Z世代は「手に職」へ向かうのか。値段を決めるのは技能の壁

日本の20代がオフィスを離れて現場へ向かっている。最近はそう読める見出しが多い(「AI時代は大卒より手に職」「Z世代はホワイトカラーを選ばない」)。アメリカ発の「ブルーカラー・ビリオネア」という言葉も、日本のメディアにすっかり定着した。気になって日本の数字を並べてみると、若者が現場へ大移動しているという絵は、少なくともまだ見えない。動いているのは職種の人気ではなく、どんな技能に値段がつくかのほうだと思う。
日本のZ世代は本当に「手に職」へ向かっているのか
統計で見る限り、大きな流れにはなっていない。20代の求職者の多くは、いまもブルーカラーを就職先の候補に入れていない。
20代の就職支援を手がけるUZUZホールディングスが2026年4月に出した調査がある。同社のキャリア相談を予約した20代457人に、ブルーカラーと呼ばれる職種の印象を聞いた。「条件や職種を問わず、就職先としてはまったく考えられない」が64.3%。「賃金や勤務時間など条件が良ければ検討したい」が21.0%。「AIが進化しても当面人間にしかできない職種には将来性を感じる」は11.6%にとどまった。施工管理職については、20代で年収500万円を目指せるとしても「希望する」と答えた人は0%だった。
もっとも、オフィスワークを探しに来た人に聞いているので、数字が片寄るのは当然である(ラーメン屋の行列に「蕎麦は好きですか」と聞くようなものだ)。それでも、見出しが言うほどの地殻変動ではないことは分かる。
反対側からの数字もある。レバレジーズが同じ4月に公表した、いまブルーカラー職で働く724人(製造・建設・物流が中心、3月下旬に実施)への調査では、20.4%、ほぼ5人に1人がホワイトカラーからの転職者だった。20代では、この仕事を選んだ理由として「AIに代替されにくい安心感」を挙げた人が14.5%いる。
同じ調査で、入ってからの期待とのずれでいちばん多かったのは「給与が想定より低かった」で39.9%だった。
動いている人は確かにいる。AIへの不安も理由の一つになっている。ただ、「現場に行けば稼げる」という期待は、実際に行った人たちのあいだで、すでにだいぶ割り引かれている。
求人倍率は襟の色で分かれていない
有効求人倍率の高低は、ブルーかホワイトかよりも、技能の参入障壁で説明したほうがよく当たる。
厚生労働省「一般職業紹介状況」の2026年8月分で、職業別の有効求人倍率(常用、パートを含む、原数値)を見る。職業計は1.06倍だ。
建設躯体工事の職業は8.25倍、建築・土木・測量技術者は5.71倍、電気工事の職業は3.23倍。どれも人が足りない。
ところが、同じ体を使う仕事でも、運搬・清掃・包装等の職業は0.66倍で、平均を下回る。同じオフィスの仕事でも、一般事務の職業は0.29倍で、求職者三人強に求人一つの計算になる。一方、建築・土木・測量技術者は専門的・技術的職業、つまり分類上はホワイトカラー側で、5.71倍だ。
求人倍率が高いのは技能の要る職業で、ブルーにもホワイトにも、人が余る職業がある
職業別有効求人倍率(常用、パートを含む、原数値)、2026年8月、厚生労働省「一般職業紹介状況」。職業計は1.06倍
専門技能・資格が要る職業参入障壁の低い職業
- 建設躯体工事型枠・鉄筋・とびなど8.25倍
- 電気工事3.23倍
- 運搬・清掃・包装等0.66倍
- 建築・土木・測量技術者5.71倍
- 情報処理・通信技術者1.33倍
- 一般事務0.29倍
値段を決めているのは襟の色より、誰でもすぐにはできない仕事かどうかだ。
賃金の側も、見出しほど単純ではない。求人ビッグデータを扱うフロッグが、doda、マイナビ転職、エン転職、ハローワークの正社員・契約社員求人を集計したところ、2020年3月から2026年3月にかけて求人票の平均月給はブルーカラーが17.26%、ホワイトカラーが25.06%上がっていた。月給70万円以上の求人は、2026年3月時点でホワイトカラー1,575件に対しブルーカラー225件で、約7倍の差がある。求人票の提示額であって実際の支給額ではないが、「ブルーカラーのほうが稼げる」と言える段階にはまだない。
職業別の倍率の読み方は別の記事で詳しく書いたので、ここでは深入りしない。ハローワークの数字はIT職などの実態を拾いきれていない点も、そちらで触れている。
AIが削るのは、手順に書ける仕事
AIの影響は職種の看板より、仕事の中身で分かれると考えている。手順として書き出せる部分から先に置き換わる。
国際通貨基金(IMF)は2024年1月、世界の雇用の約40%がAIの影響を受け、先進国では約60%に及ぶという分析を出した。そのうち約半分はAIによって生産性が上がる側に回り、残りの半分は労働需要や賃金、採用が下がる可能性がある、という見立てだ。若い人のほうがAIの機会を生かしやすく、年長者は適応に苦労するかもしれない、という一文もある。
同じ職業のなかに、AIに仕事を半分持っていかれる人と、AIで成果を倍にする人がいる、という読み方が自然だろう。一般事務の0.29倍がAIのせいかどうかは、まだ分からない。人が余っていたのはAI以前からだ。ただ、入力、照合、定型の帳票づくりは、いちばん手順にしやすい仕事でもある。
現場も同じ理屈で動く。電気工事が高いのは、住宅や小規模な店舗の電気工事を電気工事士法にもとづく有資格者が担う仕組みで、入口に壁があるからだ。現場ごとに条件が違い、その場で判断する仕事でもある。運搬・清掃・包装が低いのは、数日で覚えられて、人の入れ替えがきくからだと思う。
その技能に賭けてよいかを見分ける
私が若い人に技能の選び方を聞かれたら、次の四点を確かめるよう勧める。どれも地味だが、自分で調べられる。
一つ目は、細かい職業単位の倍率を、数年分見ること。「建設」とひとくくりにしても、8倍の職業もあれば、そうでない職業もある。一年だけ高いのは景気の波かもしれない。何年も2倍を超えているなら、構造的に足りていない。
二つ目は、入口の壁の高さ。資格が要るか、一人前になるまで何年かかるか。誰でも一週間で覚えられる仕事は、どれだけ人手不足でも賃金が上がりにくい。壁は自分を守る堀になるが、越えるための授業料も要る。年数と費用と、その間に減る収入まで計算しておきたい。
三つ目は、持ち運べるかどうか。会社を変えても通用するか。地域を変えたらどうか。社内でしか値段のつかない力は、厳しく言えば会社の資産である。
四つ目は、AIがどこを削るか。仕事を分解すると、手順に書ける部分が先に置き換わり、現場での判断、人とのやりとり、結果への責任が残る。自分の技能のうち、残る側がどのくらいあるか。AIのあと、どの層から値が下がるかで書いた分け方と同じ発想だ。
人事が採用広告を書くときに
人事の側から見ると、この話は「ブルーカラーを若者に売り込む」話とは少し違う。
UZUZの調査で、施工管理職の人材ニーズの高まりや労働環境の改善を知っていた人は21.9%だった。名前を知っている人は70.5%いたのに、である。若者に届いていないのは職種名ではなく、その仕事で身につく技能と、それがどこまで持ち運べるかの説明だと思う。求人票に「未経験歓迎」と書くより、三年後に何ができるようになり、それが他社でどう評価されるかを書いたほうが、AIに不安を抱える20代には響くはずだ。(もっとも、それを正直に書ける職場がどれだけあるかは、また別の問題である。)
問うべきは、その仕事で身につく技能が、五年後に別の会社でも値段がつくかどうかだ。キャリアの動き方全体はキャリア:動く前から入社後90日までにまとめている。
出典(2026年10月時点)
- 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年8月分)」2026年10月2日公表
- 厚生労働省「一般職業紹介状況」参考統計表(令和8年8月分)
- UZUZホールディングス「Z世代における『ブルーカラー・施工管理職』に関する意識調査」(2026年4月、n=457)
- レバレジーズ「ブルーカラー職のキャリアに関する調査」(2026年4月、n=724)
- フロッグ「2026年4月度 ブルーカラービリオネア 日本での実態調査レポート」
- 経済産業省「よくある質問(電気工事士)」
- IMF Blog, Kristalina Georgieva, "AI Will Transform the Global Economy. Let's Make Sure It Benefits Humanity" (2024-01-14)