佐藤伸明 Nobu Sato

ディズニーが引き取った66人 チーム買収は人材マップの一区画

一人ずつ採る・チームを迎える・社内で育てる・待つを、能力の集まり方と待てるかどうかで分けた2×2の図

2026年10月12日、Character.AI の運営会社が米国で破産を申請した。10月半ばには、ディズニーが同社の社員66人に6,000万ドルを払うという見出しが流れた。この見出しだけ読むと、つい割り算をしたくなる。一人あたり約90万ドル。ずいぶん高い買い物に見えるが、元の資料をたどると、この割り算は意味を取り違えていた。6,000万ドルは買収額にあたるものではない。66人前後の一年分の報酬の見積りである。ディズニーが手に入れたのは、会社でも製品でもなく、一つのチームと技術の利用権だった。

この取引で、ディズニーは何を手に入れたのか

手に入れたのは、技術の使用許諾と、約65人のチームである。会社そのものは買っていない。

Character.AI は、AI のキャラクターと会話できるサービスを運営する米国の会社だ。運営会社の Character Technologies は2026年10月12日、米デラウェア州の連邦破産裁判所に連邦破産法第11章(チャプター11)の適用を申請した。同社の公式ブログによれば、理由はこの一年の「法務、規制、運営上の大きな逆風」で、裁判所の監督のもとで売却手続きを進め、11月下旬から12月初めの完了を見込んでいる。

ディズニーの子会社 Disney Worldwide Services は、この手続きに2,000万ドルで最初の買い手候補(ストーキングホース。先に下限の価格を示し、ほかの買い手はそれを上回る額で競る)として名乗り出た。対象は一部の技術についての永続的・非独占的な使用許諾で、裁判資料を引いた報道によれば、完成済みのモデル、利用者データ、ブランドは含まれない。

人のほうは、Business Insider と Bloomberg が裁判資料をもとに報じている。ディズニーは約65人に採用の申し出をし、Business Insider の見出しでは66人。この人たちの年間報酬は、給与・賞与・ディズニー株を合わせて約6,000万ドルと見積もられている。これとは別に3,000万ドルの引き留め用の原資があり、取引から1年後と2年後に分けて支払われる。Bloomberg によれば、ディズニーは3年間の総額を約1億8,000万ドルと見込んでいる。

もう一つ、日付を並べておきたい。ディズニーは2026年9月18日、Character.AI の CEO だった Karandeep Anand 氏を同社初の最高技術責任者(CTO)に迎えると発表し、就任は10月2日だった。率いていた人が先に移り、その4週間足らずのちに会社が破産を申請し、チームがあとを追った。順番としてはそういうことになる。

同じチームが、二度切り出されている

Character.AI のチームが丸ごと動くのは、実はこれが初めてではない。

2024年8月、Character.AI は Google との合意を公表した。自社の大規模言語モデル技術を非独占で Google に使用許諾し、共同創業者の Noam Shazeer 氏と Daniel De Freitas 氏、それに研究チームの一部が Google に移るという内容だ。会社は売らずに、人が動いた。それから2年あまりで、残ったチームの大半が元 CEO のあとを追ってディズニーに移ることになる。

同じ2024年には、Microsoft も似た形の取引をしている。AI 企業 Inflection から共同創業者の Mustafa Suleyman 氏、チーフサイエンティストの Karen Simonyan 氏とチームのほぼ全員を採用し、あわせて技術の使用許諾を受けた。英国の競争・市場庁(CMA)は2024年9月、この採用を「合併の状況」にあたると認定したうえで、競争を実質的に弱めるおそれはないとして承認した。

英国の規制当局は、このチームの採用を合併として審査した。言い換えれば、チームを迎える取引は、買う対象が人になった M&A だということだ。

能力が一つのチームに集まり、待てないときに限って、チームを買う選択肢が出てくる

人材マップから補充の方法を決める。横軸は、必要な能力が一つ目の円のなかで複数社に散っているか、一つのチームに集まっているか。縦軸は事業が待てるかどうか。ディズニーと Character.AI の例は右上

横:散らばる ← 一つ目の円での能力の分布 → 一つのチームに集まる 縦:上=待てない、下=待てる

一人ずつ採る

一つ目の円の人が数社に散っている。鍵になる人に一人ずつ接触し、市場の報酬水準で提示する

チームを迎える

能力が一つのチームにしかなく、そのチームが揺らいでいる。ディズニーは率いる人を先に迎え、約65人を年間報酬約6,000万ドルで引き取った

社内で育てる

二つ目、三つ目の円から採り、社内に教えられる人がいる。時間はかかるが、報酬と定着は自分で決められる

待つ

能力は一つのチームに集まっているが、相手はまだ安定している。資金調達、訴訟、中心人物の退職といった兆しを見ておく

チームを迎えるのは右上の一マスでの打ち手だ。人材マップを描いていなければ、自社がどのマスにいるかもわからない。

図1 人の補充には一人ずつ採る・チームを迎える・社内で育てる・待つの四つがあり、必要な能力が人材マップの一つ目の円で散っているか一つのチームに集まっているか、事業が待てるかで決まる。ディズニーが Character.AI の破産手続きのなかで約65人を年間報酬約6,000万ドルで引き取ったのは、集まっていて待てないマスにあたる。

人材マップで見ると、一区画をまとめて買っている

私の方法では、採用の前に市場地図と人材マップの二枚を描く(二枚の地図に書いた)。人材マップには、市場地図に載った会社のどの職能が求める人と重なるか、鍵になる人がどこにいるか、市場がいくら払っているかを書き込む。そのうえで、対象の領域からの距離で人を三つの円に分ける。一つ目の円は同じ問題、同じ仕事。二つ目は隣の領域。三つ目は育成の計画があって初めて使える人たちである。

ふだん、一つ目の円の人は何社かに散らばっていて、一人ずつ口説くしかない。チームを迎える取引は、その一つ目の円のなかの一区画、同じ上司のもとで同じコードを触り、互いの癖まで知っている数十人を、区画ごと移すことにあたる。

区画ごと買うと、高くつく理由が二つある。一つは、能力だけでなく、互いの呼吸まで買っていることだ。これは一人ずつ採っても手に入らない。もう一つは、その人たちの報酬水準も一緒に買っていることだ。ディズニーの年6,000万ドルは、人材マップのこの区画につけられた値札だと読める。

逆に言えば、人材マップがあれば、いつ一人ずつ採り、いつ区画ごと迎え、いつ待つかの見当がつく。人材マップは名簿ではないと書いたのは、このためでもある。

日本で採用を考える会社にとっての意味

日本で事業を立ち上げる会社の多くは、チームを丸ごと迎えることはまずないだろう。それでも、この見方は役に立つ。欲しい人材が日本で散らばっているのか、集まっているのか、という問いを先に立てられるからだ。

散らばっているなら、たとえば法人営業や経理、人事なら、一人ずつ採ればいい。費用は一人雇うと、給与の何倍かかるかで見積もっておく。

集まっているなら話が変わる。ある狭い分野の技術チームで、国内で担える人が一つか二つの集団に限られるような場合、一人だけ引き抜いても動かないことが多いし、動いても仕事がつながらない。相手が揺らぐのを待つか、提携や使用許諾、チームごとの受け入れといった道を真剣に検討するか、になる。ディズニーの手順から学べるのは、率いる人を先に迎えると、チームの気持ちもそちらに向かいやすいということだろう。

もう一つ、忘れられがちな勘定がある。チームを迎えれば、元の報酬水準も一緒に入ってくる。年間報酬が一人平均約90万ドルという水準は、どの会社の報酬体系に入れても目立つ数字だ。引き留めの原資は2年で払い終わる。3年目にどう残ってもらうかは、迎える前から考えておく必要がある。

この取引はまだ終わっていない。2026年10月時点で裁判所の売却手続きは続いていて、ほかの買い手が上回る額を出す余地も残っている。私に見えているのは公開された数枚の資料だけで、66人がディズニーで定着するのか、何をつくるのかは、まだ誰にもわからない。

自社の人材マップを広げたとき、ひと固まりになっている区画はあるだろうか。あるとしたら、その区画はいま、安定しているだろうか。


日本市場での立ち上げについて、三言語で書いています。