佐藤伸明 Nobu Sato

「ジョブ型」を名乗る会社の実態

「ジョブ型」を名乗る会社の実態

「ジョブ型」という言葉を、会社のサイトや求人票、面接の場で見かけることが増えた。日本でもようやく職務で賃金が決まるようになってきた、と読めなくもない。

数字を並べると、印象はかなり変わる。同じことを尋ねても、問い方によって割合は八割近くから一桁まで下がる(統計というのは、聞き方を変えると別人のような顔を見せる)。

同じことを測った、三つの数字

一つめは、日本生産性本部の2019年の調査だ。役割・職務給を導入している企業は、管理職層で78.5%、非管理職層で57.8%だった。これだけを見れば、日本の多くの会社はすでに職務で賃金を決めていることになる。

二つめは、経団連が2025年に会員企業に行った調査(集計対象337社)だ。ジョブ型を導入している、導入予定、または検討中の企業を合わせて26.4%。残る73.6%は導入していない。

三つめは、その26.4%の中身を見たものだ。すでに導入済みは75%で、適用範囲が「社員全員」の企業は22.9%、「一般社員(非管理職)全員」は2.4%にとどまる。多くは管理職だけに適用している。粗く掛け合わせると、社員全員にジョブ型を適用している企業は、回答企業全体の6%ほどになる。

「ジョブ型」は問い方で八割から6%まで縮み、社員全員に効いている会社は一握りだ

「職務で賃金を決める」企業の割合。上二行は日本生産性本部(2019年)、下三行は経団連(2025年、337社)。母集団が違うため差し引きはできない

日本生産性本部 2019 役割・職務給を導入
  • 管理職層
    78.5%
  • 非管理職層
    57.8%
経団連 2025 ジョブ型
  • 導入・導入予定・検討中
    26.4%
  • うち導入済み概算
    約20%
  • 社員全員に適用概算
    約6%
本物か見分ける三つの問い
  1. 01職務記述書はあるかこの一年で手が入っているか。導入企業の40.7%は定期的に更新していない
  2. 02異動すると賃金は変わるか動かないなら、賃金の根拠はまだ人にある
  3. 03降格すると降給するか下げられないなら、賃金はまだ人に付いている

言葉が先に走り、制度は後ろから追いかけている。会社の名乗りより、三つの問いで個々のポストを見る。

図1 職務・役割給の導入は管理職で78.5%(生産性本部2019年)だが、経団連2025年の調査ではジョブ型の導入・検討が26.4%、社員全員への適用は概算で約6%にとどまる。名乗りと実態の差は、職務記述書・異動・降格の三つの問いで見分けられる。

差はどこから生まれるか

差が生まれている場所は二つあると考えている。

一つは言葉だ。役割の大きさで一定の幅の賃金を決める「役割給」は日本で広く使われていて、調査では「職務給」と同じ選択肢にまとめられることが多い。そのため、職務による賃金決定が広く普及しているように見える。ただ、役割の定義はふつう職務より広く、同じ役割のなかに中身の違う仕事が入っていて、異動しても賃金が変わらないことも多い。経団連の調査でも、ジョブ型を導入した企業のうち賃金項目が「職務給」なのは55.3%で、四分の一は役割給だった。

もう一つは手入れだ。ジョブ型の前提は職務記述書で、その職務が何をし、どんな能力を求め、どんな結果に責任を持つかが書かれている必要がある。経団連の調査では、導入企業の40.7%が職務記述書を「定期的に更新していない」と答えている。一度作ったまま職務が変わっていけば、記述書は賃金の根拠にならない。

言葉が先に走り、制度が後ろから息を切らして追いかけている。差はそこにある。未導入の企業が挙げた理由も、「自社の職務・業態になじまない」50.4%、「職務を明確化しにくい」40.3%と率直だ。

本物かどうかを見分ける三つの問い

ジョブ型だと説明する会社について、私は三つのことを確かめるようにしている。

一つめ、職務記述書はあるか。最後に改訂したのはいつか。あって、この一年のうちに手が入っていれば、実際に使われていると見てよい。なければ、あるいは「入社時に一度もらった」程度なら、名前だけの可能性が高い。

二つめ、異動すると賃金は変わるか。職務で賃金が決まっているなら、大きな職務、小さな職務に移れば賃金の幅も変わる。仕事の中身だけが変わって賃金が動かないなら、賃金の根拠はまだ人にある。

三つめ、降格すると降給するか。いちばん実態が出る問いだと思う。日本では法律と判例のうえで賃金を下げることが難しく、職務型をうたいながら上がる一方という会社は少なくない。下げられないのであれば、賃金はまだ人に付いている。

三つすべてに答えられる会社は、ジョブ型を名乗る会社よりずっと少ない。

採用と競合分析での使い方

候補者の面接では、この三つの問いが、前職での等級の意味を読む手がかりになる。同じ「マネージャー」でも、本当に職務で決まる会社と年功の色が濃い会社とでは、担当範囲も報酬もかなり違うことがある。肩書きだけを並べて報酬を決めると、ずれやすい。

競合分析や人材マップでも同じことが言える。競合のサイトにジョブ型とあっても、その会社の人材を職務で口説けるとは限らない。職務で賃金が決まる会社なら報酬は見えやすく、職務を軸に話ができる。名前だけの会社では報酬が勤続年数に埋もれているので、転職で失う年功部分がどれだけあるかを見る必要がある。どの会社を競合として見るかは競合を間違えるのは、競合がいないより悪いに書いた。

賃金水準の長い推移は日本の賃金の記事にまとめている。

経団連の会員は大企業が中心で、中小企業ではさらに慎重かもしれない。生産性本部の数字は2019年のもので、同じ口径の新しい調査は見つけられなかった。二つの数字は並べて見ることしかできない。

日本のジョブ型は、そもそも米国のような形にはならず、「管理職は職務、一般社員は人」という組み合わせに落ち着くのかもしれない。そうであれば、会社が何型を名乗っているかより、個々のポストを見ることがいっそう大事になる。

ご自身の会社では、三つの問いのうちいくつに答えられるだろうか。

出典

概算値は経団連調査の各構成比を掛け合わせたもの。設問ごとに回答企業数が異なるため、規模感の目安として示した。


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