佐藤伸明 Nobu Sato

訪日客は過去最高、宿泊の現場は人が足りない

職業別の有効求人倍率を示す棒グラフ。接客・給仕は2.31倍で職業計1.06倍の2倍超

4,268万人。日本政府観光局(JNTO)の推計による、2025年に日本を訪れた外国人の数で、過去最高だ。観光庁の速報では、その旅行消費額は9兆4,559億円、いちばん大きな費目は宿泊費で、全体の36.6%を占めた。お金がいちばん落ちている場所で、人が足りていない。数字を並べると、そういう姿が見えてくる。

ただし、人手不足を示す数字は一つではない。求人倍率、企業へのアンケート、賃金。それぞれ数えているものが違うので、同じ方向を向いているとは限らない。今回はそこを丁寧に分けて読んでみたい。

訪日客のお金はどこに落ちているのか

観光庁「訪日外国人消費動向調査」の2025年年間値(速報)によると、訪日客の旅行消費額は9兆4,559億円で、2024年の8兆1,257億円から約16%増えた。1人当たりの旅行支出は22万8,809円である。費目別では宿泊費が3兆4,617億円(36.6%)で最大、買物代が2兆5,490億円(27.0%)、飲食費が2兆711億円(21.9%)と続く。

年間値はまだ速報で、確報で多少動く可能性はある。もう一つ、これは訪日客が使った金額であって、宿泊施設の利益を示すものではない。客室単価が上がっても、人件費や光熱費がそれ以上に上がれば手元には残らない。

2026年に入ると流れが少し変わった。JNTOの推計では、2026年1〜9月の訪日客は3,073万人で前年同期比2.9%減、9月単月は310万人で5.0%減と2カ月続けて前年を下回った(2026年10月時点)。9月の中国からの訪日客は44.5%減で、JNTOは中国政府による訪日自粛の呼びかけと航空便の減少を理由に挙げている。韓国や台湾は9月として過去最高だったので、全体が崩れたというより、市場の構成が入れ替わりつつある段階だと私は見ている。

接客・給仕の有効求人倍率は2.31倍

厚生労働省「一般職業紹介状況」の2026年8月分によると、接客・給仕の職業の有効求人倍率(常用、パート含む、原数値)は2.31倍だった。有効求人7万4,982人に対して、有効求職者は3万2,495人しかいない。職業計は1.06倍なので、2倍を超える。

職業別の有効求人倍率(2026年8月、常用・パート含む、原数値)01234職業計1.06倍清掃1.12倍飲食物調理2.21倍接客・給仕2.31倍介護サービス3.89倍出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年8月分)」参考統計表6。ハローワーク経由の求人・求職のみ

Fig.1接客・給仕の職業の有効求人倍率は2.31倍で、職業計1.06倍の2倍を超える。客室清掃を含む清掃は1.12倍と、職業計とほぼ同じ水準だ。介護サービス(3.89倍)ほどではないが、宿泊の現場に近い職種ほど高い。出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年8月分)」参考統計表6(常用・パート含む、原数値)。

この数字には限界がある。まず、ハローワーク経由の求人と求職者しか数えていない。民間の求人サイトや紹介会社を使う人は入らない。次に、「接客・給仕」には旅館・ホテルのフロントや客室係だけでなく、飲食店のホールも含まれる。宿泊業だけの倍率はこの表からは取り出せない。職業別の倍率の読み方は職業別の有効求人倍率を整理した記事に書いたので、そちらも参考にしてほしい。

同じ8月分では、産業別の新規求人のうち宿泊業,飲食サービス業が前年同月比11.1%減だった。倍率は高いままだが、新しく出る求人は減っている。

「足りない」と答える旅館・ホテルは半分以下に

帝国データバンク(TDB)の「人手不足に対する企業の動向調査」で見ると、変化はもっとはっきりしている。2023年1月、旅館・ホテルで非正社員が不足していると答えた企業は81.1%、正社員は77.8%で、どちらも全業種で最も高かった。それが2026年4月には非正社員で38.5%まで下がり、2022年2月以来4年2カ月ぶりに3割台となった。

TDBは改善の理由として、DXやスポットワークの活用による効率化、物価高や中国からの訪日客減少による客足の落ち着きを挙げている。いずれも「とみられる」という書き方で、確定した要因ではない。

ここで分母を確認しておきたい。TDBの数字は「人手が不足していると答えた企業の割合」で、何人足りないかは表していない。全国1万社超の回答のうち、旅館・ホテルの回答社数はずっと少ないので、一業種の数字は振れやすい。それでも、求人倍率が2倍を超えたまま、不足と答える企業が半分以下になったという組み合わせは、なかなか興味深い。足りない状態に慣れ、少ない人数で回す仕組みを作った施設が増えた、と読むのが自然だと思う。

なぜ伸びている産業ほど人が足りないのか

まず給与明細の側から見てみる。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の2025年結果では、宿泊業,飲食サービス業の一般労働者の賃金は月27万7,200円で、産業別で最も低かった。全産業の34万600円の約8割にとどまる。

理由はいくつも挙げられるが、いちばん効いているのはこの賃金だと私は考えている。

JNTOの推計で、訪日客は2023年の2,507万人から2025年の4,268万人へ、2年で約1.7倍になった。賃金はそこまで速く上げられない。シフト勤務、繁閑の差、立地が地方に多いことも重なる。伸びている産業だからこそ、求人の数が先に増え、人が追いつかない。この点は私の解釈で、統計が直接示しているわけではない。

外国人材、自動化、そして賃金

外国人材に期待する声は多いが、数字はまだ小さい。出入国在留管理庁によると、2026年6月末時点(速報値)で特定技能1号の「宿泊」分野の在留者は2,556人、2号は57人だった。1号全体の42万5,961人の1%にも届かない。同じ時点で介護は7万9,884人、外食業は4万9,060人いる。宿泊分野の受入れ見込数は5年間で2万3,000人なので、上限よりも採用する側の準備が先に詰まっている。理由として、地方の施設が多く生活支援の負担が重いことや、フロントや接客に求められる日本語の水準が高いことが考えられるが、これは推測である。在留外国人全体の数字は外国人労働者を数字で整理した記事にまとめている。

要件を緩めると採用が動くことはある。以前、限られた予算でバイリンガルのIT PMを半年探し続け、日本語ネイティブという条件を外したら1カ月で決まったことがあった。宿泊でも、日本語の水準をどこまで求めるかを業務ごとに分けるだけで、候補者の母数は変わるはずだ。

自動化は、セルフチェックインや配膳ロボットのように一部の工程を置き換えられる。客室清掃やベッドメイクは、まだ人の手が中心だ。シーツの角をきれいに折り込めるロボットが現場に並ぶのは、もう少し先になりそうだ。スポットワークで繁忙期の穴を埋める使い方も広がっている。

日本で宿泊や観光の事業を始める企業にとって、計画の順番は人の確保から考えるのが安全だと感じている。客室数から逆算して人員を置くと、開業日に人が揃わない。宿泊施設に売る側なら、売るべきものは「1室あたり何分の作業が減るか」だろう。

正直に言えば、TDBの38.5%が本当の改善なのか、中国からの客足が鈍った一時的な結果なのかは、まだ判断がつかない。訪日客が再び増えれば、倍率も不足感も元に戻る可能性がある。だから人員計画は、38.5%より接客・給仕の2.31倍を前提に組んでおくほうが安全だと思う。

データ出典


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