転職の前に、自分を四層で見ておく

エージェントから電話が来る。年収は二割増、役職は一つ上。心が動いて、履歴書を直し始める。
採用の仕事を十数年してきて、この段階で間違える人を数えきれないほど見た。間違いは会社選びではない。先に一つの問いに答えていないことだ。過去三回の転職、本当の理由は何だったか。
アンケートの答えと本音が合わないのは、自分に対しても同じ
退職理由の記事で、退職調査の「家庭の事情」が五割近いのに、本当の理由では一割半に満たないことを書いた。人は会社にだけでなく、自分にも建前を言う。
「もっと大きな舞台で」「業界を変えたい」「給与が低い」。これは面接官向けの版だ。本当の版はたいてい、上司と合わなかった、やったことを誰も見ていなかった、毎日八時まで会議だった、のどれかに近い。
他人向けの版を自分でも信じてしまうと、次の職場で同じ場所でまた転ぶ。
四層の自己診断
私は候補者を、内核、パターン、装備、環境の四層で見ている。自分に当てるなら、重いのは一層目と四層目だ。
内核で見るのは動機だ。自律、熟達、影響、所属、安定、報酬の六つ。優劣はなく順位だけがある。見つけ方は「自分は何を大事にしているか」と自問することではない。過去三回の転職の、本当の離職理由と本当の選択理由を並べて、繰り返し出てくる二つを探す。
Fig.1三回の転職 × 六つの動機。各行に、本当の離職理由と選択理由に当たる動機を記入する。同じ列に二回以上出たものが上位二つ。例では自律と所属。
三回のうち二回が「決裁権を取り上げられた」なら、一位は自律で、本社の承認が何にでも要る会社には、年収二割増でも行かないほうがいい。三回のうち二回が「信頼できる人についていった」なら所属で、そのとき見るべきは会社ではなく次の上司だ。
環境の層で見るのは、どんなペース、どんな上司、どんなチーム構成で自分がいちばん働けるか、どんな条件で明らかに落ちるか。同じ人でも環境が変われば成果は三倍違う。この層は、良し悪しではなく、合うか合わないかの話だ。
なぜこの二層だけなのか
装備(スキル、経験、経歴)は履歴書にもう書いてあり、考え直す必要がない。パターン(負荷がかかったときの行動)は、自分で自分を見るのがいちばん当てにならないので、面接官に任せる。
内核と環境は、自分がいちばん知っていて、エージェントにも面接官にもいちばん見えない層だ。自分でやらなければ、誰もやらない。
やったあとに残るもの
短いリストが残る。次の仕事が必ず与えるべき二つと、環境として必ず避ける二つ。それを持って年収二割増の案件を見ると、答えはたいてい早い。
やってみて転職しないと決める人は少なくない。年収は横ばいでも二つの条件を満たす先に移る人もいる。どちらも、二割増のオファーを取って一年後にまたエージェントに連絡するよりはいい。
まだ確信のないところ
社会人十年未満だと転職は一、二回しかなく、標本が少なすぎる。その場合は異動、プロジェクトの変更、上司の交代も数に入れてよい。本当の離脱と本当の選択なら、どれも材料になる。
過去三回の転職の本当の理由を並べてみると、どう見えるだろうか。
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