佐藤伸明 Nobu Sato

八割の企業がクラウドを使っている。何に使っているのか

八割の企業がクラウドを使っている。何に使っているのか

連載「日本に入る前に見ておく五つの数字」 · 第5回/全5回

総務省は毎年「通信利用動向調査」を行っている。2024年の結果では、日本企業の八割超がクラウドサービスを利用している。十年前は四割台だった。

八割という数字は、何を証明するためにも使える。日本のデジタル化は遅れていると言いたい人は、米国はとうに九割を超えていると言い、遅れていないと言いたい人は、八割はもう主流だと言う。どちらも、日本に入ろうとするソフトウェア企業にとって本当に役立つ問いには触れていない。その八割は、クラウドで何をしているのか。

用途で分ける

同じ調査が用途別に分けている。ファイル保管・データ共有が71%。社内情報共有・ポータルが58%。電子メールが57%。給与、財務会計、人事といった業務系はやっと50%を超えたところ。スケジュール共有も50%をわずかに超えた程度。

つまり八割の企業がクラウドを使っているが、多くが使っているのはいちばん浅い層だ。ファイルを手元のディスクからネット上に移した。業務の流れそのものをクラウドに載せているのは半分ほどで、しかも給与や会計のように法定の書式があり、会社が自分で流れを定義しなくてよい領域に集中している。

中小機構が2025年末に中小企業千社に聞いた調査では、DXに取り組んでいる、または検討中と答えたのは39%。上の数字と矛盾しない。ファイルをクラウドに置くことはDXではなく、中小企業の六割は自分たちに必要だとも思っていない。

ファイル保管・データ共有71.0%社内情報共有・ポータル57.6%電子メール56.8%給与・財務会計・人事52%スケジュール共有51%クラウド利用企業の用途別割合 · 総務省 2024

Fig.1クラウドを利用する企業の用途別割合。ファイル保管が七割、業務系はやっと半分。給与とスケジュールは調査本文で「50%超」とのみ記載され、図では51〜52で示した。

よくある読み方:遅れている、または遅れていない

どちらの読み方も「日本はどの段階にいるか」に答えようとしていて、それは研究者の問いだ。参入者の問いは別にある。この市場はいま、どんな製品を受け止められるか。

方法論の読み方:製品戦略は販売に先立つ

私が参入を設計する順序は、二枚の地図を描き、製品を決め、販売を決め、最後に組織を決める、というものだ。製品の段階で問うのは、市場の受容の構造はどうなっていて、自社の製品はどんな形で入れば受け止めてもらえるか、だ。

この数字が描く受容の構造はこうだ。顧客は物をクラウドに置くことには慣れたが、流れをクラウドに預けることには慣れていない。「保管」や「通信」のような置き換え型の道具は受け入れるが、「私たちの働き方を変える」道具には明らかな遅れがある。構造的な理由もある。日本企業の業務の流れは会社ごとに高度に固有で、一社ごとに違う。ソフトの流れに合わせることを顧客に求める SaaS が日本で出会うのは、「うちのやり方は違う」という言葉だ。

本社の製品は、本国では「流れが標準化されていて、顧客がソフトに合わせることを厭わない」市場で育ったものが多い。それを「八割がファイル保管、半分が業務、しかも一社ごとに流れが違う」市場にそのまま持ち込んで売れないのは、営業の問題ではなく、製品の形と受容の構造が合っていないからだ。

行動に落とす:製品の形を受容の構造に合わせる

この数字が変える参入の判断は、製品の何を先に変えるか、だ。

三つの方向がある。一つ、入口を、顧客がすでに使っている層に置く。ファイルとメールは七割が使っているもので、新しい道具が「いまクラウドにあるファイルをうまく管理する」ところから入れば、「ワークフローを入れ替える」ところから入るよりずっと速い。二つ、流れを設定可能にして、固定しない。日本の顧客は自分たちのやり方に合わせることを求め、製品にその余地を残す必要がある。本国版では一度も必要なかったとしても。三つ、置き換えを先に売り、変化はあとで売る。初年度に売るのは「いまのやり方と同じ、ただしクラウドで」で、二年目に効率を売る。順序を逆にすると、初年度に「うちのやり方は違う」で門前払いになる。

これはコンウェイの法則の記事の裏側でもある。日本チームがどの機能を受け持つべきかの答えが、ここにある。ローカライズとは画面を訳すことではなく、流れを設定可能にする層を作ることで、その塊は日本チームが完全に所有すべきだ。

自分で確かめる

日本に持ち込もうとしている製品は、顧客にいまあるものをクラウドに置かせるものか、それとも働き方を変えさせるものか。後者なら、初年度の販売予測は「市場の半分はまだ準備ができていない」前提で割り引く必要がある。


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