等級・手当・賞与を分けて決める

よく成果を出しているエンジニアがいて、会社はチームを率いてほしいと考えている。本人はあまり乗り気でない。ただ、率いなければ給与は上がらない。
チームを率いていたマネージャーがいて、チームがなくなり、会社は専門職に戻ってほしいと考えている。等級表に従えば、降格するか、中身のない管理職の等級に座り続けるかになる。会社は降格させにくく、本人も降格は避けたい。
この二つは、根が同じだ。従来の等級は、「この人がどれだけ成熟しているか」と「このポジションがどれだけ重いか」を一本の軌道に載せている。責任が増えれば昇格するしかなく、役職を外れても降格はしにくい。人を率いたくない専門家は、率いることでしか管理職並みの給与に届かない。
そこで私は、これを分けることにしている。報酬の三つの軌道だ。
等級は、人だけを表す
等級が見るのは人だけだ。能力、経験の深さ、学びの速さ、どこまで一人で任せられるか。どれも四層モデルのパターンと装備の層から取ってくる。基本給は、ここから決まる。
何人を率いるか、どれだけの予算を持つか、決裁の印を押すか、どこの拠点で働くか。これらは人の属性ではなく、職位の属性だ。だから等級には入れない。
その結果、管理は独立した職群にならず、職位に付く責任の一つになる。専門職とマネージャーが同じ等級に並ぶこともあり、これは意図してそうしている。
等級は基本的に上がるだけで、下がらない。昇格には、新しい具体的な出来事を証拠として求める。賞与が多かったことは証拠にならない。簡易な見立てしかしていない人には暫定の等級をつけ、入社後90日の検証を経てから確定する。
手当は、職位の責任に付く
人を率いる、業績を背負う、決める、対外的に会社を代表する、法令上の責任者として署名する、ある時期に限った任務を担う。こうした責任は職位に付けて、一つずつモジュールにし、手当として払う。任命されれば付き、外れれば消える。
モジュールごとに、五つのことを書いておく。職位の要件のどれに対応するか、何段階に分けるか、どう値付けするか、いつ効力が生じていつ失うか、何を証拠にするか。
いちばん大事なのは、モジュールが職位の要件のどれか一つを指し示せることだ。指し示せないものは足さない。人に合わせてモジュールをつくってしまうのを防ぐ関門は、これしかない。
モジュールは定額で段階を分け、持っている人の等級とは結びつけない。基本給の何割という形にもしない。割合で決めると、昇格するたびにモジュールが自動的に高くなり、二つの軌道がまたくっついてしまう。
希少なスキルや、市場がとりわけ過熱している職能には、市場の上乗せのモジュールを付けてもいい。ただし必ず有効期限を付け、期限が来たら見直す。下げることも、止めることもある。
一つの職位にモジュールがいくつも重なるなら、それは職位を分けるべき合図だ。さらに積み増すのはやめておいたほうがいい。
賞与は、その期に何ができたかだけを見る
賞与は結果だけに報いる。行動には報いない。行動や能力はすでに等級に表れているし、責任には手当で払っている。もう一度数えれば、同じものに二度値段をつけることになる。
期の初めに結果を書き、期末には検収だけをする。期の途中では書き換えない。数字は本人の自己申告にしない。
使い勝手のいい確かめ方がある。その指標は、価値を生まないまま大きくできるか。できるなら、結果の欄には入れない。電話をかけた件数、推薦した履歴書の数、残業の時間は、どれもこの類だ。
ゼロにする場合もある。一線を越えた、数字を偽った、次の期を食いつぶしてこの期の結果をつくった。ゼロにすることと、未達とは扱いが違う。未達なら次の期を見るし、ゼロにするなら任免の話になる。
会社全体の結果で賞与の原資の大きさが決まり、個人の段階で配分が決まる。強制分布は使わない。総額は原資で縛り、人数を分布の曲線で縛ることはしない。
試金石は、管理職から専門職に戻る人
分けておけば、異動では手当だけが入れ替わり、昇格では等級だけが動き、結果は賞与だけに流れる。
冒頭のマネージャーが専門職に戻るとき、固定給から減るのは人を率いる分の手当だけで、基本給は一円も動かない。従来の等級では、ここがどうしても難しい。
決める順番にも気を配っている。まず合うかどうかを判定し、次に等級を決め、モジュールを付け、最後に金額を提示する。金額の話を先にしてから等級を決めると、出てくるのは交渉で決まった等級になってしまう。
日本で入れるときに気をつけたいこと
「役職を外れたら手当は消える」といったルールは、賃金規程に書き込み、労働法の専門家に確認してもらっておきたい。そうしておかないと、役職を外れたときの減額が、一方的な労働条件の不利益変更とみなされるおそれがある。
もう一つ、正直に書いておく。このモデルは骨組みこそ決めたものの、実際の仕事ではまだ一度も最後まで回していない。
候補者の側からも、手元の内定を同じように分けて見ることができる。その読み方はオファーを三つの軌道に分けて読むに書いた。