組織と採用
面接記録をAIで整理する。渡してはいけない一歩
佐藤伸明約7分
目次5
AIがまとめた面接記録は、たいてい候補者に親切である。「日本での営業組織の立ち上げを主導し、異文化間の調整力が高い」。読みやすく、角もない。ただ、この一文のどこまでが本人の話で、どこからが本人の実績なのかは、要約からは読み取れない。
面接の文字起こし、要約、評価表との突き合わせをAIに任せるのは、もう珍しいことではない。実際、助かる。議事録を自分で取らずに済む解放感に近い(議事録係の経験がある人には、わかってもらえると思う)。
ただ、この流れのなかに一つだけ、渡すと取り戻せない工程がある。渡してよい工程から順に見ていく。
文字起こしは任せてよいが、抜き取りで確かめる
文字起こしはAIに任せてよい。人より漏れなく残る。やるべきことは、判断に使う箇所だけ録音と照らし合わせることである。
理由は、文字起こしも話を作ることがあるからだ。2024年、アリソン・ケネッケ(Allison Koenecke)らの研究チームは、OpenAIの音声認識モデルWhisperの出力を調べ、文字起こしの約1%に、文や句がまるごと作り出された箇所があることを報告した。その約38%には、暴力的な内容や誤った関連づけといった明らかに有害な中身が含まれていた。沈黙や間が長い話し手ほど、話していない言葉が補われやすい。
1%は小さく見える。だが一時間の面接で、いちばん大事な経験談にたまたま一文足されれば、こちらの判断は本人が言っていない言葉の上に立つことになる。だから、結論に使う段落だけは録音を聞き直したほうがいい。
整理と「証拠の欠け」の指摘は、人より勤勉
回答を質問ごとに並べ直し、評価項目に結びつける作業は、AIのほうが速くて安定している。人がやると、最後の十分間と、話の弾んだ部分ばかりが記憶に残りやすい。
もっと役に立つのは、証拠が欠けている箇所を示させることだ。面接では一つの出来事を四つの位置で追える。そのときの条件、何を取り何を捨てたか、具体的に何をしたか、結果と代償。成功談で抜けやすいのは、最初と最後である。どの話に条件も代償もなく「うまくいきました」しかないのかを段落ごとに印をつけてもらうほうが、きれいな講評文を書かせるよりずっと使える。
主張と事実を分けさせるのもよい。「二十人のチームを率いた」は主張だ。「2022年4月に七人のチームを引き継ぎ、年末に二十人になった。うち三人は自分で採用した」まで来ると、事実に近づく。AIは前者に印をつけ、次の面接で聞くべきことを教えてくれる。真偽は判定できないが、どこにまだ証拠がないかは示せる。
証拠の欠けを示すまではAIに任せてよい。判断の工程だけは渡せない
面接記録の処理工程と担い手。数値の出典:Koenecke ほか(2024)、対象はOpenAI Whisper
- 1文字起こし:AI、人が抜き取りで確認約1%に文単位の作り出しがある。結論に使う段落は録音と照合する
- 2質問ごとの整理:AI回答を質問と評価項目に結びつける。本人の言葉は書き換えない
- 3証拠の欠けを示す:AI主張だけの文はどれか。条件・取捨・行動・結果と代償のどれが欠けているか
- 4判断する:人だけ話したことと、やったことを分ける。否決項目、最も弱い層の順に見て五段階で判定し、自分の名前で署名する
AIは、証拠のない場所を見つけてくれる。結論を出せるだけの証拠があるかどうかは、人が決める。
渡してはいけない一歩は、判断である
最後の工程、つまり「本人が話したこと」を「本人がやったこと」と認め、結論を出すところは、AIに渡さない。
AIの要約には、話を丸く収める癖がある。「あのとき販路を一気に広げたんです」が、要約では「販路拡大を主導」になる。面接官は「私たち」を「私」に分けていくのが仕事だが(掘り方は「全部自分がやった」を面接でどう分解するかに書いた)、AIはその作業を逆向きにやってしまう。
流暢さにも引っ張られる。話の上手な候補者は文字起こしの分量が多く、文も整っていて、評価表のどの欄にも「中身」があるように見える。口数が少なく、言葉に詰まりながらも細部の辻褄が合う人は、紙の上では損をする。流暢さは表現力であって、やってきたことの証明にはならない。面接で私が探しているものに書いたとおり、集めるべきは出来事で、形容詞はいらない。AIはその形容詞を作るのがとても上手い。
もう一段深く言えば、人は四層で見られる。内核・パターン・装備・環境である。文字起こしにいちばん多く残るのは装備の層、つまりスキルや経歴や手がけた案件だ。内核とパターンは、失敗の語り方や、圧力のもとでの選び方のなかにある。たいていは一瞬の間や、話をそらした一言として現れる。文字起こしはそれを残すが、要約はたいてい削る。
五段階判定も同じだ。加重平均は使わず、まず否決項目、次に最も弱い層を見る。AIは平均を取るのが得意なので、項目ごとの点を足していくと、一つの層が崩れている人がそこそこの総合点に収まってしまう。
偏りについては、よく知られた前例がある。ロイター通信が2018年に報じたところでは、アマゾンは2014年から履歴書を一つ星から五つ星で採点する仕組みを開発していたが、2015年には性別に中立でないことに気づいた。モデルは過去10年間に届いた履歴書で学習しており、その多くが男性のものだった。そのため「women's」という語を含む履歴書が減点され、二つの女子大学の卒業生も評価を下げられた。チームは2017年初めまでに解散している。採用担当者は推薦結果を参照したが、その順位だけで決めることはなかったという。大企業が数年かけても偏りを取り切れなかった。汎用のモデルで面接記録を整理するとき、それが中立だと思い込まないほうがいい。
そして責任の問題がある。採否の判断は、理由を候補者に説明でき、問われたときに誰かが前に出て説明できなければならない。署名できるのは面接官であって、プロンプトではない。
録音してAIに渡す前に、日本で確認しておくこと
日本でこれをやるなら、個人情報の扱いを先に整えておく必要がある。以下は公的な資料で確認できる範囲に限っている。
個人情報保護法では、個人情報を取得したときは、利用目的を本人に通知するか公表しなければならない(第21条)。録音と文字起こしの前に、録音すること、何に使うか、いつまで保管するかを候補者に伝えておくのが、いちばん手間がかからない。
個人情報保護委員会は2023年6月、生成AIサービスの利用について注意喚起を出している。個人情報を含むプロンプトを入力するときは、利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認すること。本人の同意なく個人データを入力し、それが応答の出力以外の目的で扱われる場合は法に違反する可能性があるので、提供事業者が機械学習に使わないことなどを確認すること。この二点である。
見落としやすい点がもう一つある。職業安定法第5条の5に基づく厚生労働省の指針は、人種、民族、本籍、出生地など社会的差別の原因となるおそれのある事項や、思想・信条、労働組合への加入状況を、原則として収集しないよう求めている。雑談のなかで候補者が自分から話したことも、文字起こしにはそのまま残る。その部分は消し、評価の材料にしない。
本稿の法令・行政資料に関する記述は一般的な情報であり、法的助言ではない。実際の運用は、個人情報保護委員会・厚生労働省の最新の資料を確認し、弁護士に相談してほしい。
AIの一文ごとに、本人の発言までさかのぼる
AIが書いた「この人は〇〇をした」という文は、どれも候補者本人の発言にさかのぼれ、その出来事の条件と結果がついていること。さかのぼれない文は、すべて主張として扱い、次の面接で聞く。
こうしておけば、AIが浮かせてくれるのは整理の時間で、判断は手元に残る。署名欄に書くのも、自分の名前である。
出典(2026年10月時点)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」2023年6月2日
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
- 厚生労働省 新潟労働局「職業安定法第5条の5に基づく指針(求職者等の個人情報の取扱い)」
- Reuters(Jeffrey Dastin)「Amazon scraps secret AI recruiting tool that showed bias against women」2018年10月10日(Euronews掲載)
- Koenecke, Choi, Mei, Schellmann, Sloane「Careless Whisper: Speech-to-Text Hallucination Harms」ACM FAccT 2024
整理はAIに任せ、事実と認める一歩は人に残す。同じ考え方を競合調査に当てはめた作業表はAIで競合レポートを作る。数字は一つずつ原文まで戻すに書いた。