佐藤伸明 Nobu Sato

人材紹介の手数料は、なぜ年収の三割台なのか

厚生労働省 職業紹介事業報告 2024年度

目次5
  1. 統計は何を数えているのか
  2. 法律は手数料をどう決めているか
  3. 平均103万円と、請求書の200万円の距離
  4. 三割台は何の対価なのか
  5. 払う側はどこを読めばいいか

人材紹介の手数料は理論年収の30〜35%。採用の現場では誰もが知っている数字だが、出どころを聞かれると意外に答えにくい。法律が決めているわけでもないし、政府がこの比率を集計しているわけでもない。厚生労働省の報告と公開されている手数料表をたどると、届出をしなければ法律上の上限は年収の7%台、統計上の平均単価は103万円で、三割台は各社が自分で届け出た値段だと分かる。

統計は何を数えているのか

政府が持っているのは手数料の「率」ではなく「総額」である。厚生労働省は毎年、すべての職業紹介事業者に「職業紹介事業報告」を出させ、求人数、新規求職申込件数、就職件数、手数料収入を集計している。一件ごとに年収の何%を取ったかは聞いていない。

最新は2024年度(2024年4月〜2025年3月)分の速報で、2026年3月31日に公表された。有料職業紹介の常用就職件数は888,993件、常用就職に係る手数料は約9,136億円。厚生労働省はこの二つを割って、常用就職1件あたり約103万円(前年度比10.9%増)と示している。

分母の中身には注意がいる。「常用」は期間の定めのない雇用か、4か月以上の期間を定めた雇用を指す。正社員だけでなく半年や1年の契約社員も入るし、医療・介護・保育の紹介も同じ箱に入っている。求人広告や自社サイト経由の採用は、そもそもこの報告の外にある。

103万円は、いろいろな取引を混ぜた平均値である。自社のポジションの相場として読むものではない。

法律は手数料をどう決めているか

職業安定法第32条の3は、有料職業紹介の手数料に二つの方式を用意している。

一つは「上限制手数料」で、届出はいらない代わりに天井がある。紹介した人に支払われた賃金の11.0%(免税事業者は10.3%)まで。期間の定めのない雇用で6か月を超えて働いた場合は、6か月分の賃金の11.0%か、賞与など臨時の賃金を除いた6か月分の賃金の14.8%か、大きいほうになる。2019年10月、消費税10%への引き上げに合わせて今の数字になった。

いちばん単純な例で計算してみる。年収600万円、賞与なし、無期雇用。6か月分の賃金は300万円、その14.8%は44.4万円で、年収の7.4%にあたる。

もう一つが「届出制手数料」で、手数料表をあらかじめ厚生労働大臣に届け出れば、その額を取れる。率の上限は法律にない。表の内容が不明確だったり、特定の人を差別的に扱っていたりすれば、大臣が変更を命じることができる、という仕組みである。

中途採用の紹介会社は、ほぼこちらを使っている。届け出た手数料表は厚生労働省の「人材サービス総合サイト」で公開されていて、誰でも読める。そこに届け出られた手数料表を見ると、理論年収の30%、35%、40%といった率が並び、年収1,000万円未満は35%、以上は40%と段階を設けた表もある。請求書の数字の出どころは、ここである。

届出なしで取れる上限は年収の7%台。公開された手数料表には30〜40%と書いてある

手数料が年収に占める割合(%)。上限制は無期雇用・年収600万円・賞与なしの試算(6か月分賃金の14.8%)。届出制は厚生労働省「人材サービス総合サイト」で公開されている手数料表4件(理論年収基準、2026年11月閲覧)

上限制手数料 届出不要、天井あり
  • 法定の上限年収600万円の試算
    7.4%
届出制手数料 届け出た表のとおり
  • 手数料表 A
    30%
  • 手数料表 B
    35%
  • 手数料表 C1,000万円以上は40%
    35%
  • 手数料表 D
    40%

三割台は法律の数字ではない。各社が届け出た値段で、読めるし比べられる。

図1 厚生労働省の上限制手数料で計算すると、年収600万円・賞与なしの無期雇用者の上限は年収の約7.4%(44.4万円)であり、人材サービス総合サイトで公開されている届出制の手数料表4件は理論年収の30%、35%、35%(1,000万円以上は40%)、40%だった。

平均103万円と、請求書の200万円の距離

平均が低く出るのは、安い取引が大量に混ざっているからだ。

逆算してみる。仮に全件が35%だったとすると、103万円に対応する年収は約294万円になる。国税庁の民間給与実態統計調査では、2024年の正社員の平均給与は545万円だった。この開きは、有期契約や年収の低い職種、率の低い取引がかなりの割合を占めていることを示している。

厚生労働省は医療・介護・保育の職種別平均手数料も別に公表している。2024年度実績の全国値で、医師107.8万円、看護72.5万円、保育66.8万円、介護59.7万円。件数の多い分野が、平均を下に引っ張っている。

年収800万円の営業部長を探す会社にとって、103万円はほとんど参考にならない。統計の平均で値切ろうとしても、たぶん話は前に進まない(気持ちは分かる)。

三割台は何の対価なのか

決まった一件の手数料が、決まらなかった多数の案件の費用も背負っている。数字で見るとこうなる。

2024年度に報告を出した有料職業紹介事業所は30,561、そのうち1件以上の就職実績があったのは13,946だった。残りの16,615事業所、約54%は、一年間ひとりも決めていない。成功報酬の世界では、入社日まで請求書は出せない。それまでの母集団づくり、面談、推薦、見送りは、すべて持ち出しになる。

求人と就職の比率も見ておく。同じ年度の有料職業紹介の常用求人数は16,810,164人、常用就職件数は888,993件で、ざっと5.3%。同じ求人が何社にも出されるので、厚生労働省自身が求人数には重複計上があると注記している。それでも、受けた依頼の大半がその会社では決まらない、という向きは変わらない。

もう一つは返金だ。返戻金の規定も人材サービス総合サイトで公開されている。公開例には「入社後1か月以内の離職で80%、3か月以内で50%」「30日以内75%、60日以内50%、90日以内25%」といった形がある。2018年1月からは、返戻金制度の有無と内容、無期雇用で就職した人のうち6か月以内に解雇以外の理由で辞めた人数の公開が義務になっている。ただし返戻金制度そのものは義務ではなく、厚生労働省の表現は「設けることが望まれる」である。

成功報酬と、数か月分の返金リスク。三割台という値段は、この二つの上に乗っている。決まらなければ払わなくてよい保険料、と考えると少し見え方が変わる。

払う側はどこを読めばいいか

判断の軸は、そのポジションが一か月空くといくら失うかだと思う。

受注を左右する営業責任者や、製品の立ち上げが止まっているエンジニアの席なら、三か月の空席は200万円より高くつくことが多い。こういう席に紹介会社を使うのは筋が通っている。逆に、毎年何人も採る定型的な職種に毎回三割台を払うのは、予算の置き方としてもったいない。転職者のうち紹介会社経由は1割に満たないという話は、転職者の入職経路、人材紹介は1割。残り9割はどこから来るかに書いた。

使うと決めたら、契約前に「理論年収」の定義を確認したい。賞与の見込み、固定残業代、各種手当を含めるかどうかで、基準額は一、二割動く。返戻金の条件も、期間と率だけでなく、自己都合退職と解雇で扱いが同じかまで読む。率そのものは、届け出た表に従うのが原則なので、まず表の書き方を確かめることになる。年収で率が変わる表もある。専任での依頼や複数ポジションの一括依頼は、条件の相談を切り出す材料になる。

手数料は採用コストの一部でしかない。社会保険料や通勤費まで入れると、一年目の一人あたりコストは給与の1.5倍前後になる。その計算は一人雇うと、給与の何倍かかるかにまとめてある。

三割台という数字は業界の常識として語られがちだが、実際には一枚一枚の届出書類である。常識は疑いにくい。書類なら、読める。


日本市場での立ち上げについて、三言語で書いています。