佐藤伸明 Nobu Sato

大卒就職率98%の分母

大卒就職率98%の分母

毎年5月になると「大学生の就職率98%」というニュースが流れる。2026年3月の卒業生も98.0%だった。

ほぼ全員が就職したように読める。数字自体は正しいが、何を分母にしているかを先に確かめておきたい。

98%の分母は「就職を希望する人」

この98.0%は、文部科学省と厚生労働省の「大学等卒業者の就職状況調査」による。就職率は、就職者を就職希望者で割ったものと定義されている。就職を希望しない人は分母に入らない。

同じ調査で、就職を希望した人は卒業者の75.6%だった。また、この調査は抽出調査で、対象は大学62校の4,770人である。

別の口径もある。文部科学省の学校基本調査は卒業者全体を数えていて、2025年3月の大学(学部)卒業者584,304人のうち、就職者は449,638人、77.0%だった。進学者は12.7%、進学も就職もしていない人は7.2%である。

98%と77%は、同じことを違う分母で測っている。

卒業者全体=100(学校基本調査、2025年3月卒)就職 77.0進学 12.7進学も就職もせず 7.2その他抽出した卒業者=100(就職状況調査、2026年3月卒)就職希望 75.6、そのうち98.0%が就職就職 74.1就職を希望せず 24.4希望したが未就職 1.5

Fig.1同じことを二つの分母で見た図。上は卒業者全体で、就職者は77.0%。下は就職希望者を分母にした、ニュースの98%。二つは別の調査・別の年で、下の74.1は75.6%×98.0%で筆者が算出した。

口径の違いが生む読み違い

口径が違うこと自体に問題はなく、どちらの調査も定義を明記している。問題は、見出しの数字だけが一人歩きすることだ。

98%からは「日本の大卒は4月にほぼ全員が就職先を決める」という印象が生まれる。分母に入らない24%には、進学、公務員や資格の準備、就職活動をしなかった人が含まれる。それでも、就職を目指す四分の三が4月には行き先を決めているのは確かだ。

これが新卒一括採用の力だと思う。大企業は卒業前年に内定を出し、学生は卒業の翌月に一斉に入社する。2011年前後、景気が厳しかった時期でも、この就職率は91%前後までしか下がらなかった。

外資系企業の本当の競争相手

日本に来た外資系企業は、まず新卒を採ろうとすることが多い。私は、正面から新卒市場で競うのは難しいと考えている。

理由は報酬ではない。新卒市場には決まった日程があり、前年の春に説明会、夏にインターン、前年末から春にかけて内定が出る。知名度のある日本の大企業がこの流れの先頭にいて、学生と家族は社名と安定を見る。参入が遅く、名前も知られず、初年度に何人採るかもまだ決まっていない外資系企業は、どうしても後ろに並ぶことになる。

中途市場で動く人材は、この仕組みを一度くぐった人たちだ。入社してから合わないと感じた人、会社の方針が変わった人、自分で道を変えたい人。

目を向ける先

私は、外資系企業にはまず二つの層を見るよう勧めている。

一つは第二新卒、つまり卒業して三年以内で、日本企業で一度働いた人たちだ。日本企業の基本的な育成を受けていて、まだ年功の仕組みに縛られていない。

もう一つは、30歳前後で動く意思のある人たちだ。日本の転職率の記事に書いたとおり、動いているのは主に若い層で、45歳以上の男性は三十年ほとんど動いていない。30歳前後は、動く意思と経験がちょうど重なるところにいる。

どちらの層も応募を待っていては見つからないので、先に母集団を描くことになる。人材マップは名簿ではないで書いたやり方だ。職種ごとの採りにくさは職種別の有効求人倍率で先に見ておける。

98%のほうは標本4,770人の抽出調査で、私立大学が三分の二を占め、卒業者全体の構成とは完全には一致しない。二つの数字は並べることはできても、正確に換算することはできない。

新卒一括採用そのものも、通年採用やインターン経由の内定が増えて、少しずつ緩んできている。仕組みが本当に緩めば、外資系企業が新卒で勝負できる余地は広がる。ただ、それをはっきり示すデータはまだ見ていない。

皆さんの会社では、日本で新卒を採ったことがあるだろうか。その人たちは今も残っているだろうか。

就職したあと、3年間で毎年どれだけ、どの業種から辞めていくのかは「3年3割」を分解するで見た。


記事にするほどではない日々の気づきは、LinkedIn に書いています。LinkedIn をフォローする

日本市場での立ち上げについて、三言語で書いています。