佐藤伸明 Nobu Sato

二枚の地図:誰と顧客や人を取り合うか

二枚の地図:誰と顧客や人を取り合うか|会社の一覧より先に、お金と人の流れを描く

競合調査というと、まず一覧をつくる会社が多い。業界の有名どころを何社か並べて、比較表にする。

私は一覧から始めない。先に、お金がどう流れているかを描く。

市場地図:会社の一覧より先に、価値の流れを描く

いきなり一覧をつくると、目が間違った収益に向き、その間違いが最後までついてくる。だから先に、その業界でお金と情報とモノがどう流れ、どの段に規制が入っているかを描く。次に収益項目の表をつくる。そのお金は何か、誰が払うのか、それを受け取るには先に何者になっている必要があるのか。最後の列がいちばん役に立つ。参入の壁がどこにあるかを教えてくれる。

会社を載せるのは、そのあとだ。載せる理由は限られている。

  • 同じ種類の人を取り合っている。人材の重なりと呼んでいて、見る目的は自社を強くすることにある。
  • 同じ顧客を取り合っている。事業上の脅威で、見る目的は相手の力を削ぐことにある。
  • 販路や免許、枠を握っていて、自社が市場に入れるかどうかを左右する。参入の支配と呼んでいる。

どれにも当てはまらない会社は、どれほど有名でも載せない。載せてしまうと地図が業界百科になり、網羅的には見えても、何一つ決められなくなる。

作業に入る前に、一文だけ書いておく。今回、何を取り合っているのか。どの業界も顧客を取り合っているとは限らない。免許を取り合っている業界もあれば、人を取り合っている業界もある。

一覧が決まったら、一社ずつ同じ観点でなぞる。参入の手続き、製品、納期、価格、リスク管理、組織、販路。横並びの比較は最後にする。表の一マスごとに出典と日付をつけ、推計した数字には「推計」と書く。

この順番は逆にしないほうがいい。比較表を先につくって個社の調査をあとから足すと、表は立派に見えるのに、どのマスも根拠を説明できなくなる。

よく見かけるつまずき

  • 検索エンジンの要約を、元の出典として扱ってしまう。
  • 役割のまったく違う二社を同じ列で比べる。比べられそうに見えて、実は比べられない。
  • 製品が似ているから同じ市場だと考える。私も一度やった。製品も顧客層も同じ何社かを調べて、最後に、顧客の獲り方の理屈がまるで違うことに気づいた。
  • 何社もの競合が同じ仕入先や同じ免許を使っている。その能力はもう借りられるということで、壁はそこにはない。

人材マップ:人はどこにいて、採れないとき何から緩めるか

人材マップは市場地図の続きにあたる。一覧の会社のうち、どの職能が求める人と重なるか、鍵になる人がどこにいるか、市場がいくら払っているかを見る。

突き詰めると、答えたい問いは一つだ。採れないとき、どの要件から緩めるか。

要件は掛け算で効いてくる

採用の要件は一つ足すごとに、候補者の母集団を一定の割合で削っていく。五つ重なると、一見もっともらしい求人票が、市場にほとんど存在しない人を描いていることがある。

そこで要件ごとに四つのことを書いておく。実際に何をふるい分けているのか、どこまでなら譲れるのか、入社後に身につけるまでどれくらいかかるのか、その能力はあと何年通用するのか。

緩める順番は、ここから決まる。身につけるのにかかる時間が短いものから緩め、長いものは守る。入社後には育てようがない要件は、決して緩めない。行動の面は教えて身につくものではないし、深い領域知識には何年もかかる。語学、学歴、経験年数は、むしろ最初に緩めてよいことが多い。

私自身もつまずいたことがある。英語と日本語のできるITのプロジェクトマネージャーを探したときだ。日本語はネイティブ水準で、という条件にこだわって半年探した。その一つを外したら、一か月で採れた。

もう一つ。「求めないこと」も書いておく。書いておかないと、そうした条件はいつのまにか求人票に入り込んでくる。

三つの円

一覧の会社は、目標とする領域からの距離で、円を三重に描いて分けている。一つ目の円は同じ領域。二つ目は隣の領域。三つ目はさらに遠く、育成の計画とセットで考える。

行動面が中心の職種では、二つ目の円を業界で切らないほうがいい。毎日何をしている人か、で切る。人材紹介会社からの電話はたいてい一つ目の円で止まっていて、二つ目の円には、まだ誰も声をかけていない人が残っていることが多い。

重なりが薄すぎたとき

描いてみたら、市場にほとんど人がいなかった、ということもある。これは失敗ではなく、一つの発見だ。打ち手は前もって選んでおく。欠けたままを受け入れるか、社内で育てるか、ポジションを分けるか、人数は変えずに役割を割り振り直すか。

地方に拠点を開いたとき、私も経験した。現地に責任者を任せられる人が見つからなかった。そのときは先に現場のチームを採り、チームが実際に育ってから責任者を探した。

二枚の地図は土台で、どの戦略にも属さない

市場地図はその場に誰がいるかを決め、人材マップは誰が来られるかを決める。このあとの製品、営業、組織、人の見方、報酬の決め方は、どれもこの二枚から事実を取ってくる。

もう少し踏み込んだ考えは、二本の記事に書いた。競合を間違えるのは、競合がいないより悪いと、人材マップは名簿ではない。本当に答えている問いは何か。

地図の次は、そこにいる一人ひとりをどう見るかだ。四層モデルに進むか、方法論の全体像に戻ってほしい。

日本市場での立ち上げについて、三言語で書いています。