佐藤伸明 Nobu Sato

18か国・地域で、日本の働く人がいちばん社外で学ばない

パーソル総合研究所 18か国・地域調査 2022年

目次5
  1. 52.6%は誰に何を聞いた数字か
  2. どの国と、どれだけ差があるのか
  3. 厚生労働省の統計も同じことを言っている
  4. なぜこうなるのか
  5. 外から来た会社は、何を変えるか

「日本人は学ばない」という見出しを、ここ数年なんども見た。見出しの元になっている数字を確かめておきたい。パーソル総合研究所が2022年に18か国・地域の働く人に、勤務先の外で学習や自己啓発をしているかを聞いたところ、日本で「特に何もしていない」と答えた人は52.6%だった。18か国・地域でいちばん高く、全体の平均は18.0%である。半分が何もしていない国と、五人に一人しか何もしていない国々。この差は、個人の怠慢で説明がつく大きさではないと思う。

52.6%は誰に何を聞いた数字か

20〜69歳で、就業中で、その国に3年以上住んでいる人に、インターネットで聞いた数字である。各国・地域およそ1,000人、調査期間は2022年2月10日から3月14日。調査したのは人材サービスのパーソルグループの研究機関、パーソル総合研究所で、名称は「グローバル就業実態・成長意識調査」、2022年11月8日に公開された。

分母については、地域と設問の二点を先に言っておく。地域は、日本の回答者は東京・大阪・愛知、ほかの国も北京・上海・広州、ニューヨーク・ワシントン・ロサンゼルスといった大都市から集めている。大都市の働き手どうしの比較だ。設問は、聞いているのは「勤務先以外での学習や自己啓発」であり、読書、研修やセミナー、資格、語学などの選択肢のなかから「特に何もしていない」を本人が選んでいる。自己申告なので、国によって答え方の癖は出る。日本の回答者が控えめに答えがちなことは頭の片隅に置いておく。ただ、それで52.6%が消えるわけでもない。

この調査には前身がある。同じ研究所が2019年にアジア太平洋の14か国・地域で行った版では、日本の「特に何もしていない」は46.3%で、やはり最高だった。二位のニュージーランドより24.2ポイント高く、東南アジア各国(シンガポールを除く)、インド、中国は10%を下回っていた。対象国が違うので厳密な時系列にはならないが、向きは同じである。日本が最下位で、しかも差が大きい。

どの国と、どれだけ差があるのか

倍の差がある。2022年の18か国・地域で、日本の52.6%に続くのはオーストラリア28.6%、スウェーデン28.1%、イギリス24.1%、フランス22.6%。二位との差が24ポイント、平均の18.0%と比べると三倍近い。

同じ調査で、日本はほかの項目も末尾にいる。自己投資を「すでにしている」人は40.0%で最低、「今後もする予定はない」が42.0%。現在の勤務先で管理職になりたい人は19.8%で最低(インドは90.5%、ベトナムは87.8%)。現在の勤務先で働き続けたい人は56.0%で最低。転職したい人は二割台で、全体平均の35.2%を下回る。働くことで幸せを感じている人は49.1%で最低だった。

並べると、一つの像になる。学ばず、昇進を望まず、辞める気もなく、それほど残りたくもない。

勤務先の外で「何もしていない」日本の働き手は半分を超え、18か国・地域平均の三倍近い

「勤務先以外での学習・自己啓発を特に何もしていない」と答えた人の割合(%)。パーソル総合研究所「グローバル就業実態・成長意識調査」2022年、18か国・地域各約1,000人、20〜69歳の就業者、インターネット調査。参考として同研究所の2019年APAC14か国・地域版の日本の値

2022年、18か国・地域 公表ページに数値のある国
  • 日本
    52.6%
  • オーストラリア
    28.6%
  • スウェーデン
    28.1%
  • イギリス
    24.1%
  • フランス
    22.6%
  • 18か国・地域の平均
    18.0%
日本、2019年のAPAC14か国・地域版
  • 日本14か国・地域で最高
    46.3%

社員が外で学ばないのは、採用の失敗ではない。学びは会社が仕事のなかに設計する。

図1 パーソル総合研究所の2022年調査では、勤務先以外で「特に何もしていない」日本の働き手は52.6%で18か国・地域の最高、次いでオーストラリア28.6%、スウェーデン28.1%、イギリス24.1%、フランス22.6%、全体平均は18.0%だった。2019年のAPAC14か国・地域版でも日本は46.3%で最高だった。

厚生労働省の統計も同じことを言っている

官庁統計に持ち替えても、数字は似た場所に落ちる。厚生労働省「能力開発基本調査」の令和7年度版(2026年7月31日公表)は、全国20,127人の労働者に個人票を配り(有効回答率43.9%)、この1年に自己啓発を行った人は35.5%だった。正社員で43.3%、正社員以外で15.9%。ここでいう自己啓発は、職業能力を自発的に高めるための活動で、パーソルの設問と口径は同じではないが、正社員でも四割強しか学んでいない。

会社の側はどうか。正社員にOFF-JT(業務から離れた研修)を実施した事業所は70.9%、正社員に計画的なOJTを実施した事業所は60.6%。教育訓練費用を支出した企業は54.4%で、支出した企業に限ると、OFF-JTは労働者一人あたり年2.0万円、自己啓発支援は0.4万円である。

年2万円は、月に直すと2千円に届かない。

事業所の80.1%が、人材育成に何らかの問題があると答えている。中身は、指導する人材が不足している59.5%、人材を育成しても辞めてしまう51.6%、育成を行う時間がない45.5%。育てなければならないことも、社員が勝手には学ばないことも、会社は知っている。人と金と時間が足りない。それがいまの姿だ。

なぜこうなるのか

私は、これは見返りの構造の問題で、怠け者かどうかの問題ではないと考えている。

日本の会社は長いあいだ、人を社内で育ててきた。新卒で入り、配置転換を重ね、OJTで覚え、何を学ぶかは会社が決めた。学んだ分は年功と等級に乗って返ってくる。学習は何十年も「会社の仕事」で、個人が外で資格を取っても、会社は評価せず、給与は動かなかった。先ほどの数字はその帰結でもある。管理職になりたい人が二割、転職したい人が二割台。学んでも昇進に使わず、転職にも使わないなら、外で何を学ぶというのか。

だから「自ら学ぶ人」を採用の条件にすると、日本では大多数が落ちる。残った少数は、会社の外に別の計画を持っている人であることも多い。

外から来た会社は、何を変えるか

日本では、研修は福利厚生ではなく運転資金である。社員が外で学ばない以上、学びは会社が仕事のなかに設計するしかなく、ここは省けない。

やり方そのものは難しくない。学ぶ時間は勤務時間内に置く。終業後に期待しない。学んだことは二週間以内に使う成果物につなぐ。誰が教えるかを決め、教える時間を業務として数える。日本の会社がいちばん困っているのが、指導する人の不足だった。学んだ結果を評価と等級に反映する。やる気は、組織の形で決まるに書いたとおり、点数のつかないことに人は長く力を出さない。

予算については、一人年2.0万円が、費用を出している日本企業の平均である。本国と同じ速さで技術を追う開発チームを日本に置くなら、この額では足りない。いくらまで積むかは、求める技術と、市場にその人がいるかどうかで変わるので、ここで一つの数字は出せない。

逆の効き目もある。外で学ぶ人が少ないということは、学んでいる人は市場で目立ち、数も少ないということだ。AIのあとにどの層から値が下がるかは別の記事に書いたが、装備の層を自分で更新し続ける人の値は、これから上がる。一人採れたら、ほかの人と違うものを渡す必要がある。渡さなければ、最初に辞めるのはその人だ。

最後に、この数字の境目を書いておく。52.6%は自己申告で、「学習」の定義は本人に任されている。毎日技術文書を読んでいる人が「特に何もしていない」に丸をつけていてもおかしくない。それに、この調査は社内の学習を見ていない。日本の会社のOJTの量は小さくないはずで、その分はこの質問票では零になる。正確に言うなら、日本人は勤務先の外では学ばない。社内でどれだけ学んでいるかは、この調査では答えが出ない。外から来た会社にとっての結論は、どちらにしても同じである。学びは、会社が設計する。


日本市場での立ち上げについて、三言語で書いています。