有効求人倍率は、職種で見ないと意味がない

毎月、有効求人倍率という数字がニュースになる。2026年8月は1.18倍。求職者一人に求人が1.18件、という意味で、見た目は穏やかな市場だ。
私はこの全体の数字をほとんど見ない。まったく違う二つの労働市場を、一つに均してしまっているからだ。
職種で分けると、二つの日本になる
厚生労働省は毎月、同じ倍率を職種別に公表している。2026年8月では、建設躯体工事8.25倍、保安6.99倍、建築・土木・測量技術者5.71倍、介護サービス3.89倍、自動車運転2.54倍、営業2.05倍、商品販売1.72倍、情報処理・通信技術者1.33倍、管理的職業0.81倍、事務0.37倍、一般事務0.29倍。
片方では求職者一人に求人が八件、もう片方では一件の求人に三人が並ぶ。同じ月、同じ国の話だ。
Fig.12026年8月の職業別有効求人倍率。1倍より上は企業が求人、下は人が求職。ハローワークを通った求人・求職のみ。
この図の読み方
1倍より上は、企業が人を探している側。倍率が高いほど「賃金を上げても来ない」職種になる。建設、介護、運転、保安の問題は賃金ではなく、担い手がいなくなっていることだ。働く人は高齢化し、若い人は入らず、外国人が埋めている(次の記事で書く)。
1倍より下は、人が仕事を探している側。一般事務0.29倍は、一件の求人に三、四人が応募しているということだ。教育を受け、事務職を希望する人は多く、その仕事は減っている。外資系の日本法人が営業事務や総務を募集すると応募がすぐ集まるのは、会社に魅力があるからではなく、この池がもともと満ちているからだ。
真ん中の帯がいちばん読み違えやすい。営業2.05倍は厳しく見えるが、この統計の「営業」には店頭販売から法人営業まで全部が入っている。自社の業界を理解し、法人顧客を回れる営業に限れば、倍率はこの数字よりずっと上になる。
情報処理1.33倍は、額面どおりではない
IT企業の経営者が情報処理・通信技術者1.33倍を見ると、安心するかもしれない。安心しないほうがいい。
この統計は、ハローワークを通った求人と求職だけを数えている。ハローワークに出るIT求人は中小企業の運用保守や派遣が多く、エンジニアの転職はほとんどこの経路を通らない。民間の転職サービスが公表するITエンジニアの倍率は、長く8〜12倍のあいだにある。
つまりこの図は、現場職の数字は信用してよく、専門職の数字は割り引いて読む必要がある。高度な職種ほど、ハローワークからは見えない。私自身、日本で長く採用をしてきて、職種を問わず実感は一つしかない。応募が足りない。倍率0.3の職種でも、応募は多いが、使える履歴書はやはり足りない。
採用計画への使い方
私はこの図を、三段階で使っている。
まず、採りたい職種をこの分類に当てはめ、倍率がどの帯にあるかを見る。1倍未満なら通常の採用プロセスで、予算は選考に使う。1〜3倍なら、予算は経路とスピードに使う。3倍以上なら、求人広告に期待しない。引き抜くか、育てるか、外国人を採るかのどれかになる。
Fig.2倍率の帯ごとに、採用予算をどこに置くか。
次に、同じ職種の倍率が上がっているか下がっているかを見る。介護は2015年に2.6倍、2019年に4.2倍、その後は4倍前後で戻っていない。一度3倍を超えた職種が戻った例を、私はほとんど知らない。
最後に地域を重ねる。東京と地方で倍率が倍違うことは珍しくない。東京で採れない運転手や現場責任者が大阪や福岡では採れることがあり、地方拠点を考えるときはこれを計算に入れる。
まだ確信のないところ
有効求人倍率はストックであってフローではない。積み上がった求人と積み上がった求職者の比であって、実際の採用の難しさとは別物だ。倍率0.3の職種でも、優れた人は取り合いになる。
いま採ろうとしている職種は、この図のどこにあるだろうか。
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