組織と採用
マシュマロ・テスト再検証:一つの特性で人は読めない
一つの特性で人を読む面接の先祖
佐藤伸明約8分
面接のあとの評価会議で、「あの人はストレス耐性が高そうだ」という一言が、配属と年収を決めてしまうことがある。根拠は、三十分の会話のなかの、一つか二つの受け答えだ。この習慣の遠い先祖にあたるのが、マシュマロ・テストである。四歳のときに目の前のお菓子を我慢できた子は、のちに成功する。半世紀のあいだ、そう語られてきた。2018年、九百人あまりの子どもで追試が行われた。待てた時間と十五歳時の成績の関係は、元の研究の半分になり、家庭環境を揃えるとさらに三分の二が消えた。
元の実験は、何人の話だったのか
三十数人の話だった。ウォルター・ミシェルがスタンフォード大学附属の保育園で行った実験そのものには六百人あまりの幼児が参加している。ただ、「我慢できた子は成功する」の根拠になった1990年の追跡研究(Shoda、Mischel、Peake、Developmental Psychology誌)で連絡がついたのは653人のうち185人、SATの点数まで集まった子どもは三十数人だった。その三十数人のなかで、四歳時の待ち時間とSAT数学の相関係数が0.57、言語が0.42だった。
大学附属の保育園なので、親の多くは研究者か大学院生である。サンプルの輪郭は、はじめからかなり偏っていた。
広まった話からは、この輪郭が抜け落ちている。残ったのは「自制心は特性であり、四歳で測れて、一生ついて回る」という一文だけだ。経営書、面接官研修、子育ての本。みな、この一文を証拠として使ってきた。
2018年の追試で何がわかったのか
特性に見えていたものの大半が、環境だとわかった。Tyler Watts、Greg Duncan、Haonan Quanの三人が2018年にPsychological Science誌に発表した研究は、米国国立小児保健発達研究所の長期追跡データを使っている。子どもは四歳半で同じ待ちのテストを受け(上限は七分)、十五歳で学業成績と行動を測る。有効な標本は918人だ。
元の研究の「高学歴の家庭」と対照させるため、著者らは母親が大学を出ていない552人を中心に分析した。結果は三段階になる。
何も統制しないと、四歳で一分長く待てた子は、十五歳の成績が0.24標準偏差高い。この時点で、元の研究の半分ほどだ。
家庭の背景、四歳時点の認知能力、家庭環境を統制すると、0.08標準偏差まで下がる。およそ十分の一標準偏差で、三分の二が消えた計算になる。
四歳時点のほかの能力まで同時に統制すると0.05になり、統計的に有意でなくなる。
行動のほうは、もっとはっきりしている。待てた時間と、十五歳時に母親が報告した行動上の問題とのあいだには、統制する前からほとんど関係がなかった。
家庭環境を揃えると、四歳の待ち時間が十五歳の成績を予測する力は十分の一標準偏差しか残らない
左:一分長く待つことに対応する成績の差(標準化係数)。1990年はSAT数学との相関係数、三十数人。2018年は母親が大卒でない552人、十五歳の学業成績。右:環境を変えたときの平均待ち時間、28人、上限15分。Shodaら(1990)、Wattsら(2018)、Kiddら(2013)
- 元の研究 1990SAT数学、三十数人0.57
- 2018 統制なし552人0.24
- 2018 家庭背景と四歳時の認知能力を統制0.08
- 2018 同時点の能力も統制有意でない0.05
- 約束が守られた14人中9人が15分待った12分2秒
- 一度裏切られた14人中1人3分2秒
測っていた「特性」の大半は、環境だった。一つの特性で一生を予測する根拠は、もうない。
著者らの結論は抑えたものだ。子どもの待つ力だけを変え、より広い認知や行動の能力を変えない介入は、のちの結果にあまり効かないだろう、と書いている。元の実験が間違いだとも、自制心が大事でないとも言っていない。「待てる」のなかに入っているものが、一つの特性よりずっと多い、ということだ。
待てる時間は、環境が半分決めている
「待つ」の中身を分解した実験が、それより前にある。2013年、Celeste Kiddらが Cognition 誌に発表した研究で、対象は28人、平均四歳半だ。テストの前に、小さな仕掛けを入れる。大人が「もっといいクレヨンを持ってくる」と約束して、一方の群では本当に持ってきて、もう一方では持ってこない。それからマシュマロを出す。
約束が守られた群は平均12分2秒待ち、14人のうち9人が上限の15分まで待った。裏切られた群は平均3分2秒で、15分待ったのは14人のうち1人だった。
同じ四歳、同じお菓子である。違うのは、この部屋の大人は待つに値するか、という直前の学習だけだ。
会社に置き換えると、この話は珍しくない。前の職場で三年間、約束を先送りされ続けた人が、転職先で「粘りがない」と評価される。測っているのは本人の特性なのか、前の会社が教えたことなのか。面接の場では区別がつかない。
面接の中のマシュマロ
面接のマシュマロは、ストレス耐性、主体性、粘り強さ、といった名前で呼ばれている。やり方も同じで、一つか二つの質問、あるいは適性検査の一尺度から特性を一つ取り出し、それを向こう三年の働きぶりの予測に使う。
私は人を見るとき、四層に分けている。内核、パターン、装備、環境だ。マシュマロ・テストがつまずいたのは、あとの二層である。元の研究は待ち時間を全部、内核の手柄にした。四歳時点ですでにあった認知能力(装備)と、家に本があるか、大人が約束を守るか(環境)を、計算に入れていない。追試がその二層を戻したら、内核に残った信号は小さかった。
面接でも同じことが起きる。候補者が圧力のもとで見せた反応には、本人のパターンもあれば、前の上司が残していったものもある。だから面接で見えた「特性」は、まず主張として記録し、事実にはしない。過去の行動のなかに証拠を探しにいく。書類選考のあと、面接で私が探しているものに書いたやり方は、この追試を読んだあとも変わらなかった(変えずに済んで、少しほっとしている)。
一つの特性は、足切りには使える。順位づけには使えない
2018年の論文には、主結論より使える細部がある。552人のうち23%は、20秒も待てなかった。予測力の大半は、この線から来ている。20秒から二分まで待てた子でも、統制前の数字で、20秒待てなかった子より十五歳の成績が三分の一標準偏差ほど高い。ところが、二分待った子と七分待ち切った子を比べると、背景を統制したあとでは有意な差がない。
このテストが分けられるのは、いちばん下の一群だけだった。その上の順位は分けられない。
人と職位は合うのか:五段階判定で書いた使い方と、ちょうど重なる。一つの特性の検査は、否決には使える。20秒も待てない人を任せられない職位は、たしかにある。しかし残った人に順位をつけ、「二分の人」のなかから「七分の人」を選び出す目的には、データが応えてくれない。面接官がいちばんやりたがるのは、残念ながら後者のほうだ。
費用の話も添えておく。一人雇うと、給与の何倍かかるかで書いたとおり、採用一人にかかる費用は年収の1.2倍から1.5倍になる。年収800万円の管理職なら、一人間違えると一千万円前後が消え、採り直しの半年が別に乗る。その一千万円を、面接の十分間の「耐性がありそうだ」に賭けている。
有名な実験との付き合い方は、管理職が引用する心理学実験、再現は36%に書いたものと変わらない。話がきれいなときほど、元の標本が何人だったかを先に見る。三十数人の研究者の子どもの話で、何万社の採用基準を支えるのは無理がある。
まだ確信が持てない点が一つある。追試のテストは上限が七分で、半数以上の子どもが待ち切った。いちばん長く待てる子どもたちは、データの上では区別がつかない。これが予測力を低く見せている可能性はあると思う。ただ、そうだとしても低く見えているのは「七分以上」の順位の部分で、下の20秒の線は動かない。面接官が持ち帰るべきなのは、その線のほうだ。
出典(2026年10月時点)
- Watts, Duncan & Quan, "Revisiting the Marshmallow Test: A Conceptual Replication Investigating Links Between Early Delay of Gratification and Later Outcomes," Psychological Science 29(7), 2018
- Shoda, Mischel & Peake, "Predicting Adolescent Cognitive and Self-Regulatory Competencies From Preschool Delay of Gratification," Developmental Psychology 26(6), 1990
- Kidd, Palmeri & Aslin, "Rational snacking: Young children's decision-making on the marshmallow task is moderated by beliefs about environmental reliability," Cognition 126(1), 2013