人手不足倒産427件、過去最多の中身を読む

帝国データバンクが2025年に「人手不足倒産」と判定した倒産は427件だった。前年の342件から24.9%増え、3年連続で過去最多を更新し、年間で初めて400件を超えた。見出しとして強い数字だが、何を数えたものかを一度確かめておきたい。
採用と組織づくりを長く仕事にしてきたので、この種の数字が出るたびに社内外で話題になるのを見てきた。ただ、「人が足りなくて会社が潰れている」と一言で受け取ると、読み違える部分がある。
427件は倒産全体の約4%、廃業は含まない
427件は、法的整理(破産、民事再生など)に入った負債1000万円以上の倒産のうち、帝国データバンクが「従業員の退職や採用難、人件費高騰などが原因」と判断したものの件数である。民間の調査会社による分類であり、法律上の区分でも公的統計でもない。
母数も見ておく。同社の集計では2025年の倒産は全体で1万261件だったから、人手不足倒産はその約4%にあたる。また、法的整理に入らずに自主的に廃業や休業を選んだ会社はこの数字に入らない。人が採れずに静かに店を閉めた小さな会社は、ここには出てこない。
Fig.1帝国データバンクの集計では、人手不足倒産は2020〜21年にいったん減った後、2023年から3年連続で過去最多を更新し、2025年は427件になった。2026年上半期は227件(前年同期202件)。出典:帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年)」2026年1月、同「倒産集計 2026年上半期」2026年7月。
どの業種の、どの規模の会社なのか
業種で最も多いのは建設業の113件で、初めて100件を超えた。次が物流業の52件で、こちらも過去最多だ。ほかに老人福祉事業21件、労働者派遣業13件、美容業11件、警備業10件と、人が現場に立たないと売上が立たない業種が並ぶ(いずれも帝国データバンク、2025年)。
規模の偏りはさらにはっきりしている。427件のうち329件、77.0%は従業員10人未満の会社だった。10人の会社で職人や運転手が2人辞めれば、受けられる仕事はそのまま2割減る。代わりを採る余裕もない。帝国データバンクも、従業員に十分な待遇を用意できない小規模企業で従業員退職型の倒産が高い水準で続くと見ている。
2026年に入っても勢いは落ちていない。2026年上半期(1〜6月)は227件で、前年同期の202件から12.4%増え、上半期として過去最多になった。内訳は建設業65件、サービス業59件、運輸・通信業38件で、従業員10人未満が176件を占める。2026年10月時点で公表されている最新の数字はここまでだ。
東京商工リサーチの397件とは何が違うのか
同じ2025年について、東京商工リサーチは「人手不足」関連倒産を397件と発表している。前年比35.9%増で、こちらも過去最多だ。二社の数字が30件ずれているのは、数える範囲と分類の仕方が違うからで、どちらかが誤っているわけではない。時計を二つ持つと、かえって正確な時刻がわからなくなる。あれに少し似ている。
まず数える範囲が違う。帝国データバンクは破産や民事再生などの法的整理だけを数える。東京商工リサーチの倒産集計は、それに加えて銀行取引停止処分や内整理といった私的整理も倒産に含める。網は東京商工リサーチのほうが広いのに、人手不足に結びつけた件数は少ない。差の多くは、どの倒産を人手不足によるものと判定するかの基準から来ていると私は読んでいる。
東京商工リサーチは負債1000万円以上の倒産から、要因が求人難・従業員退職・人件費高騰のものを抜き出し、後継者難は対象から外している。内訳は人件費高騰152件、従業員退職110件だ。397件からこの二つを引くと135件が残り、これが求人難にあたるはずだが、あくまで私の引き算で、同社は求人難の件数を公表していない。三つの要因に重複なく振り分けられているという前提も置いている。帝国データバンクの側は、同社が「従業員退職型」と呼ぶ倒産を2025年に124件と集計した。同じ「退職」でも124件と110件。判定する人と基準が違えば、数字も変わる。
業種では向きまで食い違う。帝国データバンクでは物流業が過去最多だったのに、東京商工リサーチの運輸業は60件で前年から14.2%減った。業種のくくり方も判定も違うので、「物流の人手不足倒産は増えたのか」という問いには、どちらを見たかで答えが変わる。片方の数字だけを引いた記事を読むときは、出典を一つ確かめるだけで誤読がかなり減る。同じ対象でも数え方で絵が変わる話は、同じ会社でも数字が違う理由でも書いた。
この数字が言っていないこと
まず、人手不足が単独で会社を倒したとは限らない。倒産には普通、売上の落ち込み、借入の重さ、価格転嫁の遅れが重なっている。収益が弱いから賃金を上げられず、人が辞め、最後に資金が尽きるという順番なら、どこを「原因」と呼ぶかは調査会社の判断になる。
もう一つ。倒産全体も2025年は前年比3.6%増えていた。人手不足倒産の伸び(24.9%)はそれよりずっと大きいので、比重が増しているのは確かだ。それでも絶対数は全倒産の4%程度にとどまる。
そして休廃業は入らない。人手不足が中小企業に与えている影響の全体は、この数字より大きいと見ておくほうが安全だと私は考えている。
日本で人を雇っている会社にとって、引き留めは資金繰りと同じ話になる
二社の数字で共通しているのは、辞める型の伸びが速いことだ。帝国データバンクの従業員退職型は前年の90件から124件へ37.8%増え、東京商工リサーチの従業員退職は54.9%増えた。採れないことより、いる人が辞めることのほうが会社を追い詰め始めている。
私も一度、辞めると決めたメンバーを引き留めようとしたことがある。本人は話し合いに応じず、理由はわからないままだった(人事としては、あまり人に話したくない部類の経験である)。退職の申し出を受けた段階では、打てる手はもうほとんど残っていない。引き留めの勝負はその前、日々の評価や仕事の割り振り、賃金の見直しのところでついている。辞めた人の穴を採用で埋めるとどれだけかかるかは、日本で一人採用する本当のコストで整理した。
大企業の賃上げに中小企業が追いつけていないことは、二社とも指摘している。給与で勝てない会社は、辞めない理由を給与以外のところで用意するしかない。
日本に参入する企業は、誰と組み、誰に売るのか
中小企業の買収や提携を考えている企業にとって、この数字はデューデリジェンスの項目を一つ増やす。従業員10人未満の会社では、売上の大半を数人の職人や営業担当が支えていることが多い。買収後にその数人が辞めれば、買ったはずの事業はほとんど残らない。財務と同じ重さで、誰が辞めたら仕事が止まるかを先に確かめておきたい。
省人化の道具を売る側にとっては、買い手の像がはっきりする。建設、物流、介護、警備は人手不足倒産が多く、職種別の有効求人倍率でも採用が難しい側に入る。顧客は10人未満の会社で、IT担当はおらず、決めるのは社長本人であることが多い。その社長の平均年齢は60歳前後だ。機能の多さより、導入の手間が少なく、明日から人の作業が一つ減るものが選ばれると私は見ている。
帝国データバンクは2026年1月の時点で、人手不足倒産は当面高水準で推移すると予想していた。上半期の数字を見る限り、その見方は外れていない。ただ、毎年の件数を追うより、自社で去年何人辞めたか、その理由をどこまで本人から聞けているかを確かめるほうが、経営の判断にはずっと効く。
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