佐藤伸明 Nobu Sato

65〜69歳の半数が働く国は日本と韓国だけ。各国の対策を比べる

各国の若者・高齢者雇用対策を比べる

目次5
  1. この数字は、誰を数えているのか
  2. 7か国のなかで、日本はどこにいるか
  3. 若者の対策は、誰が訓練の費用を払うかで分かれる
  4. 高齢者の対策は、定年をなくす国、年金を遅らせる国、企業に義務を課す国に分かれる
  5. 日本法人の制度を設計するとき、何を持ち帰るか

厚生労働省は毎年「海外情勢報告」という資料を出している。カナダから韓国、中国まで11か国の労働政策を、日本の役所の目で一国ずつ整理したものだ。2026年9月に公開された2025年版を読むと、各国が若者と高齢者をどう働かせようとしているかが、同じ棚に並んで見える。その棚に日本を置くと、少し意外な場所にいる。65〜69歳で働いているか仕事を探している人の割合は54.9%で、比べられる7か国のなかで最も高い。若者の失業率は3.9%で、最も低い。

この数字は、誰を数えているのか

54.9%は労働力率で、65〜69歳の人口のうち、就業者と失業者を足した人の割合である。働いている人だけを数える就業率とは分子が違う。もっとも、この年齢で職探しをしている人は少ないので、二つの数字はほぼ重なる。総務省の労働力調査では、2025年の日本の65〜69歳の就業率は54.5%だった。

国際比較には、労働政策研究・研修機構(JILPT)の「データブック国際労働比較2026」に載ったOECDの2024年の数字を使う。日本は労働力調査、他国はOECDのデータベースで、定義はILOの基準に揃えてあるが、調査の仕方は国ごとに違う。小数点以下の差に意味はない。

若者の失業率のほうは、分母に注意がいる。15〜24歳の失業率の分母は、その年齢の人口全体の数ではなく、働いているか仕事を探している人の数だ。学校に通っていて職探しをしていない人は、分子にも分母にも入らない。だから韓国の20〜24歳は労働力率が48.1%しかなく(日本は76.2%)、兵役と進学で分母が小さい。逆にスウェーデンでは、在学中でもアルバイトを探せば失業者として数えられるので、24.3%という数字が出る。若者の失業率が高い国は、若者が困っている国とは限らない。

海外情勢報告は各国の政府統計を転記していて年齢区分が国ごとに違うので、数字はJILPTの表で揃え、報告は制度の説明に使う。

7か国のなかで、日本はどこにいるか

60代後半でいえば、日本と韓国だけが半数を超える。65〜69歳の労働力率は日本54.9%、韓国53.6%、アメリカ33.4%、スウェーデン31.2%、イギリス27.4%、ドイツ21.2%、フランス11.6%。60〜64歳でも日本は76.4%で最も高く、フランスは45.2%にとどまる。

65歳以上全体では韓国が39.4%で日本の26.1%を抜く。70代でも働く人が韓国に多いからだ。総務省の2025年の集計では、日本の65歳以上の就業者は943万人で就業者全体の13.8%を占め、役員を除く雇用者の76.1%が非正規だった。

65〜69歳の半数が働く国は、7か国のなかで日本と韓国だけだ

上:65〜69歳の労働力率(就業者+失業者÷人口、%、2024年)。下:15〜24歳の失業率(%、2024年、分母は労働力人口)。JILPT「データブック国際労働比較2026」、日本は総務省「労働力調査」、他国はOECD

日本他の6か国

65〜69歳の労働力率 働いているか、探している人
  • 日本
    54.9%
  • 韓国
    53.6%
  • アメリカ
    33.4%
  • スウェーデン
    31.2%
  • イギリス
    27.4%
  • ドイツ
    21.2%
  • フランス
    11.6%
15〜24歳の失業率 在学中で求職していない人は分母に入らない
  • 日本
    3.9%
  • 韓国
    6.4%
  • ドイツ
    6.6%
  • アメリカ
    8.9%
  • イギリス
    12.1%
  • フランス
    18.7%
  • スウェーデン
    24.3%

日本の数字は、制度がつくったというより、制度が追いかけている。65歳までは企業の義務、70歳までは努力義務。

図1 2024年の65〜69歳の労働力率は日本54.9%、韓国53.6%、アメリカ33.4%、スウェーデン31.2%、イギリス27.4%、ドイツ21.2%、フランス11.6%で、15〜24歳の失業率は日本3.9%が最も低く、スウェーデン24.3%、フランス18.7%が高い(JILPTデータブック国際労働比較2026、OECD)。

若者の対策は、誰が訓練の費用を払うかで分かれる

海外情勢報告の若年者の節を国ごとに読むと、問いは一つに絞れる。未経験の若者を一人前にする費用を、企業が払うのか、国が払うのか。

ドイツは企業が払う。職業学校の座学と企業での実地訓練を組み合わせたデュアルシステムで、州が学校の費用を、企業が訓練手当を含む実地訓練の費用を持つ。訓練手当には法定の最低額があり、2025年1月に月682ユーロ、2026年1月に724ユーロへ上がった。15〜24歳の失業率は6.6%で、フランスの3分の1である。

フランスは国が企業に払う。見習い契約を結んだ事業主への助成は、2023年初めの契約で1人あたり最大6,000ユーロ。2025年2月24日以降は従業員250人未満の事業主に最大5,000ユーロ、250人以上に2,000ユーロへ減額された。それでも若年失業率は18.7%で、7か国で2番目に高い。

韓国は法律で枠を切る。青年雇用促進特別法が29歳以下の未就業者を対象と定め、公共機関には定員の3%以上の青年未就業者を雇う義務がある。2025年当初予算では青年雇用跳躍奨励金に7,772億ウォンが計上された。25歳未満の失業率は6.4%で横ばいが続く。

日本には、これらに相当する看板の大きい制度があまりない。あるのは新卒一括採用という慣行で、企業が未経験者をまとめて採り、社内で育てる。訓練の費用を企業が払うという点ではドイツに近いが、国家資格も修了試験もない。大卒就職率98%の分母に書いたとおり、この慣行があるから若者の失業率は7か国で最も低い。

外国企業が日本で即戦力の中途だけを採ろうとすると、この慣行の外側に立つことになる。訓練済みの人を市場価格で買うわけで、その代金は中途市場の相場に乗っている。安く見えた日本の人件費が、採ってみると安くない理由の一つは、ここにある。

高齢者の対策は、定年をなくす国、年金を遅らせる国、企業に義務を課す国に分かれる

アメリカには、そもそも定年という仕組みがほぼない。1967年の雇用における年齢差別禁止法(ADEA)が40歳以上の労働者への年齢を理由とする差別を禁じている。報告が高齢者向けに挙げる政策は、低所得の高齢者に最低賃金でパートタイムの就業体験を提供するSCSEPくらいだ。

イギリスは2011年4月に、定年を理由とする解雇を年齢差別の例外としていた規定を廃止した。政府の案内には「既定の定年(65歳での強制退職)はもう存在しない」とある。年金の支給開始年齢は2028年に67歳へ上がる。それでも65歳以上の就業率は2025年で12.7%で、報告はその多くがゼロ時間契約やパートだと書いている。

ドイツは年金で動かす。標準の支給開始年齢を65歳から67歳へ、2012年から2031年にかけて段階的に引き上げており、1964年以降生まれは一律67歳だ。2017年のフレキシ年金で退職の時期を選べるようにし、2023年1月からは早期年金を受け取る人の収入上限を撤廃した。2026年1月には「アクティブ年金」が始まり、標準年齢を過ぎて社会保険に加入して働く人は、月2,000ユーロまでの給与が所得税の対象から外れる。年齢で区切らず、働き続けた人に税で報いる設計である。

韓国は日本に近い。2013年の法改正で、定年を60歳以上にすることが事業主の義務になった(2016年に300人以上、2017年に全事業所)。ただ、韓国の65歳以上の労働力率39.4%が、働ける国の証なのか、働かざるを得ない国の証なのかは、この数字だけでは分からない。

そして日本は、企業に義務を課す。高年齢者雇用安定法は、65歳未満の定年を置く会社に、定年の廃止、定年の引き上げ、継続雇用制度の導入のいずれかを義務づけている。継続雇用の対象者を労使協定で絞れた経過措置は2025年3月31日で終わり、2025年度からは希望者全員を65歳まで雇うのが完全な義務になった。70歳までの就業確保措置は2021年4月から努力義務である。

厚生労働省の2025年6月1日時点の集計(常用労働者21人以上の23万7,739社)では、65歳までの措置を実施した企業は99.9%。その中身は継続雇用制度が65.1%、定年の引き上げが31.0%、定年の廃止が3.9%で、定年60歳の会社がまだ62.2%ある。70歳までの措置を実施した企業は34.8%で、中小企業35.2%、大企業29.5%と、大企業のほうが遅れている。

こう並べると、日本の54.9%の意味が少し変わる。他国は年金と差別禁止で個人の側を動かし、日本は企業の側に義務を置いて動かす。日本の数字の高さを制度の成果と呼ぶのは、少し違う気がする。年金だけでは足りない現実と人手不足を、制度が後ろから追いかけている姿に見える。

日本法人の制度を設計するとき、何を持ち帰るか

外国企業が日本法人の就業規則に定年を書くとき、選択肢は二つある。65歳の定年を置くか、60歳の定年に継続雇用を組み合わせるか。アメリカ型に定年を置かないという選択もできるが、その場合は退職の節目が消えるので、年齢の代わりに役割と評価で区切る仕組みが要る。等級、手当、賞与を分けて決める考え方は等級・手当・賞与を分けて決めるに書いた。

60歳定年プラス継続雇用を選ぶと、定年後に給与を下げる慣行が待っている。定年後再雇用の5年間:給与と役割の決め方で書いたが、下げ幅を役割の変化で説明できないと、本人のやる気と同一労働同一賃金の両方で問題になる。ドイツのアクティブ年金の発想は、年齢で払う額を決めない、というものだ。日本法人で同じ発想を取るなら、65歳を過ぎても役割が変わらない人の給与は変えない、と先に決めておくほうがいい。

若者の側では、新卒を採らない外国企業は訓練費を払っていない。その分を中途の採用費と給与で払っている。日本法人が20人を超えるあたりで、新卒か第二新卒を少数でも採って育てる線を引くかどうかは、人件費の構造を決める判断になる。

海外情勢報告には中国の節もある。日本政府が自国の制度をどう要約しているかを読んでおくと、日本の取引先や行政が自社の本国をどう見ているかの見当がつく。私はこの報告を、次の法改正の予告編として読んでいる。70歳までの努力義務が義務に変わる日が来るとしたら、その理屈はたぶん、韓国かドイツの節にすでに書かれている。


日本市場での立ち上げについて、三言語で書いています。