日本進出初年度の予算は、なぜ半分も超過するのか

外資の日本法人の予算表は、たいてい整っている。オフィス、登記、三人分の給与、少しの販促費。年間五千万円で収まる計算だ。ところが十か月目に、資金が尽きかけているという報告が上がる。最初のまともな受注は、まだ顧客の社内決裁の途中にある。本社が理由を聞くと、日本はこういう市場だ、という答えが返る。
半分は当たっている。残りの半分は、予算が最初から少なく見積もられていたせいだ。しかも、少なく見積もる場所は毎回だいたい同じである。
一つの調査から
2026年10月に公表された調査がある。対象は中国市場に進出した日本企業の経営層と海外事業担当者331人で、初年度にいくら投じ、それで足りたかを聞いている。半数以上が初年度の投資は五千万円未満。振り返ると85%が足りなかったと答え、64.7%は当初計画の一・五倍以上が必要だったと言う。最も想定を超えた費目は人材・採用費だった。そして予算が足りないときに削った費目の一位も、やはり人材・採用費だった。
初年度の予算は、毎回同じ三か所で少なく見積もられる
年間五千万円・三人体制で組んだ日本法人の十二か月予算と、実際に出ていくお金と時期
- 01人の費用:年収で書く → 年収の1.3倍以上社会保険の会社負担、通勤費、紹介手数料(年収の三割〜三割五分)、PCとシステム
- 02着任:二月着任 → 五月着任、戦力は九月採用に三〜六か月、在職中なら引き継ぎがさらに一、二か月
- 03売上:第四四半期から → 初回訪問から九〜十八か月実際の第四四半期は、まだ二回目の提案をしている
- 04十八か月で組み、三割の予備費を見える場所に書く着任月から逆算し、足りないときに削る順番も承認前に決める
超過した半分は運ではない。十二か月の予算は、十か月目の気まずい会議を予約している。
この調査は方向が逆で、日本企業が外へ出る話だ。調査主体は進出支援を売る会社で、サンプルはネットパネルである。なので、ここでは鏡として使うにとどめたい。それでも、方向が逆なだけで構造は同じだと感じている。日本に入ってくる外国企業の予算の外れ方は、この数字とよく重なる。
少なく見積もる三か所
一つ目は人の費用だ。予算表には年収が書かれるが、実際に出ていくお金は年収の一・三倍以上になる。社会保険の会社負担分、通勤費、人材紹介会社への手数料(年収の三割から三割五分が相場)、入社後のPCとシステム。採用一人の本当のコストで計算したとおり、三人分を三人の年収で書けば、年末には一人分が足りなくなる。
二つ目は着任の時期だ。予算は一月に設立、二月に着任、三月から稼働という前提で組まれる。日本の採用には三か月から六か月かかり、在職中の候補者なら退職の引き継ぎがさらに一、二か月加わる。実際の着任は五月で、戦力になるのは九月ごろだ。その間、給与は出るが、成果はまだ出ない。誰が悪いわけでもない。この市場の時間定数のようなものだと思っている。
三つ目は売上の立ち上がりだ。日本の顧客の購買サイクルは長く、初回訪問から契約まで、中堅企業以上では九か月から十八か月かかることが多い。十二か月の予算では、第四四半期から売上が入る前提になりがちだ。ところが実際の第四四半期には、まだ二回目の提案をしている。売上は遅れてくるのに、費用は遅れてくれない。その隙間が、超過した半分の正体である。
調査には結末を示す数字もある。予算が足りないとき最も削られたのは人と採用で、一方で事業への影響が最も大きかったと答えられたのは、販促を止めた結果として認知が広がらなかったことだった。人を削るのは、翌年の売上を一緒に削ることでもある。
超過させない組み方
私は、予算を十八か月で組むことを勧めている。資金を多めに取るための理屈に聞こえるかもしれないが、狙いは別のところにある。最初の安定した売上が立つ月まで、時間軸を伸ばしておきたい。十二か月で損益分岐に届く日本法人はほとんどない。十二か月の予算は、十か月目に本社をがっかりさせる道具になりやすい。
次に、採用日から逆算する。各ポジションの着任月は、市場の周期に合わせて決める。希望の月を書くと、たいてい外れる。そこから給与の発生月と、その人が成果を出し始める月を置いていく。こうして組むと、人件費の開始は数か月遅れるのに、総額は増える。後ろの月が増えるからだ。気の重い話だが、それが実際の数字である。
三割の予備費は、見える場所に書いておく。名前は「緊急費」にせず、「採用と立ち上がりの予備費」として、その二つ以外には使えないと明記する。隠した予備費は、いつの間にか別のことに使われている。最後まで残るのは、見える予備費のほうだ。
最後に、予算の承認前に決めておくことがある。足りなくなったとき、何から削るか。調査の回答者が後悔していたのは、販促と人を削ったことだった。削りやすいから、つい手が伸びる。削れないもの、たとえば着任済みの人と動いている商談を先に書き出し、半年遅らせられるもの、たとえば二つ目のオフィスや二本目の製品線を次に書く。
半分の超過は、運が悪かったせいとは限らない。十二か月の予算を持って日本に入るのは、十か月目の気まずい会議を、最初から予約しておくようなものだと思う。
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