佐藤伸明 Nobu Sato

組織図に載っていない人

組織図に載っていない人

組織診断の依頼を受けると、最初に渡される資料はほぼ組織図だ。誰が誰に報告するかが一目でわかる樹形図である。

見はするが、そこからは始めない。組織図に描かれているのは、会社が望む情報の流れであって、実際の流れではない。その二枚の図の差こそ、私が探しているものだ。

伝えたあとに、何が起きているのか

社長が全体会議で何かを発表する。たとえばインセンティブ制度の変更。組織図どおりなら、話は社長から部門長へ、部門長から各メンバーへと、きれいに流れるはずだ。

実際には別のことが起きる。会議が終わると、何人かが同じ人のところに集まって、どう思うかを聞く。その人が「今回は本気だ」と言えば皆そう受け取り、「様子を見よう、前もそう言っていた」と言えば、制度はその瞬間に値引きされる。

その人は組織図に載っていない。少なくとも、その位置には載っていない。だが、話がどう理解されるかを決めているのは社長ではなく、その人である。

典型的な例を見たことがある。あるチームで実際に意思決定を左右していたのは、入って間もない若手だった。役職はなく、経験も浅い。ただ、コミュニケーションの習慣が非常に良かった。誰の話も受け止め、会議のあとに一人ひとりと少し話し、自分の考えを少しずつ相手の頭の中に置いていく。数か月で、チームの風向きはその人が作るようになった。責任者が会議で決めるのは、その人がすでに廊下で決めていた方向であることが多かった。

どの会社にも、こういう人が何人かいる。私は「組織図に載っていない人」と呼んでいる。組織を診るとき、この人たちを見つけるほうが、組織図を読むよりずっと大事だ。

報告線と影響線は、どれだけ離れているか

組織診断でいちばん内側の層に、「実際の権力構造」という項目がある。書くのは集権か分権かという分類ではなく、具体的な問いへの答えだ。誰が決められるか、誰が止められるか、報告線と影響線はどれだけ離れているか。

報告線は組織図に描かれている線。影響線は、何かあったときに人が実際に相談しに行く相手だ。二つが重なっている会社は少ない。

CEOMgrMgrMgr報告線(組織図に描かれた線)影響線(実際に相談しに行く相手)

Fig.1二本の線。報告線は紙の上に、影響線は人が実際に相談する相手に。診断で測るのは、この二本がどれだけ離れているかだ。

離れていること自体は、悪いとは限らない。新しく来た部門長の影響線が、しばらく前任者や古参のメンバーに残っているのは普通で、半年後に報告線へ寄ってきているかを見ればよい。離れたまま近づかないなら問題だ。その部門長には組織図上の箱があり、会社はその箱に給与を払っているが、決定は実際には彼を迂回している。そのとき、交代させるにせよ残すにせよ、先に影響線が誰の手にあるかを知っておく必要がある。

いちばん厄介なのは、正式な役職がなく、役職を望んでもいない人が影響線を握っている場合だ。本人は決めないが、本人の態度が他の人の決め方を決める。評価もできず、異動もさせられない。紙の上では何者でもないからだ。

どうやって見つけるか

「この会社でいちばん影響力があるのは誰ですか」とは聞かない。返ってくるのは、角の立たない答えだ。

私は意思決定の連鎖をたどる。直近の具体的な出来事を三つ選ぶ。売上に関する決定、資源配分の決定、人事の決定。それぞれを日付、当事者、結果まで落とす。そのうえで当事者からさかのぼって聞く。最初に誰に相談したか。誰の一言で考えが変わったか。誰が知ったあとで、話が進みやすく、あるいは進みにくくなったか。

売上の決定最初に誰に相談した?K誰の一言で変わった?·誰が知って話が動いた?·資源配分の決定最初に誰に相談した?·誰の一言で変わった?K誰が知って話が動いた?·人事の決定最初に誰に相談した?K誰の一言で変わった?·誰が知って話が動いた?·K = 同じ名前が二度以上出る

Fig.2三本の意思決定の連鎖をたどり、それぞれ具体的な決定に落として、当事者からさかのぼって聞く。繰り返し出てくる名前が、組織図に載っていない人だ。

三本たどって、同じ名前が二度以上出てきたら、その人だ。

聞く順番も大事になる。まずトップに、依頼の背景と本人が見ている優先順位を聞く。次に中間層と現場に、同じ出来事について聞く。最後にトップへ戻り、食い違った点を並べる。順番を逆にすると中間層が先に口裏を合わせ、聞こえてくるのは二枚目の組織図になる。退職面談でのやり方と同じで、意見ではなく出来事を聞く。

なぜ組織図はいつも彼らを落とすのか

組織設計とは、本質的に分類だからだ。製品で分ける、顧客で分ける、地域で分ける。どの分け方も、誰かを箱に入れ、何かを箱と箱の間に押し出す。「分類は運命を決める」でジリアン・テットの本を借りて書いたとおり、ソニーの二つの事業部が互換性のないプレーヤーを別々に出したのは、誰かが愚かだったからではなく、箱がそこに引かれていたからだ。

組織図に載っていない人は、たいてい箱と箱の間に立っている。両側のことを知っているから、両側の人が聞きに来る。その位置には名前がない。だから組織図に載らない。

中間層も、人が落ちる場所だ。診断で見る脱線の型の一つに「良い話だけを上げる」がある。情報が中間層で濾過される。濾す人は悪人ではなく、上に言うべきでない話があると思っているだけだ。ただ、上に届いた話から何が削られたかを、トップは永遠に知らない。組織図に載っていない人の中には、この濾過器の役割をしている人がいる。

わかったあと、どうするか

見つけるのは、処分するためではない。多くの場合、彼らは会社を回す潤滑油で、彼らがいなければ組織図の線はそもそも機能しない。

できることは三つある。

一つ目。大事な話を発表する前に、先に伝えておく。取り込むのではなく、事実を認めるということだ。どうせ彼らが解釈する。あとから受け身になるより、先に理由を理解してもらうほうがいい。

二つ目。部門長を替えようと考える前に、影響線を見る。影響線がもともとその人の手になければ、替えても問題は解けない。影響線は元の場所に残る。

三つ目。組織を設計するとき、箱と箱の間に一つ席を用意する。部門横断の調整役として正式に任命する会社もあれば、任命はしないが等級と報酬で認める会社もある。どちらでもよい。いちばん悪いのは認めないことで、その人はいずれ辞め、両側の知識を持って出ていく。

会社が大きくなったら

こうした人の影響力は、会社の規模で変わる。五十人の会社なら一人か二人で空気が決まる。五百人の会社では部門ごとにそれぞれいて、互いにぶつかりもする。三本の連鎖をたどって見つかるのは、そのうちの数人だ。

やり方は変えていない。全員を洗い出そうとはせず、通したい決定ごとに、その結果を左右できる一人か二人を先に見つけて、力を貸してもらう。決定が違えば、その人も違う。組織図はこの問いに答えられないが、意思決定の連鎖は答えてくれる。

皆さんの会社で、何かあったときに皆が最初に相談しに行く人は、組織図のどこにいるだろうか。


記事にするほどではない日々の気づきは、LinkedIn に書いています。LinkedIn をフォローする

日本市場での立ち上げについて、三言語で書いています。