佐藤伸明 Nobu Sato

組織率16%でも、春闘が日本の賃金を決めている理由

分母から読む労働組合基礎調査

目次4
  1. 16.0%は、何を何で割った数字か
  2. その16%は誰なのか
  3. 組織率16%で、なぜ春闘が基準になるのか
  4. 組合のない日本法人は、どの線に引かれているのか

労働組合の推定組織率は、2025年に16.0%まで下がった。雇われて働く人の六人に一人しか組合員ではない。それでも春闘は、2026年に平均5.01%、3年連続で5%を超える賃上げを引き出し、組合のない会社も同じ方向に動いた。六人に一人の制度が、なぜ日本全体の賃金の基準でいられるのか。まず16.0%が何を数えた数字なのかから見ておきたい。

16.0%は、何を何で割った数字か

組合が申告した組合員数を、労働力調査の雇用者数で割った数字である。厚生労働省は毎年6月30日現在で「労働組合基礎調査」を行う。2025年は労働組合数22,244、組合員数992万7千人。これを総務省「労働力調査」6月分の雇用者数6,205万人で割ると、推定組織率16.0%になる。

口径で押さえておきたいことが二つある。分子には国家公務員法・地方公務員法上の職員団体も含まれ、民間企業だけの数字ではない。分母はすべての雇用者で、パート、アルバイト、派遣も入る。分母が広いぶん、率は低く出る。

推移を見ると、1949年は55.8%で、雇用者の半分以上が組合員だった。そこから下がり続け、2003年に19.6%と初めて2割を切り、2025年の16.0%は調査史上の最低である。

ただし、2025年の組合員数は前年より1万5千人増えている。率が下がったのは分母のほうが速く伸びたからで、雇用者は一年で66万人増えた。組合が縮んだというより、雇われる人が増え、その大半が組合に入っていない、というのが正確なところだ(統計の分母というのは、たいてい分子より元気がいい)。

その16%は誰なのか

大企業の正社員と、増えつつあるパートタイム労働者である。

民営企業を規模別に見ると、1,000人以上の企業の組織率は38.7%で、組合員596万7千人は民営の組合員全体の68.3%を占める。100〜999人は9.9%、99人以下は0.7%。日本の企業の九割九分は中小企業だと以前書いたが、その中小企業に組合はほとんどない。

産業別では、複合サービス事業52.5%、電気・ガス・熱供給・水道業49.0%、金融業・保険業46.4%、公務28.1%、製造業26.4%、卸売業・小売業16.4%、宿泊業・飲食サービス業11.0%、医療・福祉5.3%。電力、銀行、工場、役所。これが16%の中身である。

働き方で見ると、パートタイム労働者の組合員は149万4千人で前年比2.1%増、組合員全体の15.1%を占め、どちらも過去最高を更新した。パートタイム労働者自身の組織率は8.8%。女性の組合員は354万5千人で、女性の組織率は12.3%だ。

最後に旗印で見る。連合の組合員は682万2千人で、全組合員の68.7%。雇用者6,205万人で割ると、およそ11%になる。毎年の春闘で要求を掲げ、回答を集計している主役は、雇用者の一割強を代表する組織である。

16%は平均で、千人以上の企業では四割近く、百人未満では1%に満たない

推定組織率(%、労働組合員数÷労働力調査の雇用者数)。企業規模別は民営企業。厚生労働省「令和7年労働組合基礎調査」、2025年6月30日現在

外資の日本法人の多くが入る区分その他

全体
  • 雇用者全体992.7万人 ÷ 6,205万人
    16.0%
企業規模別 民営企業
  • 1,000人以上組合員の68.3%がここ
    38.7%
  • 100〜999人
    9.9%
  • 99人以下
    0.7%
属性別
  • 女性
    12.3%
  • パートタイム労働者組合員の15.1%、過去最高
    8.8%

労働組合は大企業の制度である。百人未満の会社でも、賃上げの基準は春闘から来る。

図1 日本の推定組織率は2025年に16.0%だが、民営企業では1,000人以上が38.7%、100〜999人が9.9%、99人以下が0.7%で、パートタイム労働者の組織率は8.8%、女性は12.3%だった(厚生労働省「令和7年労働組合基礎調査」)。

組織率16%で、なぜ春闘が基準になるのか

春闘が最初から、組合のない人の相場をつくる仕組みとして設計されていたからだ。その形は七十年あまり変わっていない。

春闘は1955年、総評系の八つの産業別組合が共闘して始まった。賃上げ交渉を毎年春に集中させ、業績のよい産業が先に数字を出し、それが外へ広がる。日本大百科全書は「春闘相場」について、組合の組織率が低い中小企業や地場産業が賃上げ額を決める目安としての社会的機能を持った、と書いている。組合は自分の賃金を交渉しているのだが、結果として市場全体に値段を告知している。

その告知は、今はどう伝わるのか。経路は三つある。

一つ目は、経営者の机に直接届く相場である。厚生労働省の2025年「賃金引上げ等の実態に関する調査」は、常用労働者100人以上の民営企業が対象だ。このうち労働組合がある企業は22.0%、100〜299人では15.7%にすぎない。それでも91.5%の企業が賃金を引き上げ、改定率は平均4.4%だった。改定で最も重視した要素は、企業の業績41.7%、労働力の確保・定着17.0%、世間相場7.7%、親会社や関連会社の動向5.9%。業績と確保・定着の後ろに立っているのは、春闘の数字を手にした社員と候補者である。

二つ目は、最低賃金へ伝わる経路だ。2026年度の地域別最低賃金は全国加重平均1,177円で、前年度から56円、約5.0%上がった。中央最低賃金審議会の目安審議で、労働者側は「全体では3年連続で5%を上回る賃上げ」を根拠に挙げ、使用者側は小規模企業の賃金改定状況調査を見ていた。春闘が先に数字を出し、最低賃金が後を追う。時給で働く人の賃金も、こうして春闘につながる。

最後は、大企業グループの中を下りていく経路である。1,000人以上の企業で38.7%という組織率が引き出した回答は、グループ内の賃金制度を通じて子会社や関連会社に降りる。先の調査で「親会社の動向」と答えた5.9%が、この道だ。

だから16%と5%は矛盾しない。16%は交渉に参加している人の割合で、5%は交渉結果が及ぶ範囲の数字である。測っているものが違う。数字で見る日本で繰り返し書いてきたのは、この一点に尽きる。

組合のない日本法人は、どの線に引かれているのか

候補者、最低賃金、親会社の三本である。

外資の日本法人の多くは99人以下で、上の数字に従えば組合がある確率は1%に満たない。交渉相手は現れないが、数字は勝手に入ってくる。3月中旬の集中回答日を過ぎると、候補者の頭の中の下限が更新され、在籍している社員もニュースで同じ数字を見ている。7月末には中央最低賃金審議会の目安が出て、10月以降順次発効し、店舗や倉庫の時給が動く。親会社が日本にほかの法人を持っていれば、グループの改定率は予算より先に届く。

連合は有期・短時間・契約等で働く人について、2027年は7%を目安に、少なくとも最低賃金の引き上げ率を上回る賃上げを求めている。自社のパート社員がこの数字を知っているとは限らない。ただ、パートの採用で競合する会社は知っている。

私が勧めるのは地味な習慣で、毎年7月に出てくる数字を続けて見ることだ。7月初めの連合最終集計で全体と中小の二段を見る。7月末の厚生労働省による主要企業の妥結状況を見る。同じ7月末の最低賃金の目安を見る。ここまでそろえば、来期の人件費の幅はそこで決まる。年末まで待って推測する必要はない。

確信の持てないことも書いておく。春闘の錨は大企業の組合だが、その錨自体がゆるんでいる。1,000人以上の企業の組織率は一年で40.0%から38.7%へ1.3ポイント下がり、組合員の増加はパートタイム労働者が支えた。労働組合は「大企業の正社員とパート」の組み合わせに変わりつつある。十年後もこの集団が日本全体の値付けを続けられるのか、私には答えがない。いま確かなのは、2027年に彼らが6%を掲げ、その数字がすでに組合のない会社の予算に向かって歩いている、ということだけである。


日本市場での立ち上げについて、三言語で書いています。