が見えていなかったか。誰が反対して、どう決着したか。失敗の場面なら、失敗談を証拠として語るときと同じで、後から引き出した教訓より、そのとき実際にしたことを時系列で話す方が伝わる。
もう一つ、判断の話は自分の口から出すしかない、という事情もある。日本のリファレンスチェックでは、前職の人事は在籍期間の確認にとどまることが多い。推薦者に「また一緒に働きたいか」と聞いても、返ってくるのはたいてい建前だ。私は以前、推薦者の評価がすべて良好だった候補者が、入社後に実行力の面で大きく足りなかったことを経験している。採用側が判断力を外から確かめる手段は意外と少ない。だから面接で、本人が具体的に語れるかどうかの比重が大きくなる。
50代前半で、賃金の増減が逆転する
この見立てが年齢を問わず通じるとは言い切れない。厚生労働省「令和7年雇用動向調査」(2026年8月公表)では、転職で賃金が増えた人の割合は40〜44歳で44.9%、減った人は27.4%だった。これが50〜54歳になると、増加29.4%に対して減少42.0%と逆転する。
50代前半で何が起きているのか、判断力が評価されていないのか、評価されても賃金に乗りにくい構造なのか、私にはまだ切り分けられていない。役職定年や早期退職からの転職が混ざっている可能性もある。40代前半と50代を同じ「ミドル」で括るのは、少し乱暴なのかもしれない。
それでも、40代の転職で自分が何を売っているのかを言葉にできるかどうかは、結果を分けると思う。経歴書を書き直す前に、自分が過去に一番重い判断をした場面を一つ思い出してみてほしい。それを5分で、具体的に話せるだろうか。
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