数字で見る日本
年1,617時間はアメリカより短い。フルタイムは1,926時間
OECDと毎月勤労統計、誰を数えたか
佐藤伸明約8分
目次5
OECDの統計で、日本の就業者一人当たりの年間労働時間は2024年に1,617時間だった。アメリカは1,796時間、韓国は1,865時間。日本のほうが年に179時間、アメリカより短い。この表を海外の経営者に見せると、たいてい「それは本当か」という顔をされる。本当である。ただし、誰を数えた平均なのかを言わないと、この数字はほとんど何も伝えない。
1,617時間は、誰の時間を平均したのか
就業者全員の平均である。正社員もパートも、自営業も、週に数時間しか働かない人も、一人として数えて割っている。労働政策研究・研修機構(JILPT)の「データブック国際労働比較2026」に載っているOECDの系列で、日本は1990年に2,031時間、2000年に1,821時間、2010年に1,733時間、2024年に1,617時間と下がってきた。アメリカは1990年が1,878時間、2024年が1,796時間で、ほとんど動いていない。1995年には日本1,884時間、アメリカ1,886時間でほぼ並び、2000年以降は一貫して日本のほうが短い。
OECD自身が、この表に但し書きをつけている。データは各国の時系列を見るためのもので、データ源や計算方法が違うため、特定の年の水準を国の間で比べるのには向かない、と。だから「日本はアメリカより179時間短い」という言い方は、OECDの作法としては少し乱暴だ。同じ表のドイツは1,331時間で、これも分母にパートが多いことの影響が大きい。
それでも日本の数字が30年あまりで400時間以上減ったのは事実で、その中身を見ると、ある一つの変化が大半を説明する。
平均を下げたのは、パートで働く人が倍に増えたことだ
厚生労働省の毎月勤労統計(事業所規模5人以上)を就業形態で分けると、見え方が変わる。2026年10月に閣議決定された令和8年版「過労死等防止対策白書」が、その推移をまとめている。
労働者全体の年間総実労働時間は、1995年の1,910時間から2025年の1,621時間へ減った。ところが一般労働者、つまりフルタイムに近い人だけを取り出すと、1994年の2,036時間から2025年の1,926時間への減少で、31年で110時間、5%あまりしか減っていない。パートタイム労働者は1994年の1,172時間から949時間へ。そして労働者に占めるパートタイム労働者の比率が、1994年の14.4%から2025年の31.3%に上がった。
つまり、全体の平均が290時間近く下がったうちの大半は、一人ひとりの労働時間が短くなったからではない。短い時間で働く人の数が倍以上に増えて、平均を引き下げたのである。白書もこの減少の背景を、働き方改革の進展と、高齢者の労働参加が進んで短時間で働く人が増えたこと、と説明している。
国際比較の1,617時間の下に、フルタイムの1,926時間とパートの949時間が隠れている
年間総実労働時間(時間)。上段はOECD「Average annual hours actually worked per worker」2024年、就業者一人当たり(JILPT データブック国際労働比較2026)。下段は厚生労働省「毎月勤労統計調査」2025年、事業所規模5人以上の常用労働者、月間平均×12(令和8年版 過労死等防止対策白書)
フルタイムに近い「一般労働者」そのほかの平均
- 韓国1,865
- アメリカ1,796
- 日本1,617
- ドイツ1,331
- 一般労働者1994年は2,0361,926
- 常用労働者計1995年は1,9101,621
- パートタイム労働者1994年は1,172949
平均は分母で動く。海外から聞かれているのは、たぶん1,926時間のほうの話だ。
では、フルタイムで働く人は働きすぎなのか
一般労働者の1,926時間は、2019年以降7年続けて2,000時間を下回っている。年間の所定外労働は158時間、月にすると13.2時間で、前年より2%減った。この数字だけ見れば、日本のフルタイム労働者の残業は、かつて言われたほどの量ではなくなっている。
長時間の側を見るには、総務省の労働力調査のほうが向いている。週60時間以上働く雇用者の割合は、2003年から2004年の12.2%をピークに下がり続け、2025年は4.2%、人数で253万人だった。ここで分母は雇用者全体で、パートも含む。週40時間以上働く人に限ると7.7%になる。同じ白書によると、男性では30歳代と40歳代の割合が高く、2021年以降は40歳代がいちばん高い。女性では60歳以上がいちばん高い。業種では運輸業・郵便業、宿泊業・飲食サービス業、教育・学習支援業の順に高かった。
要するに、日本には週60時間以上働く人が250万人いて、その多くは30代から40代の男性で、特定の業種に集まっている。平均1,617時間の国で、この250万人は見えない。平均1,926時間の国でも、まだ見えない。
物差しを変えると、順位が逆になる
年間の平均時間で比べると、日本はアメリカより短い。ところが「長く働く人がどれだけいるか」で比べると、逆になる。
同じJILPTのデータブック(第6-3表、ILOSTATと労働力調査から)で、週49時間以上働く就業者の割合は、2024年に日本が14.2%、韓国が15.0%、アメリカが11.4%、イギリスが8.9%、フランスが8.1%、ドイツが4.4%だった。男性だけなら日本は20.4%で、アメリカの15.3%を5ポイント上回る。
二つの数字は矛盾していない。日本は、短い時間で働く人が多く、同時に長い時間で働く人も多い国である。両端が厚いから、平均するとアメリカより短く見える。アメリカは中央に人が集まっているので、平均は長いが、週49時間を超える人の割合は日本より小さい。
「日本人はアメリカ人より働かない」と「日本人は長時間労働だ」は、どちらも同じ統計から言える。どちらを言うかは、平均を見るか、分布の端を見るかで決まる。
「日本人はまだ残業しているのか」と聞かれたら
私はこう答えるようにしている。誰のことを聞いているのか、と。
パートを含めた平均なら、答えは「アメリカより短い」。フルタイムの社員なら「年1,926時間、残業は月13時間前後で、2,000時間は切った」。30代から40代の男性で、運輸や飲食、教育の現場にいる人なら「週60時間を超える人がまだ相当数いる」。三つとも正しい。相手が本当に知りたいのは、たいてい自社で雇うことになるフルタイムの社員の話なので、二番目を先に出す。
日本法人を経営する側にとって、この整理には実務上の意味がある。採用で約束する労働時間、36協定で結ぶ上限、評価で求める成果の量。候補者が頭の中で比べているのは、OECDの1,617時間ではない。同じ業種の同じ年代の人が実際に働いている時間である。平均が短い国だから残業は少なくていい、という前提で現場を設計すると、特定の年代の特定の人に負荷が寄る。それは数字の上では4.2%の中に入って見えなくなる。
もう一つ注意がある。毎月勤労統計は事業所が申告する時間で、労働力調査は本人が答える時間だ。同じ残業を測っているはずの二つの統計がどれだけ違うかは、残業は月13時間か、21時間かに書いたので、ここでは繰り返さない。1,926時間という数字も、事業所側の帳簿の数字だということだけ覚えておいてほしい。
統計の読み方としては、数字で見る日本:分母から読む統計で書いた手順そのままである。誰が数えられ、誰が外れているか。平均か、分布か。これを確かめる前に国の比較をすると、同じ表から正反対の結論が出る。
私がまだ判断しかねているのは、パートで働く人の時間が1,172時間から949時間へ減ったことをどう読むかだ。高齢者が短い時間で働くようになったのなら望ましい変化だし、もっと働きたいのに時間を与えられていない人が増えたのなら別の話になる。平均と分布を見ただけでは、そこまでは分からない。
出典(2026年10月時点)