「どちらともいえない」は、答えになっている

従業員調査の結果が出ると、半分の設問で最も多い選択肢が「どちらともいえない」になる。海外の本社からは、これは満足なのか不満なのかと聞かれる。
私の答えは、日本ではこれはもう不満だ、というものだ。ただ、なぜそうなるかは先に見ておく必要がある。
この傾向は本当にあるのか
日本人は真ん中を選ぶ、というのは古い印象で、手に入る数字を確かめてみた。
古いほうは1995年の国際研究だ。日本、台湾、米国、カナダの高校生五千人余りが同じ57問の七段階尺度に答えた。日本の生徒は平均17問で真ん中の4を選び、米国の生徒は11.7問だった。割合にすると日本は三割、米国は二割。差はあるが、言われているほど大きくはない。
新しいほうは国土交通省が2020年に日英仏独で行った同一設問の調査だ。「中小企業で働きたいか」に「どちらでもない」と答えたのは日本52%、英国38%、フランス41%、ドイツ33%。「有名大学や大企業はキャリアの成功の証か」は日本34%、英国19%。一方「仕事のために転居するか」は日本25%、英国27%、フランス21%で、ほぼ同じだった。
Fig.1国土交通省2020年の四か国同一設問調査で「どちらでもない」を選んだ割合。前二問は日本が高く、三問目は四か国ほぼ同じ。
つまり、日本人は欧米より中間を選びやすいが、すべての設問でそうなるわけではない。差が開くのは、態度を示す必要があり、示すと角が立つか自分が見える設問だ。
真ん中には四種類の人がいる
慶應の増田真也と坂上貴之の総説は、中間選択の原因を分解している。私は従業員調査の経験から、四種類の人に分けて見ている。
一つ目、本当にどちらともいえない人。上司に満足な点も不満な点もあり、どの出来事を聞かれるかで変わる。二つ目、考えたことがない人。自分に関係がないか、真剣に考えたことがない。三つ目、言いたくない人。意見はあるが、書いても得がないと思っている。匿名でも。四つ目、設問がわからない人。英語から訳された日本語が不自然で、何を聞かれているかわからない。
この四種類はデータ上はまったく同じ「3」に見える。経営側が見つけたいのは一つ目と三つ目で、二つ目は放っておいてよく、四つ目は調査票の側の問題だ。
日本では、中立は否定である
肯定から否定までの五段階評価を、私は何度も使ってきた。日本のチームの回答はほぼ全部が肯定から中立のあいだに収まり、否定側の二段階はほとんど空になる。初めて見ると、チームの状態は悪くないように見える。何回かやって気づいた。日本では中立が否定なのだ。本当に満足している人は肯定を選び、残りの人は不満を「どちらともいえない」と書いている。
日本の職場には、態度を示すことにはコストがある、という前提がある。満足と書けば取り入っているように見え、不満と書けば責めているように見える。どちらも覚えられるかもしれない。「どちらともいえない」だけがコストのない欄になる。性格ではなく環境の話だ。退職理由の記事で書いたとおり、調査票が聞けるのは外側の二層で、本人の考えは内側の二層にある。「どちらともいえない」は、その二つのあいだの扉だ。
扉は開けられる。私のやり方は、細部を聞き続けること、それも「ある」「ない」で答えられる問いだけを使うことだ。「上司とのコミュニケーションに満足していますか」は3が返ってくる。「この一か月、上司と一対一であなたの仕事について話す機会はありましたか」は、あるかないかしかない。「前回出した提案に返事はありましたか」も、あるかないか。四つ目、五つ目の細部まで聞くと、中立だった回答は、ほぼ毎回否定に変わる。
ギャラップの一桁はどう作られているか
ギャラップが毎年出す従業員エンゲージメントで、日本はこの十数年5〜8%のあいだにいる。2025年は8%、世界平均は20%、米国とカナダは三割前後。本社がこの数字を見ると緊張する。
Fig.2ギャラップの従業員エンゲージメント、日本、2012〜2025年(三年移動平均)。破線は2025年の世界平均20%。
この指標の作り方は、一連の設問すべてに最高点をつけた人だけを「エンゲージしている」と数える、というものだ。日本人は、意欲のある人でも自分に満点をつけることが少ない。満点は自慢に見えるからだ。だから一桁のうちかなりの部分は回答の習慣であって、仕事の状態そのものではない。
日本の職場に問題がないという話ではない。この数字を米国とそのまま比べると、比べているのは二つの回答習慣だ、という話だ。
私のやり方
三つある。
一つ目、中間の選択肢を外す。四段階か六段階にして「どちらともいえない」を置かない。本当にどちらともいえない人を無理に寄せることになり、データが歪むという意見はある。私は逆だと思っている。日本では中間を残すほうが歪みが大きい。不満な人が全員そこに入ってしまうからだ。寄せられてしまう一部の人は、払ってよい代償だと考えている。
二つ目、態度ではなく出来事を聞く。態度の設問には必ず逃げ道があり、出来事の設問にはない。
三つ目、中間回答そのものをデータとして見る。どの部署の、どの設問で「どちらともいえない」が多いか。そこが、誰も口を開かない場所だ。平均点よりずっと役に立つ。組織診断では、この表をわざわざ別に出している。
まだ確信のないところ
若い世代で中間回答が減っているかどうか、信頼できる経年データを見つけられていない。また国際研究では中国や台湾の回答者も中間を選びやすいが、私が中国のチームで調査をした経験は多くなく、日本と同じかどうかは言えない。
前回の従業員調査で、「どちらともいえない」がいちばん多かった設問はどれだっただろうか。
出典
- Chen, Lee & Stevenson (1995) Response Style and Cross-Cultural Comparisons of Rating Scales Among East Asian and North American Students, Psychological Science 6(3)
- 国土交通省「市民向け国際アンケート調査」(2020年、日英仏独)
- 増田真也・坂上貴之「調査の回答における中間選択:原因、影響とその対策」心理学評論 57(4), 2014
- Gallup, State of the Global Workplace: Japan country-level data
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