立ち上げの実務
連合が掲げた6%を、日本法人の人件費予算にどう落とすか
2027春闘と日本法人の人件費
佐藤伸明約8分
来期の人件費予算をつくる季節に、連合が数字を出した。2026年10月22日の中央執行委員会で確認した2027春季生活闘争の基本構想は、賃上げの目安を「6%中心、5%以上」としている。100人以上の会社でも労働組合があるのは二割ほどだが、この数字は組合のない会社にも届く。日本の労働市場で、来年の相場の錨になるのはこれだからだ。問題は、6%という平均値を自社の表にどう分解するかにある。
「6%」には何が入っているのか
定期昇給が入っている。連合の目安は「定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含む上げ幅」として6%中心、5%以上と書かれている。残りがベースアップ、つまり賃金カーブ全体を上に動かす分だ。2026闘争の目安は「賃上げ分3%以上、定昇相当分を含め5%以上」だったので、定昇相当分はおおむね2ポイントと見ている計算になる。2027年の6%のうち賃上げ分について、第一生命経済研究所のレポートは「4%中心、3%以上」と伝えている(連合のプレスリリース本文には、この内訳は書かれていない)。
中小組合には別の目安がある。上の目標値に格差是正分1%以上を足して「20,000円以上・6%以上」。有期・短時間・契約等で働く人については7%を目安に、少なくとも地域別最低賃金の引き上げ率を上回る引き上げに取り組むとしている。
今回は中期の目標も新たに置かれた。2030年に2026年の賃金水準を15%程度上回ること、実質賃金を1%の上昇軌道に安定させることだ。この構想が続くかぎり、毎年5%前後の要求は当分消えない。
日程も決まっている。11月19日の中央執行委員会で方針案、12月2日の中央委員会で正式決定、大手の集中回答日は来年3月中旬。日本法人が予算を固める時期は、ちょうどこの間に挟まっている。
去年の「5%以上」は、どこまで届いたか
全体で5.01%、中小で4.69%だった。連合の2026闘争最終集計(2026年7月3日)では、5,162組合が妥結し、平均賃金方式の加重平均は16,400円・5.01%で、3年連続の5%超え。ただし2025年の5.25%からは0.24ポイント下がった。300人未満の中小組合は12,866円・4.69%。賃上げ分が明確にわかる3,732組合では、賃上げ分は11,510円・3.50%だった。
厚生労働省の集計もある。資本金10億円以上、従業員1,000人以上、労働組合のある428社を対象にした「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」で、2026年は平均18,167円・5.18%。2025年の5.52%より低い。
組合のない会社まで含めた数字は、厚生労働省「賃金引上げ等の実態に関する調査」にある。2025年の調査(常用労働者100人以上の民営企業、有効回答1,847社)では、賃金を引き上げた企業が91.5%、1人平均の改定率は4.4%。規模別では5,000人以上が5.1%、1,000〜4,999人が5.0%、300〜999人が4.0%、100〜299人が3.6%だった。
規模が一段下がるごとに、0.5〜1ポイント落ちる。要求が6%、大手が5%強、100人規模で3.6%。この階段のどこに自社を置くかが、予算の最初の判断になる。
連合は6%を掲げるが、去年中小企業に届いたのは4.69%と3.6%だった
賃上げ率(%、定期昇給込み)。連合「2027春季生活闘争 基本構想」「2026闘争 最終回答集計」、厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ妥結状況」(2026年)、「賃金引上げ等の実態に関する調査」(2025年)、地域別最低賃金答申(2026年度)、「賃金構造基本統計調査」(2025年)
中小企業に実際に届いた率その他
- 2027年の目安定昇込み、中心値6%
- 主要企業428社2026年、厚労省5.18%
- 連合全体2026年、5,162組合5.01%
- 連合の中小組合2026年、300人未満4.69%
- 100人以上の企業2025年、厚労省4.4%
- うち100〜299人2025年3.6%
- 大卒初任給2025年+5.6%
- 最低賃金2026年度、全国加重平均+5.0%
6%は相場の錨であって、まだ自社の数字ではない。定昇、ベア、初任給、最低賃金の四行に分けてから決める。
組合のない会社に、春闘はどう届くのか
相場、候補者、最低賃金の三つの経路で届く。どれも組合を必要としない。
まず、組合のある会社がどれだけあるか。先ほどの厚生労働省の調査では、100人以上の企業で労働組合があるのは22.0%、100〜299人では15.7%だ。大半の会社の賃上げは、交渉の結果ではなく、経営者が相場を見て決めている。「賃金の改定で最も重視した要素」を聞くと、企業の業績が41.7%、労働力の確保・定着が17.0%、雇用の維持が11.9%、世間相場が7.7%、親会社や関連会社の動向が5.9%だった。
世間相場は7.7%しかない、と読むこともできる。ただ「業績」と「確保・定着」の後ろには、候補者と在籍社員が手に持っている数字がある。それが春闘の数字だ。2月から3月、ニュースは毎日どこかの「満額回答」を伝える。社員は連合の方針を読まないが、隣の会社がいくら上がったかは知っている。
二本目は初任給である。厚生労働省の2025年賃金構造基本統計調査で、大学卒の新規学卒者の賃金(初任給にあたる)は262,300円、前年比5.6%増。高校卒は207,300円で5.0%増だった。去年採った新卒より、今年採る新卒のほうが高い、ということが普通に起きる。初任給は賃金カーブの下の端を持ち上げる。真ん中を動かさなければ、入社3年目と1年目が逆転する。
三本目は最低賃金だ。2026年度の全国加重平均は1,177円で、前年度から56円、約5.0%の引き上げ。東京は1,280円で10月1日から適用された。時給で働く人、店舗、倉庫のある会社には、これは動かせない線である。中央最低賃金審議会の小委員会では、労働者側が「全体では3年連続で5%を上回る賃上げ」を根拠に挙げ、使用者側は小規模企業の賃金改定状況調査を見ていた。春闘と最低賃金は、同じ鎖の二つの輪になっている。
自社の表に分解する
四行に分ける。
一行目は定昇である。自社に賃金カーブがあるかどうかを、まず確かめたい。外資の日本法人には定期昇給の制度がなく、昇給はすべて年次評価で決める会社が多い。その場合、社員の目には会社が出す1ポイントがすべてベアに見え、隣の「ベア3.5%」とそのまま比べられる。厚生労働省の調査では100人以上の企業の81.2%に定期昇給制度があり、日本の社員は自社にもあるものだと思っている。定昇のない会社は、総額を「定昇込み」の相場に合わせるか、自社の物差しを社員に説明するか、どちらかをしたほうがいい(どちらもしないと、説明していないほうが損をする)。
二行目はベア。市場が実際に動く部分で、2026年の実績は3.50%、2027年の目安は第一生命経済研究所の整理で4%中心だ。在籍社員の昇給がこれを大きく下回ると、計算は候補者市場がしてくれる。
三行目は初任給と若手。いちばん下の等級の月給を262,300円と見比べる。下回れば新卒が採れず、上回っていても3年目が動いていなければ、3年目が辞める。
四行目は最低賃金。地域ごとに確認し、10月の発効で計算する。パートの時給だけでなく、業務委託契約の中の時給も一緒に見直す。
金額にしてみる。日本法人の年間人件費が1億円だとする。6%なら600万円、会社負担の社会保険料を足すとおよそ1.15倍で690万円ほど。4%なら460万円前後。この差の230万円が、今年決めることの中身である。初年度予算の超過について書いたとき、いちばん大きく外れるのは人の費用だった。その項目は、来年さらに大きくなる。
一律に配るべきかといえば、私はそうは思わない。6%は平均であって、人に分けて初めて意味を持つ。市場の逼迫した職種と要の職位には5%以上を厚く置き、残りはカーブに沿わせる。等級・手当・賞与の三本に分けて決める方法は等級・手当・賞与を分けて決めるに書いた。
最後に、まだ確信が持てないことを一つ。連合の要求は年々上がり、実績は下がりはじめている。2025年5.25%、2026年5.01%。中小は4.65%から4.69%へわずかに上がり、大手との差は縮まったが、まだ残っている。2027年に景気が傾けば、6%は言い値にとどまり、届く数字は4%に近づくかもしれない。それでも私は、4%で予算を組むことは勧めない。5%で組み、1ポイントを手元に残しておくほうが、低く組んで年度の途中で積み増すよりずっと安くつく。
出典(2026年10月時点)
- 連合「2027春季生活闘争 基本構想」プレスリリース(2026年10月22日、第13回中央執行委員会)
- 連合「2026春季生活闘争 基本構想」プレスリリース(2025年10月23日)
- 連合「2026春季生活闘争 第7回(最終)回答集計結果」(2026年7月3日)
- 厚生労働省「令和8年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」(2026年7月31日)
- 厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査」結果の概況
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」新規学卒者の学歴別にみた賃金
- 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」中央最低賃金審議会答申(2026年7月28日)
- 厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」(2026年9月3日)
- 第一生命経済研究所 新家義貴「2027年春闘、初動のモメンタムは現時点で良好」(2026年10月22日)