数字で見る日本
労働分配率、大企業47%・小規模82%。規模で34ポイント開く
まず資本金で比べる。業種の比較は口径に注意
佐藤伸明約8分
来年度の予算を組む季節になると、本社から決まって同じ質問が来る。日本の人件費は、稼ぎの何割が普通なのか。公式の答えは一つある。財務省の法人企業統計で、2024年度の労働分配率は全産業で64.2%だった。企業が生み出した付加価値のうち、64円が人に払われ、36円が家賃と利息と税と利益に回った計算だ。ただし、この64.2%をそのまま自社の予算に使うと、たいてい外れる。中身を割ると、資本金10億円以上の会社は47.3%、1千万円未満の会社は81.5%で、同じ国の同じ年度に34ポイントの開きがある。経済産業省の調査で製造業、卸売業、小売業を比べると、業種の差は3ポイントほどしかない。
労働分配率は、何を何で割った数字か
分子は人件費、分母は付加価値である。財務省の定義では、付加価値は人件費、支払利息等、動産・不動産賃借料、租税公課、営業純益の五つを足したもので、人件費は役員給与、役員賞与、従業員給与、従業員賞与、福利厚生費の合計だ。売上高で割った数字とは別物で、2024年度の売上高に対する人件費の比率は13.6%にすぎない(労働政策研究・研修機構が法人企業統計から算出)。本社の「稼ぎの何割か」という質問に答えるときは、分母を売上と付加価値のどちらにするかを先に決める必要がある。
数えられているのは、金融業と保険業を除く営利法人である。法人企業統計の年次別調査は標本調査で、2024年度の母集団は304万4,511社。そのうち資本金10億円以上は4,622社しかなく、1千万円未満が215万2,605社と、数の上では小さな会社が七割を占める。「全産業64.2%」は会社の数で平均した値ではなく、金額を足し合わせた比率なので、付加価値の大きい大企業の影響が強く出る。
もう一つ、分子に役員の給与と賞与が入っていることは覚えておきたい。社長が一人で回している会社では、利益の多くが役員給与という形で払われる。その分は人件費に数えられ、労働分配率を押し上げる。小さな会社ほど分配率が高く見える理由の一部は、この定義にある。
同じ「労働分配率」に、官庁ごとに別の数字がある
やっかいなのは、同じ2024年度の日本で、同じ言葉に三つの公式の数字があることだ。財務省の法人企業統計で64.2%。内閣府の国民経済計算で、国民所得に占める雇用者報酬の割合として69.5%。経済産業省の企業活動基本調査では46.6%。いちばん高い数字といちばん低い数字で、23ポイント違う。
違いは分母と対象にある。国民経済計算は国全体の所得で、法人以外の個人事業や政府も含む。企業活動基本調査は従業者50人以上かつ資本金3,000万円以上の会社だけを対象にし、分子は給与総額、分母の付加価値額には減価償却費も入る。大きな会社だけを数え、分母を広く取れば、比率は下がる。どれも間違いではない。ただ、新聞の見出しで「労働分配率」を見たときは、どの役所の数字かを確かめないと、前年との比較にもならない。
業種より、資本金の大きさで開く
法人企業統計を資本金の規模で割ると、2024年度の労働分配率は10億円以上で47.3%、1億円以上10億円未満で62.8%、1千万円以上1億円未満で74.4%、1千万円未満で81.5%だった。全規模の64.2%は、大企業と中小企業のあいだのどこかにある数字であって、どの会社にも当てはまる数字ではない。
業種の差は、測れた範囲ではこれより小さい。経済産業省の企業活動基本調査で業種別に見ると、2024年度は合計46.6%に対して製造業45.9%、卸売業43.7%、小売業46.7%。幅は3ポイントである。対象は従業者50人以上の会社で、比べているのもこの3業種だけなので、業種差の全体像まではこの数字では分からない。それでも、この範囲で見る限り、製造か小売かより、資本金が1千万円か10億円かのほうが、はるかに大きく効いている。
労働分配率を動かすのは業種より資本金の大きさで、10億円以上47%、1千万円未満82%
上:財務省「法人企業統計」2024年度、人件費÷付加価値(%)、金融業・保険業を除く。下:経済産業省「企業活動基本調査」2024年度、給与総額÷付加価値額(%)、従業者50人以上かつ資本金3,000万円以上の会社
資本金1千万〜1億円の法人の基準そのほか
- 10億円以上4,622社47.3%
- 1億〜10億円26,411社62.8%
- 全規模64.2%
- 1千万〜1億円860,873社74.4%
- 1千万円未満2,152,605社81.5%
- 卸売業43.7%
- 製造業45.9%
- 合計46.6%
- 小売業46.7%
予算の基準には、業種平均より自社と同じ規模の数字を取る。資本金1千万〜1億円の日本法人なら74%。
時間の軸でも見ておく。全規模の労働分配率は2015年度の67.5%から2019年度68.6%、コロナの2020年度に71.5%へ跳ね、そこから2021年度68.9%、2022年度67.5%、2023年度65.1%、2024年度64.2%と4年続けて下がった。分配率は景気が悪くなると上がる。分母の付加価値が先に縮み、分子の人件費はすぐには減らないからだ。2024年度の64.2%は、賃上げの年に下がった数字で、人件費の伸びより付加価値の伸びのほうが大きかったことを意味する。
規模別に見ると、10億円以上は2020年度の57.6%から2024年度の47.3%へ10ポイント下がり、1千万円未満は2021年度に91.0%まで上がったあと81.5%に戻った。1千万円未満の会社は、コロナの二年間(2020年度86.5%、2021年度91.0%)、稼いだ付加価値の9割前後を人に払っていたことになる。
なぜ小さい会社ほど高いのか
答えは、分母の側にある。小さな会社は人件費を多く払っているから分配率が高いのではなく、人件費以外の取り分、つまり利益が薄い。中小企業庁の2026年版中小企業白書は、付加価値に占める営業純益の割合を2024年度で大企業36.0%、中小企業9.5%と示し、中小企業の賃上げ余力は大企業に比べて小さいと書いている。利益が薄ければ、残りはほぼ人件費になる。
一人当たりの付加価値も違う。同じ白書によれば、従業員一人当たりの付加価値は2024年度に大企業1,935.1万円、中小企業(資本金1千万円以上1億円未満)665.6万円で、3倍近い差がある。装置や仕組みで稼ぐ会社と、人の時間で稼ぐ会社の差だ。人の時間で稼ぐ会社は、売上が伸びると人件費も同じ比率で伸びる。分配率は構造的に高くなる。
そして前に書いた役員給与の問題がある。資本金1千万円未満の215万社の大半は小さな会社で、社長が利益を役員給与として取る形は珍しくない。この分は定義上すべて人件費なので、81.5%という数字には「本当は利益だったもの」がかなり混じっている。小規模企業の分配率が高いのは、従業員の待遇がいいからだとは限らない。
日本法人の予算で、どの数字を基準にするか
外国企業の日本法人が自社の労働分配率を計算すると、最初の二、三年はたいてい100%を超える。付加価値そのものが小さいか、営業純益がマイナスだからだ。この段階で「64%が平均だから高すぎる」と本社に言われても、比べる相手が違う。立ち上げ期は分配率を見るより、日本進出初年度の予算は、なぜ半分も超過するのかで書いたように、人の到着月と売上の立つ月を先に合わせたほうがいい。
売上が立ってからの基準は、自社と同じ規模の数字を取る。資本金1千万円以上1億円未満の日本法人なら74.4%、1億円を超えるなら62.8%。業種平均を探すより、この二つの数字のほうが、自社の実態に近い。全産業の64.2%は大企業の重みで下がった平均で、20人の会社がそこに収まるとしたら、よほど利益率が高いか、人を足りない人数で回しているかのどちらかだ。
比べるときは、分子をそろえる。法人企業統計の人件費には、法定福利費を含む福利厚生費が入っている。給与明細の額面だけを分子に置くと、分配率は見かけ上10ポイント前後低くなる。一人雇うと、給与の何倍かかるかで書いた、給与の上に乗る会社負担をそのまま分子に入れる。役員給与も同じで、日本法人の社長の給与を本社が払っている場合、日本側の分配率は同規模の日本企業より低く出る。本社が「日本は効率がいい」と喜ぶ前に、その分を足して比べたい。
分配率は結果の数字で、目標にすると歪む。付加価値を増やさずに分配率を下げる方法は、人件費を削ることしかない。賃上げの年に分配率が下がったのは、分母が分子より伸びたからで、人件費を抑えたからではない。日本法人の予算で見るべきは、分配率そのものより、来年の付加価値が人件費の伸びを上回る見込みがあるかどうかだと思う。その見込みが立たないなら、人件費の比率をいじっても仕方がない。問題は売る側にある。
出典(2026年10月時点)
- 財務省「法人企業統計調査」年次別調査 結果の概要(付加価値・人件費の定義は令和6年度概要 第7表注)
- 厚生労働省 中央最低賃金審議会 目安に関する小委員会(第2回、2026年7月10日)参考資料No.1「法人企業統計による資本金規模別労働分配率」(2015〜2024年度、財務省「法人企業統計」より作成)
- 労働政策研究・研修機構 主要労働統計指標「企業経営、分配率」(売上高人件費比率は法人企業統計、労働分配率は内閣府「国民経済計算」から算出)
- 経済産業省「2025年企業活動基本調査(2024年度実績)速報の概要」(2026年1月29日)
- 中小企業庁調査室「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」(2026年6月、RIETI BBLセミナー資料)
- 中小企業庁「2026年版 中小企業白書」第1部(労働分配率の推移(企業規模別)、付加価値額の構成要素)