佐藤伸明Nobu Sato

立ち上げの実務

人事と総務の年間コンプライアンス表

日本のコンプライアンスは一枚のリストにはなりません。法令で定まった期限、自社の人数、事業場のある都道府県——この三つがそれぞれ別に動くからです。しかも「人数」の数え方だけで四通りあります。このページでは、その三つを一つの時間軸に並べ、人事と総務・施設の二つの線で整理しています。年度は4月から翌年3月までです。

2026年10月時点、令和8年度対応
このページの範囲。人事と総務・施設の二つの線だけを扱っています。単一事業場、賃貸オフィス、数十人規模を前提としています。法人税・消費税の申告、会計監査、在留資格の申請手続そのもの、商業登記、外為法の対内直接投資の届出は含みません。それぞれ税理士、会計士、行政書士、司法書士の担当になります。このページを満たせばコンプライアンスが完了する、ということではありません。

数十人規模のオフィスで、なぜ同じ項目が抜けるのか

法令の根拠が明確で、影響も小さくないのに、構造的に抜けやすい項目が十六あります。まずこの節をご覧ください。急ぐべきものがあるかどうかが、一分で分かります。

どこまでが自社の義務で、どこからがオーナーの義務か

建物全体にかかる法定検査はおおむねオーナー側の義務で、テナントは自社の占有部分を負います。海外本社といちばん話が噴み合わないところです。契約時に線を引いておかないと、双方が相手がやっていると思っている項目が残ります。

テナント(自社)

  • 防火管理者の選任と消防計画(建物全体の収容人員で判定)
  • 占有部分の消防用設備の点検と消防訓練
  • 事務所衛生基準規則:照度、換気、気積、便所、休養室
  • 防災備蓄と一斉帰宅の抑制(東京都条例)
  • 安全衛生体制:衛生管理者、産業医、衛生委員会
  • 産業廃棄物のマニフェスト交付と年次報告
  • 自社所有の空調・サーバー室専用機のフロン簡易点検
  • 個人情報の安全管理措置と、海外移転時の個情法28条対応
  • 統括防火管理者の協議会への参加(選任自体はオーナー側)

ビルオーナー・管理会社

  • 建築基準法第12条の定期報告
  • 建築物衛生法の環境衛生管理(3,000㎡以上)
  • 貯水槽の清掃、水質検査
  • エレベーター・エスカレーターの定期検査
  • 自家用電気工作物の法定点検
  • 共用部分の消防用設備の点検
  • ビル中央空調のフロン点検
  • 統括防火管理者の選任と全体についての消防計画
  • 防火対象物点検報告(特定防火対象物のみ)
  • 防災管理者・防災管理点検(大規模建築物)

どの人数で何が発生するのか

ここは「毎年やる」ではなく「ある線を越えたら必ず要る」ものです。法人を新設したとき、人を増やしたときに最初に確認する表になります。各段がどの数え方かにご注意ください。

1人雇った時点から
人数要件なし
  • 労働保険 保険関係成立届(10日以内)、概算保険料申告(50日以内)
  • 雇用保険 適用事業所設置届(10日以内)
  • 社会保険 新規適用届
  • 労働条件の明示(令和6年4月から就業場所・業務の変更の範囲、更新上限、無期転換申込機会)
  • パワハラ防止措置:方針の明確化と周知、相談窓口、事後の対応
  • カスハラ・就活セクハラ防止措置(令和8年10月1日から)
  • 雇入れ時の安全衛生教育8項目と雇入時健診
  • 年5日の年次有給休暇の時季指定(年10日以上付与される者)
  • 年次有給休暇管理簿(3年保存)
  • 労働時間の状況の把握(毎月、記録3年保存)
  • 月80時間超の本人通知(規模を問わず)
残業をさせる場合
人数要件なし
  • 36協定の締結・届出(有効期間の開始前までに到達、毎年更新)
  • 上限は月45時間・年360時間。特別条項でも年720時間、月100時間未満、複数月平匇80時間、月45時間超は年6回まで
事業場で10人以上
事業場単位
  • 就業規則の作成・届出と意見聴取(変更のたびに)
  • 衛生推進者の選任(届出不要、ただし周知が必要)
企業で21人以上
企業単位
  • 高年齢者雇用状況等報告(6月1日現在→ 7月15日)。対象事業主にはハローワークから報告書が送付されます
企業で37.5人以上
企業単位
  • 障害者雇用義務(令和8年7月から法定雇用率2.7%)
  • 障害者雇用状況報告(6月1日現在→ 7月15日)
  • 障害者雇用推進者の選任(努力義務)
事業場で50人以上、または女性30人以上
事業場単位
  • 衛生管理者・産業医の選任(14日以内)と選任報告
  • 衛生委員会の設置、毎月1回以上開催、議事録3年保存
  • ストレスチェックの実施(1年以内ごとに1回)と検査結果等報告書
  • 定期健康診断結果報告書(健診後遅滞なく)
  • 臥床できる休養室・休養所を男女別に
  • 産業医の職場巡視 月1回、衛生管理者の巡視 週1回
厚年被保険者が51人以上
企業単位(同一法人番号)
  • 短時間労働者への社保適用:週20時間以上、月額8.8万円以上、学生でない、2か月超の雇用見込み
  • 2027年10月に36人、2029年10月に21人、2032年10月に11人、2035年10月に要件撤廃
対象障害者が5人以上
事業所単位
  • 障害者職業生活相談員の選任(3か月以内)→ 遅滞なくハローワークへ届出
常用労働者が100人超
企業単位
  • 障害者雇用納付金の申告・納付(不足1人につき月5万円)
企業で101人以上
企業単位
  • 女性活躍推進法:一般事業主行動計画の策定・届出・公表
  • 令和8年4月から:男女間賃金差異と女性管理職比率の公表
  • 次世代法:一般事業主行動計画(101人超)
企業で300人超
企業単位
  • 育児休業取得状況の公表(令和7年4月に1,000人超から300人超へ)
建物全体の収容人員が50人・30人以上
消防法・建物全体
  • 防火管理者選任届と消防計画の作成・届出(事務所50人以上、特定用途を含む建物30人以上)
  • 各テナントがそれぞれ選任。管理権原が分かれた建物には統括防火管理者
23区内の床面積合計が1,000㎡超
事業所税
  • 事業所税 資産割の課税(従業者割は100人超)
  • 800〜1,000㎡、または従業者80〜100人なら「免税点以下申告」が必要。納税額はゼロでも申告は要ります

なぜ二月が社会保険料を決めるのか

7月に出す算定基礎届が見るのは4・5・6月の報酬だけで、それが9月から一年分の社会保険料の基礎になるからです。7月の時点で数字はもう動きません。動かせるのは二月の業務配分の判断で、これが年間で唯一、月をまたいで効いてくる関係です。

2月
四〜六月の業務の置き方を決める
繁忙期をどの四半期に寄せるか、一時金をいつ出すか、残業が集中する月をどこにするか。人事だけでは決められず、事業側との合意が必要です
4〜6月
この三か月の実際の報酬
算定基礎届が見るのはこの三か月だけ
7月1〜10日
算定基礎届の提出
提出した時点で数字は動かせません
9月〜翌8月
新しい標準報酬月額の適用
労使双方の一年分の社会保険料の基礎

念のため書いておくと、あくまで実態のある業務配分の見直しが前提です。保険料を下げることを目的にした形だけの調整は、性質が違う話になります。

月ごとにやること

日付は法定の期限です。土日祝に当たる場合は翌営業日。料率や金額は毎年変わるため載せていません。本文に書いた数字は翌年に誰も直さないからです。青緑が人事、緑が総務・施設の線です。

4月

年度の始まり
  • 健康保険料率・介護保険料率の改定適用3月分から
    4月納付分から
  • 子ども・子育て支援金の徴収開始4月分から
    5月納付分から。令和8年度からの新制度
  • 36協定の発効4月1日
    3月までに届出済みであることが前提
  • 労働者死傷病報告(休業1〜3日・1〜3月分)4月末
    労基署。令和7年1月から電子申請が原則
  • 収容人員の再確認と防災備蓄の棚卸し年度初
    席を増やして50人を超えると防火管理者が必要に。東京都条例は従業員3日分

5月

六月の申告準備
  • 特別徴収税額決定通知書の受領5月31日まで
    市区町村から送付。6月給与から新税額を反映
  • 確定保険料の算出と賃金集計準備
    前年4月1日から3月31日、雇用保険の対象者区分ごと
  • マニフェスト交付状況の集計準備
    6月30日の報告に向けて。紙のマニフェストのみ

6月

申告が始まります
  • 労働保険の年度更新 申告・納付6/1〜7/10
    労働局・労基署
  • 住民税 特別徴収の新年度税額6月支給分
    6月支給の給与から
  • 障害者・高年齢者雇用状況の基準日6月1日
    この日の人数で、七月の報告義務の有無が決まります
  • 産業廃棄物管理票交付等状況報告書6月30日
    都道府県・政令市。前年度4/1〜3/31分。電子マニフェストは不要

7月

年間で最も集中
  • 算定基礎届7/1〜7/10
    年金事務所。9月以降一年分の社保の基礎になります
  • 労働保険の年度更新 期限7月10日
    労働局・労基署
  • 源泉所得税 納期の特例(1〜6月分)7月10日
    税務署。給与の支給人員が常時10人未満の場合のみ
  • 障害者・高年齢者雇用状況報告7月15日
    ハローワーク、6月1日基準
  • 労働者死傷病報告(4〜6月分)7月末
    労基署

8月

法定期限なし
  • 年5日の年次有給休暇の中間確認期限なし
    基準日が人によって異なるため、一人ずつ残日数を見ます
  • 消防用設備の総合点検の手配と防災訓練の企画期限なし
    8月と二月は法定期限が入っていない唯一の月で、制度設計や規程改定は実質ここでしかできません

9月

新しい標準報酬の適用
  • 新しい標準報酬月額の適用9月分から
    10月納付分から
  • 最低賃金の答申確認と賃金テーブルの改定答申後
    拠点ごとの額と発効日を確認し、発効日に合わせて個別に改定します
  • ストレスチェックの実施1年以内に1回
    50人以上は義務。実施後に労基署へ報告
  • 避難訓練・安否確認の試行9月1日前後
    防災の日。消防計画に定めた回数に算入できます

10月

最低賃金の発効
  • 地域別最低賃金の発効県ごと
    令和8年度は10/1〜12/2に順次。10月発効37都道府県のうゖ10月1日は15だけで、月途中発効の県はその月の給与を期間で分けて計算します
  • 年末調整書類の配布10月
    従業員へ
  • 労働者死傷病報告(7〜9月分)10月末
    労基署

11月

  • 年末調整書類の回収と年5日未達者のリスト化11月
    未達者には計画的付与を案内します
  • 11月発効の府県の最低賃金対応県ごと
    山梨・徳島・愛媛・大分・長崎・佐賀・京都
  • 秋季全国火災予防運動11/9〜11/15
    この週に合わせて訓練と点検を行う会社が多いです

12月

年末調整
  • 年末調整の完了12月
    源泉徴収票の本人交付期限は翌年1月の欄
  • 12月発効の県の最低賃金対応県ごと
    岩手・熊本は12/1、沖縄は12/2
  • 長期休暇前の火元確認と機密文書・OA機器の廃棄休暇前
    廃棄にはマニフェストを交付し、写しは5年保存

1月

提出が続く月
  • 源泉所得税 納期の特例(7〜12月分)1月20日
    税務署。常時10人未満の場合のみで、1月末ではありません
  • 法定調書合計表・給与支払報告書・源泉徴収票の交付1月31日
    合計表は税務署、給与支払報告書は各従業員の1月1日現在の住所地の市区町村へ
  • 不動産の使用料等の支払調書1月31日
    税務署。個人オーナーに賭料を支払っている場合。法定調書一式の一部ですが見落とされがちです
  • 償却資産申告1月31日
    東京23区は都税事務所の償却資産班。区役所ではありません。テナント施工の内装・造作はテナントが申告
  • 労働者死傷病報告(10〜12月分)1月末
    労基署

2月

法定期限なし・判断の月
  • 36協定の締結と就業規則改定の意見聴取今月中
    過半数代表者の選出手続そのものに時間がかかるため、一月から着手します
  • 四〜六月の業務配分の決定判断
    翌年度の標準報酬月額に直結します。上の「二月の連鎖」をご覧ください
  • 新年度のレイアウト変更・増床の検討今月中
    収容人員が変われば消防計画の変更届が必要です

3月

新年度の準備
  • 36協定の届出4月1日まで
    労基署。有効期間の開始前までに到達する必要があります
  • 就業規則変更届と給与システムの料率設定変更施行前
    健康保険・介護保険の新料率は3月分から適用
  • 消防計画の変更届と内装工事の事前確認変更時
    間仕切りや避難経路は消防用設備に影響するため、着工前に消防署と調整します

カレンダーに乗らないものは何か

三つあります。別の周期で回るもの、入社や災害などの事由で動くもの、そして法人やオフィスが新しいときだけ発生するものです。カレンダーに入れると各行が条件判断になるため、ここに分けています。

いつ何を届出先
別の周期で回るもの
6か月・1年ごと消防用設備の機器点検は6か月ごと、総合点検は1年ごと記録保存
3年ごと上記点検結果の報告(事務所は非特定防火対象物)。特定防火対象物なら1年ごと消防署
2か月以内ごと空気環境測定(中央管理方式の空調がある事務室)。記録は3年保存記録保存
3か月ごとフロン法の簡易点検。自社所有の空調やサーバー室専用機が対象記録保存
6か月以内ごと照明設備の点検、大掃除、そして深夜業従事者の特定業務従事者健診記録保存
毎週・毎月衛生管理者の巡視は週1回、産業医は月1回、衛生委員会は月1回以上で議事録3年保存記録保存
毎月、速やかに月80時間超の者の氏名と時間数を産業医へ情報提供。該当者なしも報告し、本人へも通知記録保存
毎月、翌月10日源泉所得税と住民税の納付。社会保険料は翌月末日まで税務署・市区町村・年金事務所
保存労働者名簿・賃金台帳・出勤簿は5年(経過措置で当分の間3年)。年次有給休暇管理簿は3年。マニフェストと委託契約書は5年記録保存
事由が発生したら
採用健康保険・厚年の資格取得5日以内、雇用保険は翌月10日、労働条件通知書は雇入れ時、雇入時健診と安全衛生教育8項目年金事務所・ハローワーク
外国人の採用外国人雇用状況の届出。雇用保険の被保険者は翌月10日、それ以外は翌月末日。怠ると30万円以下の罰金。在留カードと期限の管理も継続してハローワーク
報酬・身分の変更固定的賃金の変動で2等級以上なら月額変更届、賞与は支給後5日以内、産休・育休の保険料免除届、育児後の養育期間特例(従業員に有利だが案内されていない)年金事務所
退職健康保険・厚年の資格喪失届5日以内、雇用保険は離職の翌日から10日以内、給与所得者異動届出書は翌月10日年金事務所・ハローワーク・市区町村
災害休業4日以上は発生後遅滞なく、休業1〜3日は四半期ごと。令和7年1月から電子申請が原則労基署
個人情報の漏えい速報は速やかに(概ね3〜5日)、確報は30日以内(不正の目的によるものは60日)、本人への通知も個人情報保護委員会
法人・オフィスが新しいときの一度だけ
初めての採用社会保険新規適用5日以内、労働保険成立10日以内と概算保険料50日以内、雇用保険設置10日以内年金事務所・労基署・ハローワーク
給与の支払開始給与支払事務所等の開設届出書、1か月以内税務署
入居防火対象物使用開始届は使用開始7日前(工事なしでも必要)、工事を伴うなら工事等計画届出書が着工7日前、防火管理者選任と消防計画は入居と同時消防署
内装・移転大規模な修繕・模様替や200㎡超の用途変更は確認申請、事業所税の新設・廃止申告は1か月以内、本店移転登記は2週間以内、給与支払事務所の移転届は移転前の税務署へ建築主事・都税事務所・法務局・税務署

数十人規模では該当しないもの

海外本社からよく聞かれる項目のうち、この規模では該当しないものです。「たぶん不要です」ではなく、閾値を示して答えられるようにするための節です。

「人数」の数え方はいくつあるのか

四つです。同じ会社でも数え方によって人数が変わるため、それぞれ別に数える必要があります。全体で六十人、事業場が二つに分かれている会社だと、事業場単位では何も発生せず、企業単位ではすでに二件発生している、ということが起こります。

数え方根拠要点
建物全体の収容人員消防法事務所などの非特定用途は50人以上、特定用途を含む建物は30人以上。自社だけでなく建物全体で数え、各テナントがそれぞれ防火管理者を選任します
事業場単位労基法・安衛法10人以上で就業規則と衛生推進者、50人以上で衛生管理者・産業医・衛生委員会・ストレスチェック・健診結果報告・休養室
企業単位雇用・均等系21人以上で高年齢者報告、37.5人以上で障害者雇用義務、100人超で納付金、101人以上で女活法の公表、300人超で育休の公表
厚生年金被保険者数短時間労働者への適用拡大同一法人番号の全事業所の合計(短時間労働者を除く)。現在51人以上。2027年10月に36人、2029年に21人、2032年に11人、2035年に撤廃

免責事項

本ページは、日本法人の年間コンプライアンスの全体像を把握するために整理した一般的な参考資料です。法律・税務・社会保険に関する専門的助言ではなく、社会保険労務士、税理士、弁護士、行政書士による個別の判断に代わるものではありません。

記載内容は2026年10月時点の法令に基づきます。料率、金額、法定雇用率、発効日は毎年改定され、一部の項目は作成後に変更されている可能性があります。実務上の判断は、その年度の公表値と、所轄の労働基準監督署、年金事務所、ハローワーク、税務署、消防署、都道府県の案内によってご確認ください。

人数要件、適用範囲、届出先は、事業場の所在地、建物の用途、雇用形態、市区町村の条例、賃貸借契約、建物の管理規約によって変わります。本ページは単一事業場・賃貸オフィス・数十人規模を前提としており、前提が異なれば結論も変わります。

「努力義務」と記した項目は法定義務ではありません。逆に、記載のない項目が存在しないことを保証するものでもありません。業種特有の規制、危険物や車両を扱う場合、海外派遣、派遣労働者の受入れなどには、本ページが扱っていない義務があります。

「高年齢者雇用状況等報告」の人数要件(21人以上)は二次情報に基づくため、所轄のハローワークでご確認ください。対象事業主には通常ハローワークから報告書が送付されます。

本ページの利用により生じたいかなる判断および結果についても、作成者は責任を負いません。

佐藤伸明 · プロフィール

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