佐藤伸明 Nobu Sato

日本法人の閉じ方

日本法人の閉じ方

日本進出の話は多いが、撤退の話はあまり語られない。開店の話は誰もが聞きたがるのに、閉店の段取りを聞きたがる人が少ないのと似ている。

ある海外企業の日本法人では、事実上のトップが二人いた。本社から来た一人は日本語を話さず、現地で採用したもう一人は英語を話さない。二人は直接話すことができず、やがて現地側の一人が辞め、日本の事業は軌道に乗らなかった。こういう状態が続けば、本社はいずれ、続けるか閉じるかを決めることになる。

株式会社の解散・清算は、法定の手続きだけなら最短で約2か月半、登記と官報公告の費用は10万円に届かない。時間と費用がかかるのは、社員、契約、そして本社への資金の戻し方のほうだ。

解散・清算、休眠、売却のどれを選ぶか

日本での事業をやめるとき、選択肢はおおむね三つある。

一つは解散・清算で、会社を完全に閉じる。以下はこれを中心に書く。

二つめは休眠で、会社は残したまま事業を止める。手間が少なく見えるが、会社は存在し続けるので毎年の申告は必要だし、登記事項が変われば登記もいる。株式会社が12年間登記をしなければ、法務局によってみなし解散とされる。数年以内に再開する予定が本当にあるなら別だが、そうでなければ閉じる費用を先送りしているだけだと私は考えている。

三つめは、法人を第三者に売るか、グループ内の別会社に統合することだ。顧客、許認可、チームを持っている法人なら、先に検討する価値がある。

債務超過の場合は通常清算ではなく、特別清算や破産になる。その場合はまず弁護士に相談したい。

解散・清算の法定手続き

株式会社の通常清算は、おおよそ次の順に進む。

株主総会の特別決議で解散し、あわせて清算人を選ぶ。決議から2週間以内に、解散と清算人の登記をする。そのうえで官報に公告し、2か月以上の期間を定めて債権者に申し出を求め、知れている債権者には個別に通知する。この2か月は短くできず、清算全体の最短期間を決めているのはここだ。

並行して、解散日から2か月以内に解散確定申告をする。公告期間が終われば、債権の回収、債務の弁済、株主への残余財産の分配を行い、清算確定申告、株主総会での決算報告の承認を経て、2週間以内に清算結了の登記をする。最後に税務署、都道府県、市区町村へ届け出る。

株式会社の清算は最短でも約2か月半かかり、その長さは官報公告の2か月で決まる

株式会社の通常清算の法定手続き(会社法)。期間は最短の場合

  1. 01解散決議と登記株主総会の特別決議で解散し、清算人を選ぶ。2週間以内に登記
  2. 02官報公告・債権者への通知2か月以上の申出期間を置く。短縮できない
  3. 03解散確定申告解散日から2か月以内。公告と並行して進む
  4. 04回収・弁済・分配公告期間が終わってから、債権を回収し、債務を払い、残余財産を分ける
  5. 05清算確定申告・結了登記ここで会社が消える

法定の手続きは短く、費用も10万円に届かない。時間がかかるのは、社員、契約、資金の戻し方のほうだ。

図1 株式会社の通常清算は、解散決議と2週間以内の登記、2か月以上の官報公告、弁済と分配、結了登記の順に進み、短縮できない公告期間があるため最短でも約2か月半かかる。

法定の費用は小さい。登録免許税は解散登記が3万円、清算人の登記が9,000円、清算結了の登記が2,000円、官報公告は3.5万〜4.5万円ほどだ。弁護士、税理士、司法書士への報酬は別にかかり、たいていはこちらのほうがずっと大きい。

社会保険と労働保険の手続きもある。健康保険・厚生年金保険の適用事業所全喪届は5日以内、雇用保険適用事業所廃止届は10日以内、労働保険の確定保険料申告書は50日以内に出す。

いちばん難しいのは社員のこと

会社を解散すること自体は経営判断の自由に属する。ただ、解散に伴って社員を辞めてもらうことは、法的には解雇だ。少なくとも30日前の予告か、30日分以上の平均賃金の支払いが要る。

裁判所が見ているのは、解散が本物かどうかと、解雇の手続きに配慮があったかどうかだ。龍生自動車事件では、コロナ禍で売上が激減したタクシー会社が解散して全員を解雇し、東京高裁(2022年)は手続的配慮を欠くとはいえないとして解雇を有効とした。グリン製菓事件では、余力があるなかで解散し全員を解雇したことが解雇権の濫用とされ、大阪地裁(1998年)は無効と判断している。事業を別の器に移して続け、人だけを切る偽装解散は、なおさら問題になりやすい。

実務では、早めに、理由と時期と条件をはっきり伝えるのがよいと考えている。なぜ閉じるのか、いつ閉じるのか、社員が何を受け取れるのか、再就職にどう協力できるのか。退職条件の上乗せの要否や水準は、事前に弁護士と相談しておきたい。労働審判でも約7割が調停で終わることは労働審判の記事に書いたが、撤退の場面でも話し合いが中心になる点は変わらない。

本社からの駐在員も忘れないようにしたい。法人がなくなれば在留資格の前提も変わるので、帰国の時期とビザの扱いは早めに行政書士と確認しておく。

二つめは契約

オフィスの賃貸借契約では、解約予告期間と原状回復の条項を確認する。オフィスの契約では数か月前の予告を求めるものが珍しくなく、その間の賃料はほぼ避けられない。顧客との契約にある保守、サポート、データ保管の責任を、本社、グループ会社、パートナーのどこが引き継ぐかも決めておく。仕入先、SaaSの契約、ドメインや電話番号も、一覧にして一つずつ閉じていく。

ここには法定の期限がない。そのぶん、いちばん長引きやすい。契約が多いほど、清算は長くなる。

三つめは、お金の戻し方

清算の最後に、残った資金は残余財産の分配として株主に戻る。その前に、給与、退職条件、税金、すべての債務を払い終えている必要がある。還付や最後の入出金があるので、銀行口座はたいてい最後に閉じる。

税務では、解散確定申告と清算確定申告の二回の申告がある。残余財産の分配でみなし配当課税が生じるか、本国側でどう扱うかは、日本と本国の税理士に一緒に見てもらいたい。

進める順序

私は、逆算で並べるのがよいと思っている。最初に社員への対応と、社内外に伝えるタイミングを決める。次に契約の終わらせ方を決め、株主総会の解散決議は最後に置く。解散を登記すれば公になる。社員や取引先が登記や人づてで先に知ってしまうと、その後の話し合いはどれも難しくなる。

閉じる費用の半分は、始めるときに決まっている

振り返ると、閉じやすいかどうかの多くは、始め方で決まっている。賃貸借契約の期間、日本の基準に沿った雇用契約と就業規則、最初に誰を採ったか。最初の一人については日本法人の最初の一人に、一人を雇う本当の費用は一人雇うと給与の何倍かかるかに、採用を誤ったときのことは試用期間の記事に書いた。

この記事は株式会社の通常清算だけを扱っている。合同会社もおおむね同じだが、外国会社の日本支店(営業所)の閉鎖は別の手続きになり、債務超過なら特別清算や破産になる。税務と在留資格は会社ごとに事情が違う。法律や税務の助言ではないので、実際には弁護士、税理士、司法書士と一緒に進めてほしい。

日本法人を閉じることを考えているとしたら、最初に引っかかっているのはどこだろうか。


記事にするほどではない日々の気づきは、LinkedIn に書いています。LinkedIn をフォローする

日本市場での立ち上げについて、三言語で書いています。