生成AI方針、日本は68.9% 差は「決めていない」2割

総務省『令和8年版 情報通信白書』(2026年7月公表)によると、生成AIを「積極的に活用する」または「領域を限定して利用する」方針を持つ日本企業は68.9%だった。米国は82.8%、ドイツ82.2%、中国95.4%で、日本は4か国の中で一番低い。ただ、残りの3割の中身を見ると、日本企業が生成AIを止めているという話には見えない。
「利用を禁止している」と答えた日本企業は3.5%で、米国の9.1%、ドイツの7.8%より少ない。多いのは「方針を明確に定めていない」20.2%と「わからない」7.4%で、合わせて27.6%になる。米国は8.1%、ドイツ10.0%、中国2.6%だ。日本の遅れは、禁止している会社の多さより、まだ何も決めていない会社の多さから来ている。
68.9%は、デジタル化に着手した企業の管理職の回答
比べているのは、4か国の企業で働く管理職が、ウェブアンケートで答えた「自社の方針」である。出典は総務省の委託調査「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」の企業向け調査で、2026年1〜2月に調査会社の登録モニターを使って行われた。白書の中では「2025年度企業向け調査」と呼ばれている。
有効回答は日本515社、米国・ドイツ・中国が各309社。回答できるのは、従業員10人以上で2025年までにデジタル化に着手した企業の、全社戦略を把握している課長相当以上の人だ。
この条件で読み方がかなり変わる。デジタル化に手をつけていない会社は、最初から調査に入っていない。だから68.9%を日本企業全体の普及率として引用するのは無理がある。全企業で測れば、もっと低く出るはずだと私は考えているが、それを示すデータはこの調査にはない。
国ごとの標本の構成も同じではない。中国は309社のうち大企業が250社で、日本の515社中353社より大企業に寄っている。日本の内訳でも、方針ありは大企業74.0%、中小企業58.1%と規模で差が出ているので、国の差の一部は標本の違いで説明できる可能性がある。
もう一つ、これは回答者の自己申告だ。管理職が自社の方針を正確に知っているとは限らないし、「わからない」を選ぶかどうかには回答の癖も効く。日本の回答者が中間や保留の選択肢を選びやすいことは、アンケートの「どちらとも言えない」の回で書いた。日本の「わからない」7.4%(他の3か国はいずれも0.3%)にも、その癖が少し混じっていると見たほうが安全である(「わからない」と正直に書けるのは、ある意味で美徳でもあるのだが)。
Fig.1生成AI活用方針の国別内訳。日本は「方針を明確に定めていない」20.2%と「わからない」7.4%が他国より大きく、「禁止」は3.5%と米独より少ない。出典:総務省『令和8年版 情報通信白書』図表Ⅰ-2-1-1(2025年度企業向け調査、2026年1〜2月実施)
1年で差は縮んだのか
前年の2024年度調査(『令和7年版 情報通信白書』で公表)と並べてみる。方針ありの日本企業は49.7%で、米国84.8%、ドイツ76.4%、中国92.8%だった。日本は1年で19.2ポイント上がり、米国はわずかに下がった。米国との差は35ポイントから14ポイントほど。縮んだと言っていい。
個人の利用も動いている。同じ委託調査の個人向け調査(2026年1〜2月、日本1,236人、他の3か国は各624人、15〜69歳)で、生成AIサービスを使ったことがある人は日本58.8%、米国75.6%、ドイツ75.6%、中国93.6%だった。日本は前年の26.7%から倍以上になったように見えるが、今回から15〜19歳を対象に加えたので、そのまま比べることはできない。20歳以上に限ると52.2%である。
実際に業務で使っているかどうかで見ると、差はさらに小さい。方針について「わからない」と答えた企業を除いた集計で、何らかの業務に生成AIを使っている企業は日本86.4%、米国90.9%、ドイツ91.6%、中国98.1%だ。ただし日本で多い用途は議事録やメール作成の補助で、白書によれば約7割がこの用途で使っている。使っている会社は増えた。使い方の深さは、まだ別の話だ。
なぜ日本企業は方針を決めきれないのか
白書の数字から見えるのは、リスクを怖がって止まっている姿より、リスクを判断する人がいない姿に近い。
懸念されるリスク(図表Ⅰ-2-1-8)では、日本で最も多いのは「社内情報の漏洩などのセキュリティリスク」46.4%で、これは4か国で一番高い。一方で「出力結果の精度に問題がある」は日本35.3%で、米国44.3%、ドイツ41.7%、中国52.1%より低い。倫理的に不適切な出力やプライバシー侵害を挙げる割合も、日本が一番低い。そして「わからない」は日本16.5%、他の3か国は1%台である。
精度もプライバシーも、他国の企業のほうが心配している。それでも他国は方針を決めている。私はこの差を、懸念の強さより、誰の仕事になっているかの差だと読んでいる。生成AIで業務を変える「組織的な取組はない」企業は、日本27.0%、米国1.4%、ドイツ4.9%、中国2.6%。日本の中小企業に限ると45.6%だ。
担当が決まっていないテーマは、日本の組織では動きにくい。会議で「これは誰が持つんでしたっけ」と誰かが言い、全員が少しだけ手元の資料に目を落とす。あの数秒間のことだ。前例のない判断を引き受けると、その人が結果の責任を負う形になりやすい。
「誰も最初の一人になりたがらない」という説明はよく聞くし、私の実感にも近い。ただ、これは調査が測ったものとは違う。私の解釈であることは書いておきたい。
日本に入るAI企業は、誰に何を渡せばいいか
最初に越えるべき壁は、製品の性能比較より手前にある。「まだ決めていない」会社の中で、決める役を引き受けた人を見つけ、その人が社内を通せる材料を渡すことだ。
相手はたいてい、DX推進や情報システム部門でパイロットを任された人である。この人に必要なのは機能の説明より、入力した情報がどこに保存されるか、学習に使われるか、ログを誰が見られるか、を一枚で説明できる資料だ。日本企業のリスク対策で最も多いのは「全社的な指針やガイドラインを整備している」41.1%なので、社内ガイドラインのひな形まで一緒に用意すると、話が進むことが多いと感じている。情報システムや法務の担当者を反対者として扱うと、たいてい話がこじれる。セキュリティを一番気にしているのは彼らで、彼らが納得して初めて、稟議の道筋が見えてくる。
中小企業は、方針なしが31.5%、組織的な取組なしが45.6%である。ここに直販で一社ずつ説明に回るのは、時間に見合わない。普段ITの相談をしているSIerや販売代理店、地域のITベンダーを経由するほうが現実的だ。ただし代理店は契約しただけでは売ってくれない。その理由は代理店が売ってくれない理由に書いた。中小企業の中でも誰に売るかの整理は中小企業99%の回が参考になると思う。
導入率が上がることと、深く使われることは、また別の話である。クラウドでも、日本企業の利用率は高いのに、使い道はファイル保管が中心だった(クラウド利用8割の中身)。生成AIも、議事録とメールで止まる会社が多い可能性はある。売る側にとっては、2社目の部署、3つ目の用途に広げる道筋まで描いておくことが、最初の契約と同じくらい大事になる。
この調査には、デジタル化に着手した企業しか入っていないという限界がある。それでも、日本の「方針を明確に定めていない」20.2%は、市場の入口がどこで詰まっているかをよく示している。次の白書で、この20.2%がどこまで減るかを、私は日本の生成AI市場の温度計として見ていくつもりだ。
データ出典
- 総務省『令和8年版 情報通信白書』生成AIの活用方針等(図表Ⅰ-2-1-1、方針あり 日本68.9%・米国82.8%・ドイツ82.2%・中国95.4%、2024年度調査の参考値を含む)
- 総務省『令和8年版 情報通信白書』組織的な取組状況(組織的な取組なし 日本27.0%)
- 総務省『令和8年版 情報通信白書』生成AIの業務利用状況(一つ以上の業務で利用 日本86.4%)
- 総務省『令和8年版 情報通信白書』懸念されるリスク及びリスク対策(セキュリティリスク 日本46.4%、ガイドライン整備41.1%)
- 総務省『令和8年版 情報通信白書』個人の生成AI利用経験(国別、日本58.8%・米国75.6%・ドイツ75.6%・中国93.6%)
- 共同通信配信(熊本日日新聞、2026年7月24日)「生成AI利用経験者58%に倍増」(20歳以上に限ると52.2%)
- 総務省『令和8年版 情報通信白書』付注(調査概要:ウェブアンケート、2026年1〜2月、企業1,442社・個人3,108人)
- 総務省『令和7年版 情報通信白書』企業におけるAI利用の現状(2024年度調査、日本49.7%)
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