エージェントから返事が来ないのはなぜか

転職を考え始めて、スカウトをくれたエージェントに丁寧な返信を書いた。経歴も希望も書いた。それから一週間、返事がない。自分の市場価値はこの程度なのかと、少し落ち込む。そういう話を聞くことがある。
私はこれまで何社かで社内の採用担当や人事責任者として紹介会社と組んできた。RPO(採用代行)の担当として、採用サービスを提供する側に立ったこともある。採用する企業の側とサービスの側、その両方から見ると、返事が来ない理由の多くは本人の価値とは別のところにある。エージェントの仕事の仕組みを知っておくと、落ち込む回数も、無駄に待つ時間も減ると思う。
エージェントは誰からお金をもらっているのか
人材紹介会社の報酬は、採用した企業が払う。候補者は払わない。しかも多くは成功報酬で、紹介した人が入社して初めて売上になる。
職業安定法の仕組みでは、有料職業紹介事業者が求職者から手数料を取ることは原則としてできない。例外は芸能家やモデル、そして年収700万円を超える経営管理者・科学技術者・熟練技能者などに限られる(石川労働局「職業紹介事業の概要」、2026年10月時点)。企業側からの手数料は、各社が厚生労働大臣に届け出た手数料表に基づく「届出制」が一般的だ。
料率は、業界では理論年収の30〜35%あたりが相場とされる。リクルートエージェントの法人向け解説(2026年更新)は35%を一般的な設定としている(リクルートエージェント)。厚生労働省の「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」では、有料職業紹介の常用就職は888,993件、常用就職に係る手数料は約9,136億円だった(厚生労働省、2026年3月公表)。この二つを私が単純に割ると、1件あたり平均で約103万円になる(筆者の計算で、職種や年収帯の違いはならされている)。
ここから言えることは一つで、エージェントの時間は「今、決まりそうな人」に向かう。報酬の形がそうなっている以上、自然な動きだと思う。
なぜ返事が来ないのか
いちばん多い理由は、今その人に合う求人を持っていないことだ。
以前、自分が人材マップのどの円にいるかという話を書いた。企業が探すとき、まず同じ領域の人、次に隣接領域の人を見る。エージェントも同じ地図で動いている。手元の案件の真ん中の円にいる人には当日中に電話が来る。外側の円にいる人への返信は、後回しになりやすい。
案件の条件は変わる。私自身、予算の限られた中で日英バイリンガルのIT PMを半年探したことがある。日本語ネイティブ級という条件を外したら、一か月で採用が決まった。条件が一つ動けば、真ん中の円に入る人も入れ替わる。今日の無反応が、半年後もそのままとは限らない。
もう一つ、数の話もある。上の集計では、報告を出した有料職業紹介事業所は30,561あり、そのうち就職実績があったのは13,946事業所だった。半分以上は、その年度に一件も決めていない。返事が来ないのは相手の体制の問題という場合も、それなりにあるはずだ。
人材紹介とサーチは別の仕事
同じ「エージェント」でも、人材紹介とエグゼクティブサーチは動き方が違う。
人材紹介は登録者と求人を合わせる仕事で、成功報酬が中心だ。複数の紹介会社が同じ求人を同時に追うことも多い。サーチは企業から特定のポジションを任され、着手金などを受け取って、市場にいる人を一人ずつ当たっていく。サーチのコンサルタントから連絡が来るのは、こちらが特定の案件の候補リストに載ったときだ。逆に、こちらから売り込んでも動きにくい。同じ「連絡が来ない」でも、意味はかなり違う。
紹介しやすい人、外される人
エージェントが優先するのは、企業に推薦したあとで話がこじれない人だ。
具体的には、現年収の内訳がはっきりしている(基本給、賞与、残業代、手当)。譲れない条件が言葉になっている(勤務地、在宅、年収の下限、入社可能時期)。他の選考状況を正直に言う。そして返信が速い。四つとも、推薦したあとに何が起きるかを相手が読みやすくなる要素だ。能力の高さとはあまり関係がない。
年収の内訳が後から出てくると、内定の段階で話が止まりやすい。企業は提示額を基本給と賞与の配分で組み立てるので、総額だけ聞いていた担当者は、そこで計算をやり直すことになる。最初に分かっていれば、そもそも合わない案件に推薦せずに済む。候補者にとっても、そのほうが時間を失わない。
外されやすいのは、その逆になる。転職の動機が面談ごとに変わる。連絡が途中で途絶える。いちばん信頼を落とすのは、同じ企業に複数のエージェントから応募してしまう二重応募だと思う。企業側には同じ名前が二度届き、どちらの推薦として扱うかで手間が生じる。受け取る企業の人事からは、この人は自分の応募を管理できていないと見えやすい。悪意はなくても、どこに何を出したかは自分で記録しておいたほうがいい。
面接で落ちた理由の読み方は不採用通知の読み方に書いた。エージェントの沈黙も、一票否決の項目に当たったのか、単に案件がないのかで意味がまったく違う。
返事が来る5行のメッセージ
長い自己紹介は、忙しい担当者ほど読み切れない。受け取る側が動きやすいのは、だいたいこういう形だ。
1行目に今の職種と年数(例:「SaaS企業でインサイドセールスのマネージャー、3年」)。2行目に現年収とその内訳。3行目に譲れない条件を二つまで。4行目に転職の時期と、他の選考状況。5行目に、相手のどの求人やどの領域に興味があるか。
5行目が効く。「何か良い案件があれば」より、「御社が扱っている物流系SaaSの営業職に興味がある」のほうが、担当者は手元の地図に当てはめやすい。履歴書はそのあとで十分だ。
ここに書いたのは、私が見てきた一部の会社からの傾向にすぎない。紹介会社の中で担当者がどう優先順位をつけているかは、会社によってかなり違う。件数で評価される会社と、単価で評価される会社では、同じ候補者でも扱いが変わるはずだ。サーチ型の比率が日本でどのくらいあるのかも、信頼できる数字を見つけられていない。
返事が来ないことを、自分の値段だと受け取る必要はない。地図のどこに案件が立っているかは、こちらからは見えないのだから。次の一通を書くときは、5行目に相手の扱っている領域を一つ、名指しで入れてみてほしい。それだけで、担当者が手元の案件と照らし合わせる手間はかなり減る。
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