佐藤伸明 Nobu Sato

富士通、新卒の初任給を学歴で決めるのをやめた

目次5
  1. 富士通は何を変えたのか
  2. 管理職から始めて、新卒は最後だった
  3. 日本の初任給は、まだ学歴で決まっている
  4. 仕事で初任給を決めるには、何が先に要るのか?
  5. 外資が日本で新卒を採るなら

2025年に大学を出て働き始めた人の初任給は、平均26万2,300円だった。高校卒は20万7,300円、大学院卒は29万9,000円。厚生労働省の統計は、学歴ごとに数字を一本ずつ並べる。日本の新卒の給料は、どの学校を出たかでほぼ決まる。そういう前提がある。富士通は2026年4月入社の新卒から、この前提を外した。

富士通は何を変えたのか

富士通は2026年4月入社の新卒から、初任給を学歴別の一律額で決めるのをやめ、就くジョブと職責のレベルで決めることにした。発表は2024年6月21日である。それまでは修士なら幾ら、学士なら幾らと、学歴ごとに額が一つ決まっていた。新しいやり方では、同じ年に同じ大学から入っても、どのジョブに就くかで額が変わる。

会社は金額の細かい表を出していない。報道では、高い専門性が要るジョブには40万円を超える初任給もあり得るとされた(共同通信、2024年6月)。従来の初任給は20万円台後半だったと伝えられている(Business Journal、2024年6月28日)。同期の間で、十万円単位の差がつく可能性があるということだ。

あわせて、1〜6か月の有償の長期インターンシップを広げる。実際の事業の仕事を、社内の専門家と一緒にやる形式だという。地味に見えるが、この点はあとで効いてくる。

管理職から始めて、新卒は最後だった

新卒への適用は、六年がかりの移行の最後の一手である。富士通は2020年4月に管理職約1万5,000人、2022年4月に一般社員約4万5,000人へ、ジョブ型の人材マネジメントを広げてきた。新卒は、その外に残っていた最後の入口だった。

2025年には、新卒一括採用そのものを事実上やめた。職種ごとに必要な人数を、新卒か中途かを問わず通年で採る。同社の最高人事責任者は、退職の見込みから新人の補充数を逆算する計画はもう成り立たないと話し、「必要な時に必要な人材を採っていく」と述べている(Business Insider Japan、2025年6月)。2026年初めのインタビューでは、時田隆仁社長が採用の権限を各事業部門に委ねたと説明し、「ヘッドカウント(人員数)ベースの事業はもう持たない」と語った。

この順番には意味があると思う。管理職で職務記述書と等級の運用を回し、一般社員に広げ、最後に職歴のない人の値付けに手をつけた。逆の順番だったら、たぶん最初の年で止まっていた(新卒の配属先を全部ジョブで書ける会社は、そう多くない)。

日本の初任給は、まだ学歴で決まっている

多くの日本企業で、新卒の初任給は今も学歴ごとに一律である。統計の取り方からしてそうなっている。厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」の新規学卒者の賃金は、大学院卒29万9,000円、大学卒26万2,300円、専門学校卒23万700円、高専・短大卒23万5,500円、高校卒20万7,300円と、学歴別に一つずつ出る。労務行政研究所の2026年度調査(東証プライム上場205社)も、大学卒の「一律」の初任給を26万5,708円と集計している。

日本の初任給は学歴で決まる。富士通は仕事で決め、40万円超もあり得る

新規学卒者の月額賃金(厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」)と、富士通の2026年4月入社からの初任給の報道値(共同通信、2024年6月)。バーは45万円を満幅とする

学歴で一律 厚生労働省、2025年
  • 高校卒
    20.7万円
  • 高専・短大卒
    23.6万円
  • 大学卒
    26.2万円
  • 大学院卒
    29.9万円
仕事で決める 富士通、2026年4月入社から
  • 高度な専門性のジョブ報道値
    40万円超

学歴が同じでも、就く仕事で額が変わる。その前提は、仕事ごとに職位が書けていることだ。

図1 2025年の新卒の月額賃金は高校卒20万7,300円、大学卒26万2,300円、大学院卒29万9,000円と学歴で分かれるが、富士通は2026年4月入社から仕事と職責のレベルで初任給を決め、高度な専門性のジョブでは40万円を超える例もあり得ると報じられた。

額は上がっている。決め方は変わっていない。経団連の2025年の調査では、過去3年で初任給を引き上げた企業が95.5%、理由の最多は「人材の確保」で83.4%だった。その一方で、既存社員の給与も上げたが新卒との差は縮んだ、という企業が38.7%ある。全員一律の額で競り合うと、入社3年目と新人の差が詰まっていく。一律という仕組みそのものが、このきしみを生んでいる。

「ジョブ型を入れた」という会社の数字も、割り引いて読んだほうがいい。同じ経団連の調査で、ジョブ型を導入済み・予定・検討中と答えた企業は26.4%。そのうち適用範囲を社員全員とした企業は22.9%にとどまる。社員全員を対象にする会社は、予定・検討中まで含めて粗く掛け合わせても、回答企業の一桁台にとどまる。この数字の読み方は「ジョブ型」を名乗る会社の実態に書いた。

仕事で初任給を決めるには、何が先に要るのか?

仕事で初任給を決めるには、給与表より先に、職務の定義と等級が要る。どの仕事がどのレベルなのかが書けていなければ、額に根拠がない。富士通の場合、それは管理職で4年以上、一般社員で2年回してきた職務記述書と、「FUJITSU Level」と呼ぶ等級だった。新卒への適用は、その土台の上に乗っている。

ここを飛ばして給与表だけ差し替えると、何が起きるか。たいてい、高い額を出したい学生に高い等級を付ける、という逆算が起きる。等級が交渉の結果になる。私は給与を決める順番を、合うかどうかを確かめる、等級を決める、職位の責任のぶんの手当を載せる、最後に額を見せる、としている(等級・手当・賞与を分けて決める)。額から先に話すと、等級はあとづけになる。

もう一つは、職位そのものを先に採点しておくことだ。任せる範囲が細切れで、自分で決められることがなく、結果が本人に返ってこない職位は、誰を採っても長く続かない(人より先に、職位を採点する)。新卒向けの「ジョブ」を書くときほど、この点数は低く出やすい。

外資が日本で新卒を採るなら

日本で新卒や若手を採る外国企業がまずやるべきなのは、職務型を名乗る前に、新卒が就く職位を一つずつ書き出すことだ。本国にジョブ型の等級表があっても、日本法人の新卒ポジションが「営業アシスタント」「エンジニア(配属未定)」のままなら、その等級表は日本では使えない。

日本の新卒は、配属が決まっていない状態に慣れている。配属は会社が決めるもの、と思っている。そこに「あなたはこのジョブ、このレベル、この額」と出すなら、そのジョブが入社後に勝手に変わらないことまで含めて約束することになる。配属を変えたら額も変わるのか。下がることもあるのか。ここに答えられないなら、それは職務型の看板をかけた一律初任給である。

逆に、ここが書ければ強い。高い額を学歴でなく仕事の中身で説明できるので、大手と一律額の高さだけで競わなくて済む。採用ページで「初任給30万円」と大きく書くより、何をする職位で、どこまで任せるかを書いたほうが、合う人が来る。

最後までよく分からないのは、職歴のない人をどうやってレベルに当てはめるかだ。中途なら過去の仕事が証拠になる。新卒にはそれがほとんどない。富士通が有償インターンを1〜6か月に広げたのは、おそらくここへの答えで、実際の仕事を一緒にやれば、等級を付ける材料が手に入る。面接の印象だけで40万円を払うのは、会社にとっても本人にとっても危うい。

自社の新卒ポジションのうち、職務記述書として書けるものはいくつあるだろうか。その数が、職務型にどこまで近づいているかを示す、いちばん正直な指標だと思う。


日本市場での立ち上げについて、三言語で書いています。