パワハラの相談を受けたとき、日本法人はどう調べるか

月曜の朝、責任者の受信箱に一通のメールが届く。ある社員が、上司からパワハラを受けていると言っている。責任者の最初の反応は、たいてい二つのうちのどちらかだ。あの上司はずっと良くやってきた、誤解だろう。あるいは、放っておけない、まず上司を外そう。どちらも人として自然な反応で、どちらも法人を面倒に引き込む。
日本には、法律に書かれた手順がある。長いものではない。ただ、各段階にそれぞれ理由があって、どれかを飛ばすと、事実がどちらにあっても後の労働審判で負けることがある。
法律が求めていること
職場のパワーハラスメントには三つの要素があり、一つ欠けても成立しない。優越的な関係を背景としていること。業務上必要かつ相当な範囲を超えていること。就業環境が害されていること。見落とされやすいのは二つ目だ。厳しい業務上の指導そのものはパワハラにあたらないと、法律の指針が明記している。
2022年4月から、三人の日本法人を含むすべての事業主に義務がある。方針の明確化と周知、相談窓口の設置、相談後の迅速かつ正確な事実確認、相談者への配慮、行為者への措置、再発防止。全体を貫く二つの条件もある。双方のプライバシーの保護と、相談や調査への協力を理由とする不利益取扱いの禁止だ。
厚生労働省の指針は、事実確認の段階で双方から聴くことを明記している。相談者から聴き、行為者とされる人からも聴き、必要なら第三者からも聴く。形を整えるための作法と思われがちだが、もっと実務的な理由がある。日本の労働審判では、行為者とされる人に弁明の機会を与えない処分は、権利の濫用として無効とされやすい。
Fig.1厚生労働省の指針が求める順序。千葉の事件では三段目が見えず、処分は口頭で、配転先は元の仕事と無関係だった。
いま進行中の一つの事件
2026年に千葉で起きた事件が参考になる。報道を読む限り、ありがちな誤りが一か所に集まっているように見えるからだ。生活クラブ生協が運営するパン屋で、店長は22年働いていた。2025年12月、入社一か月のパート従業員が、早朝四時半から五時、二人しか店にいない三十分間に店長が七つの発言をしたと申し出た。「子どもに接するように優しく」「店で泣かないで」「辞めたいのか」などだ。店長はいくつかを認め、天板をオーブンの壁に当てていたから、自分が泣かせたと思われたくなかったからと説明し、残りは否認した。聞いたのは「今日はもう帰るか」だったという。
生協の対応はこうだった。2026年2月、上司が口頭で五日間の出勤停止と、経験のない配送センターへの配転を告げた。店長はその場で「辞めます」と言い、翌日メールで撤回した。3月末、生協は配転命令への不服従を理由に、自己都合退職として処理した。5月、店長は千葉地裁に提訴し、退職扱いの無効と店長の地位の確認、出勤停止と配転命令の無効、未払い残業代を求めた。訴訟では、生協の相談処理の手順、従業員のメモ、調査報告書の提出を求めている。店は改装の名目で休業し、9月に正式に閉店した。約二十人が職を失った。生協は訴訟中を理由にコメントしていない。
判決はまだ出ていない。あの三十分に何が言われたのか、私は知らないし、推測もしない。七つの発言が業務上の指導の範囲を超えていたかは、裁判所が判断することだ。ここで考えたいのは手続きのほうである。
この事件で、手続きのどこが問題か
報道からは、正式な調査記録も、処分の前に店長が正式に意見を聴かれた形跡も見えない。処分は口頭だった。処分の内容は出勤停止と配転で、配転先は22年の仕事と何の関係もなく、日本の判例ではこれは懲罰的な配転、配転命令権の濫用と見られやすい。次に「自己都合退職」である。一言の感情的な発言と翌日の撤回が、退職の意思表示として扱われた。最後に、提訴後の閉店。実際の理由が何であれ、時間の順序は、裁判所と世間にそれを提訴への反応として読ませる。
報道のとおりだとすれば、これらは事実がどちらにあっても誤りだと私は考えている。店長に本当にパワハラがあったなら、手続きの誤りは処分を無効にし、生協をかえって被告の側に置く。パワハラがなかったなら、手続きの誤りは22年の社員と二十の職を一緒に消す。手続きがあるのは、結論が「誰が先に好かれていたか」で決まってしまわないようにするためだ。
日本法人はどうすればよいか
相談を受けた当日。受理を書面で記録し、相談者に何日以内に事実確認を行うかを伝え、暫定的な措置(当面、相手と二人だけの勤務にしないなど)が必要かを尋ね、相談を理由に不利益な扱いは受けないと明言する。この時点では、どちらにも結論を出さず、外にも話さない。
一週間以内には、双方から別々に聴く。毎回第三者を同席させ、書面に記録し、記録内容に双方の署名をもらう。行為者とされる人に聴くときは、具体的な言動を一つずつ示して、一つずつ答えてもらう。「パワハラをしたか」と聞くのではない。目撃者やチャットの記録があれば一緒に集める。小さな法人にHRがいなければ、外部の社労士や弁護士に聴取を頼める。費用は、労働審判一件より一桁小さいことが多い。安い保険だと思う。
二週間以内をめどに、三つの要素に照らして一つずつ判断し、結論と理由を書く。処分があるなら、行為と釣り合い、書面で通知し、処分される人に意見を述べる機会を与え、就業規則に書かれた処分の種類に従う。就業規則に書いていない処分は使えない。
そのあと、双方に別々に結論を伝える(一方の供述を他方に見せるのではない)。記録を保管し、制度に直すべき点がないかを見る。千葉の事件で言えば、二人だけで早朝三十分働く体制そのものが、もう制度の問題だと思う。
相談を受けた責任者がいちばんしたくなるのは、早く済ませることだ。その気持ちはよくわかる。ただ、日本の手続きは少し遅く設計されている。その遅い数日が、法人が後で二年分を払わずに済む数日になる。
本稿は公開報道と法的枠組みを整理したもので、法的助言ではない。個別の案件は日本の弁護士または社会保険労務士に相談してほしい。事件は審理中であり、本稿は事実についていかなる認定もしていない。
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