佐藤伸明 Nobu Sato

退職代行、主要業者の4社に1社が止まった

退職代行の参入と退出、企業側の利用経験を3本の棒で比べた図

退職代行から電話が来たらどう受けるか。人事にとってはまだ新しい問いだが、電話をかける側の業者のほうが先に減り始めている。帝国データバンクが2026年9月に公表した調査では、主要な退職代行52事業者のうち14事業者、26.9%で、1年の間にサービス停止の可能性が確認された。

以前、退職代行の利用率が調査によって2%から5割近くまで開く話を書いた。あれが利用者側の数字だとすれば、今回は事業者側の数字である。ブームの数字と退潮の数字を並べると、見えてくるものが少し変わる。

「4社に1社」の分母は主要52社

帝国データバンクの数字は、2025年10月時点で実態を確認できた「主要な」退職代行52事業者を、2026年9月まで追いかけたものだ。市場の全数ではない。その52のうち14で、通常の方法ではサービスの継続を確認できなくなった。報道によれば、14のうち10は株式会社などの民間経営で、残りは弁護士法人や労働組合などである。

「停止の可能性」という言い方には注意がいる。サイトが閉じた、申込窓口が消えた、といった外から見える変化で判定しているため、確実に廃業した数とは限らない。一方で、2026年3月には退職代行「スマートヤメマス」の運営会社が破産したと報じられており、退出が現実に起きているのも確かだ。

入る側の数字もある。東京商工リサーチによると、2026年5月時点で営業項目に退職代行を掲げる企業は弁護士法人を除いて56社あり、すべて設立10年未満、うち32社が2025年の設立だった。分母が違う二つの調査なので足し算はできないが、1年で大量に入り、1年で大量に抜けた、という形はどちらからも読める。

参入:退職代行を営業項目に掲げる企業 56社(弁護士法人を除く、2026年5月) うち2025年設立 32社(57%) 退出:主要な退職代行 52事業者(2025年10月時点で実態を確認) 2026年9月までにサービス停止の可能性 14(26.9%) 企業側:退職代行業者から退職の連絡を受けた企業の割合 2025年6月調査 7.2% 2026年4月調査 8.7% 棒の長さはそれぞれの分母に対する割合。3本の分母はすべて異なり、足し算や直接比較はできない。

Fig.12025年設立の業者が参入企業の57%を占める一方、主要52事業者の26.9%が1年でサービス停止の可能性。企業側で退職代行の連絡を受けた割合は7.2%から8.7%に上がった。出典:東京商工リサーチ(2026年2月・5月・8月)、帝国データバンク(2026年9月、数値は報道で確認)。

業者が減ると、利用も減ったことになるのか

そうとは言い切れない。企業側の数字はむしろ上がっている。東京商工リサーチの企業アンケートで、退職代行業者から退職の連絡を受けたことがある企業は2025年6月調査の7.2%から、2026年4月調査では8.7%になった。業者が抜けているのに、連絡を受ける会社は増えている。

私の読みは、需要が消えたというより、受け皿が入れ替わっているというものだ。帝国データバンクの2025年10月の調査では、最低料金の平均が弁護士法人で約4万4,700円、民間で約2万2,500円と、ほぼ倍の差があった。その後、大手の法律事務所が参入して価格が下がり、「辞めると伝えるだけ」の民間業者は値段でも中身でも差をつけにくくなった。2026年の調査では平均料金が約2.8万円から約2.7万円に下がったと報じられている。ここは推測を含むので、来年の同じ調査で確かめたい。

モームリの件で何が問われたのか

もう一つの圧力は法的なものだ。2025年10月22日、警視庁は退職代行「モームリ」を運営するアルバトロス社を、弁護士法違反の疑いで家宅捜索したと報じられた。資格がないのに退職希望者を弁護士にあっせんし、紹介料を受け取っていた疑いである。2026年2月3日に前社長らが逮捕され、同月24日に起訴された。8月28日、東京地裁は前社長に懲役2年・執行猶予3年、元役員にも執行猶予付きの有罪、法人に罰金200万円を言い渡したと、共同通信や東京商工リサーチが報じている。判決が確定したかどうかは確認できていない。

報道によれば、判決が扱ったのは弁護士へのあっせんと紹介料の受け取りで、退職代行という仕事そのものの是非は判断の対象になっていない。モームリ側も判決後にその趣旨をコメントし、サービスを続けるとしている。それでも業界全体には「どこまでなら弁護士でなくてもやれるのか」という問いが突きつけられた。東京弁護士会は2024年11月の時点で注意喚起を出しており、東京商工リサーチの2026年4月の調査では、弁護士でも労働組合でもない業者からの連絡には取り合わないと答えた企業が30.4%あった。

連絡を受けた会社はどう応じるか

まず相手が誰かを確かめる。弁護士、労働組合、民間企業のどれかで、できることが違うからだ。弁護士なら自社の弁護士を通じて話す。労働組合から団体交渉の申し入れがあれば、正当な理由なく断ると不当労働行為になりうるので、専門家に相談したうえで応じる。民間企業の業者は本人の意思を伝える使者にとどまるため、有給休暇の消化や退職日などの条件は業者とは詰めず、本人と書面でやり取りするのが筋だ。

取り合わない、という選択は勧めない。期間の定めのない雇用なら、民法627条で退職の申し入れから2週間で雇用は終わる。退職の意思そのものは届いたものとして、離職票や最終給与、貸与物の返却の手続きを淡々と進めたほうが、後で揉めにくいと感じている。

そのうえで、1件の電話は一つの計測値だと思っている。2万円前後を払ってでも上司に直接言わないほうがましだ、と本人が判断したということだからだ。パーソル総合研究所の2025年の調査でも、退職代行の利用者は一般の離職者より職場で孤独を感じ、相談相手が上司しかいなかった人が多かった。悪い知らせが上に届かない職場で何が起きるかは心理的安全性と悪い知らせの話で書いた。退職代行の件数を部署ごとに数えておくと、その地図になる。

私自身、辞めると決めたメンバーを引き留めようとして、本人が話すこと自体を拒んだことがある。理由は最後までわからなかった。代行を使われたわけではないが、知らせが途中で止まっていたという点では同じだったのだと思う。

使う側は何を見て選ぶか

運営主体で分けると判断しやすい。弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で、交渉などの法律事務を扱うことや、それを弁護士にあっせんすることを業として行うのを禁じている(2026年10月時点)。そのため民間企業の業者ができるのは退職の意思を伝えるところまでで、未払い残業代や有給休暇、退職日の交渉は弁護士法72条に触れるおそれがある。労働組合が運営するものは団体交渉として条件を話し合えるが、裁判で代理することはできない。弁護士は交渉も訴訟も扱えるが、料金は高めだ。未払いの賃金やハラスメントがあるなら弁護士、条件の話し合いまでなら組合、本当に伝えるだけなら民間、というのが目安になる。「弁護士監修」と書いてあっても、誰が実際に交渉するのかは別に確かめたい。

伝えるだけで済む状況なら、自分で退職届を出すという選択肢も残っている。手順は円満に辞めるための段取りにまとめた。本稿は一般的な情報の整理で、個別の法的助言ではない。条件で争いがあるなら、弁護士か労働基準監督署の総合労働相談コーナーに相談してほしい。

業者の4社に1社が止まっても、上司に言えない人の数が同じだけ減るわけではない。私が見ていたいのは事業者の数より、企業側の8.7%のほうだ。この数字が来年下がったら、職場のほうが変わったと言えるのだと思う。


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