佐藤伸明 Nobu Sato

日本法人をゼロから立ち上げる

方法論のカバー:ゼロから立ち上げるときに採る順番

ある海外の会社から相談を受けたとき、最初の質問はすべて手続きのことだった。登記はどうするか、ビザはどうか、銀行口座はいつ開けるか。

手続きは、頼めばやってくれる人がいる。実際にその会社が止まったのは、最初の社員のところだった。どんな人を採るのか、いくら払うのか、どう面接するのか、なぜその人がうちに来てくれるのか、入ったあとどう話せばいいのか。手続きで答えが出るものは一つもない。

このページでは、方法論のほかのページをつなげて、まだ何もない日本法人に一度当てはめてみる。私がこれまでいちばん多く関わってきたのが、この種の仕事だ。

順番は変わらない

二枚の地図、製品、営業、組織、最後に制度。ゼロからでも順番は変わらない。変わるのは、どの段もむき出しになることだ。支えてくれる既存のチームがない。

飛ばされやすいのは二つある。人材マップと組織だ。

人材マップが飛ばされるのは、とりあえず求人票を出してみればいい、と思われているからだ。その結果、求人票に描いた人が日本にはほとんどいないことに半年かけて気づき、要件を下げて採ることになる。組織が飛ばされるのは、人事の仕事に見えるからだろう。ところが、前の段が実際に回るかどうかは組織で決まる。

手を動かす前に、私はよく一つだけお願いする。求人票の条件を全部書き出して、すべてを満たす人が日本に何人いるか数えてみてほしい、と。数えられなければ、二枚の地図に戻る。

最初の一人は営業でなくていい

最初の一人に営業を採る会社が多い。理由ははっきりしていて、売上がほしいからだ。

私は先に、本社を日本の顧客向けに「翻訳」できる人を採ることが多い。ここで言う翻訳は言葉のことではない。製品、法令対応、価格、納品やサポートの約束。本社ではひとつの言い方で語られているものを、日本の顧客が評価できる形に組み直す人だ。この人がいると、営業が入ったときに売るものがある。

順番は、翻訳する人、営業、そのあとに導入とサポート。どこでこの人を探すか、どの水準の予算をつけるかは、日本法人の最初の一人は営業ではないに詳しく書いた。

例外もある。代理店や越境ECを通じて、製品がすでに日本で売れている場合。顧客がもともと日本にいる中国系企業の場合。そういうときは営業からでいい。また、この話はある程度の単価がある B2B に限る。

スーパーマンを探さず、職位を分ける

ゼロのとき、経営者がいちばんほしがるのは、何でもできる一人だ。業界を知っていて、売れて、技術サポートもでき、管理部門も回せて、できれば中国語も話せる。日本にもいないわけではないが、極めて少なく、高い。

私がよくやるのは、分けることだ。営業、技術サポート(FAE)、管理部門の三つに分けて採り、管理部門はまず外部に出す。要件を緩めるときは、後から補いやすいものから緩める。語学、学歴、経験年数がこの部類に入る。いちばん補いにくい一つは守る。小さな会社でゼロからやることを厭わない、という条件だ。

英日バイリンガルの IT プロジェクトマネージャーを探したとき、日本語ネイティブにこだわって半年採れなかったことがある。その条件を外したら、一か月で決まった。

見落とされやすいこともある。最初の一人に出した金額が、そのあと採る全員の天井になる。給与レンジを出した時点で、どの池から人を探すつもりなのかを市場に伝えているのと同じだ。

日本の候補者が口にしない三つの問い

外資系や中国系の日本法人の面接で、日本の候補者は口には出さなくても、だいたい三つのことを考えている。数年で撤退しないか。日本で自分たちで決められるのか。給与と評価は本社の一律ではないか。

ここに具体的に答えられるほど、人は採れる。いちばん大事なのは二つ目で、だから権限は金額で書いておく。いくらまでなら日本で決裁できるのか、どの条件なら日本で交渉してよいのか。日本では「何でも本社待ち」は、退職理由の上位に入りやすい。

現場が先か、責任者が先か

直感では、まず責任者を見つけて、その人にチームをつくってもらいたくなる。私はその逆をとることが多い。

地域の拠点を開いたとき、現地で責任者を任せられる人が見つからなかったことがある。そのときは先に現場のチームを採り、チームがある程度の規模になってから責任者を探した。結果的には、そのほうがうまく回った。責任者が見つからない理由は、もう一つある。候補者のほうもこちらを見ていて、チームはあるのか、顧客はいるのかを確かめている。公開できる顧客が二、三社できてから責任者を探すと、話はずっと進めやすい。

もう一つ、実際に見たことのある形がある。トップが二人いる日本法人だ。本社から来た人は日本語を話さず、現地で採った人は英語を話さない。二人は直接話せず、何をするにも通訳を挟む。やがて現地の責任者が辞め、日本の事業はそのまま伸びなかった。二人体制でもうまくいくことはあるが、それには裁く人が必要で、しかもその人がずっと現場にいることが条件になる。このことはトップが二人の組織が回るときに書いた。

一年目の勘定

一年目はマイルストーンで評価し、活動量では見ない。販路をいくつ契約したか、公開できる最初の導入事例があるか、サービスの約束を何か月続けて守れたか。

採用を間違えたときのコストは、先に計算しておきたい。私の試算では、年収一千万円の営業を採り間違えて入れ替えると、合計でおよそ一千四百万円、それに丸一年がかかる。日本法人の責任者を採り間違えると、次の人が見つかるまで六か月から一年かかり、そのあいだ日本の事業はほぼ止まる。最初に二か月余分にかけて地図を描くほうが、ずっと安い。

もう一つ、ほとんどお金のかからない手がある。最初の取引の前に、「完了」「品質」「緊急」といった言葉の定義を書き出して、双方の経営層に確認してもらうことだ。日本の顧客と本社とで、こうした言葉の受け取り方はかなり違うことが多い。

通しで走らせたことは、まだない

このページに書いたことは、どれも実際にチームをつくるときに使ってきた。ただ、それを一本の決まった道筋としてつなげ、最初から最後まで通したことはまだない。製品と営業の段の方法も、前のページに書いたとおり、まだ形になりきっていない。

だから、このページはほかのページよりも書き直す回数が多くなると思う。

それぞれの段の進め方は、製品、営業、組織の順に決める理由、四層、等級・手当・賞与にある。全体の順番は全体像にまとめた。

日本市場での立ち上げについて、三言語で書いています。