佐藤伸明 Nobu Sato

受け入れ前は9割が日本語を心配した。つまずいたのは報連相

22社の調査から、日本語の条件を分解する

目次4
  1. 84%は、どの22社の数字か
  2. 心配したのは日本語、つまずいたのは報連相
  3. 人材マップでは、日本語の条件をどこに置くか
  4. 母集団の大きさも、判断を変える

外国籍エンジニアの受け入れを話し合う席で、最初に出る質問はたいてい「日本語はどのくらいできるのか」である。パーソルエクセルHRパートナーズが2026年10月21日に公表した調査でも、受け入れ前の不安として90%が「日本語コミュニケーション力」を挙げた。ところが受け入れたあとに日本語が期待を下回ったと答えたのは26%で、それより多かったのは「報告・連絡・相談」の32%だった。回答は22社・31人と小さい調査だが、心配した場所と実際につまずいた場所がずれている、という点は考える価値がある。

84%は、どの22社の数字か

調査したのはパーソルエクセルHRパートナーズ株式会社で、対象は同社のベトナム人エンジニアの紹介・派遣サービスを利用している企業である。回答は22社・31人、期間は2026年8月20日から9月11日。調査方法はリリースに書かれていない。

この前提はかなり効いてくる。1社で4.5ポイント動く規模であること。回答者はすでにベトナム人エンジニアを受け入れ、いまも使い続けている会社だということ。合わなかったと感じて利用をやめた会社は、ここにはいない。そして調査主体はこのサービスを売る側である。数字そのものを疑う理由はないが、読めるのは「この22社がどう感じているか」までで、日本企業全体の傾向ではない。見出しの「84%の企業」は、この22社のうちの84%のことである。

そのうえで中身を並べておく。技術人材が不足していると答えたのが84%、今後の採用環境が「厳しくなる」「やや厳しくなる」が71%、日本人・外国人を問わず人材を確保したいが58%。受け入れの効果は「人員不足の解消」が81%、「開発スピード向上」が26%だった。

心配したのは日本語、つまずいたのは報連相

いちばん面白いのは受け入れ前と後の比較である。前は9割が日本語を心配し、後で日本語が期待を下回ったのは4分の1ほど。期待を下回った項目の先頭は報告・連絡・相談だった。

このずれには、いくつか説明が考えられる。派遣元が送り出す前に日本語教育をしている(同社はハノイ工科大学と日本語の講座を開いていると書いている)。受け入れる側が最初から求める水準を下げていた。あるいは、日本語で苦労した会社がすでに利用をやめ、回答者に残っていない。どれがどれだけ効いているかは、この調査からはわからない。

それでも、報連相が日本語より上に来ていることは、そうした偏りに左右されにくいと思う。報連相は日本の職場の段取りの作法で、どこまで進んだかを自分から言う、困ったら早めに言う、迷ったら先に聞く、という習慣のことだ。日本語の流暢さとは別の話で、日本語能力試験のN1を持っていても報連相をしない人はいる。受け入れた会社が実際にぶつかった問題の一部は、言葉より仕事の進め方の側にあった。そしてそちらは、決まりを作って教えれば変えられる。

受け入れ前は9割が日本語を心配したが、受け入れ後に日本語が期待を下回ったのは26%だった

パーソルエクセルHRパートナーズ「ベトナム人エンジニア活用実態調査」。同社サービスを利用する22社・31人、2026年8月20日〜9月11日、%。複数回答かどうかはリリースに記載がない

日本語コミュニケーション力そのほかの項目

受け入れ前の不安
  • 日本語コミュニケーション力
    90%
受け入れ後、期待を下回った点
  • 報告・連絡・相談
    32%
  • 日本語コミュニケーション力
    26%
受け入れの効果
  • 人員不足の解消
    81%
  • 開発スピード向上
    26%

いちばん心配された項目は、受け入れ後には仕事の作法の後ろに下がった。

図1 パーソルエクセルHRパートナーズが同社のベトナム人エンジニアを利用する22社に行った調査(2026年8〜9月)では、受け入れ前に90%が日本語コミュニケーション力を不安に挙げたが、受け入れ後に期待を下回ったのは26%で、報告・連絡・相談の32%より少なかった。81%が人員不足の解消を効果に挙げた。

人材マップでは、日本語の条件をどこに置くか

日本企業の求人票では、日本語の条件が最初から固定されていることが多い。「日本語能力試験N1必須」「ビジネスレベル以上」。外資や中国系の日本法人も、郷に入っては郷に従えで、この一行をそのまま写しがちだ。

人材マップを作るとき、私は条件の一つひとつに同じ問いを当てる。この条件は実際に何をふるい分けているのか、譲れるのか、入社後に身につけるまでどのくらいかかるのか、身につけたあとどのくらい役に立ち続けるのか。この問いを「N1」に当てると、たいてい三つのことが一行に混ざっているのがわかる。日本語の仕様書を読めるか。日本の顧客と直接打ち合わせができるか。チームの中で報連相ができるか。

それぞれ、埋めるのにかかる時間がまるで違う。以下は統計ではなく私の大まかな見立てだ。仕様書を読むのは、翻訳ツールと数か月の実務でたいてい追いつく。チームでの報連相は決まりと指導の問題で、教えさえすれば最初の三か月で変わったかどうかが見える。顧客の前に出て要件を詰める日本語は埋めるのがいちばん難しく、一、二年で足りるとも限らない。

だから緩める順番は職位で決まる。顧客の前に出ない職位なら、N1を必須にせず「日本語の文書を読める、学ぶ意思がある」に置き換え、報連相を入社後三か月の指導計画に書き込む。顧客と向き合う職位なら、その水準の日本語は職位の芯なので譲らない。譲るのは業界経験や特定技術の年数のほうで、これらは入ってから埋まるのが早い。二枚の地図のページに書いた原則も同じで、入社後に埋めるのが早い条件から緩め、時間のかかる条件は守る。

母集団の大きさも、判断を変える

厚生労働省「外国人雇用状況」の届出によると、2025年10月末時点で日本で働く外国人は257万1,037人、そのうちベトナム国籍が60万5,906人で23.6%を占め、国籍別で最も多い。専門的・技術的分野の在留資格で働く人は86万5,588人で、前年より20.4%増えた。数としては増えているが、そのなかで顧客の前に出られる日本語を持つ人は、どの会社も探している層でもある。在留資格や地域ごとの内訳は「日本で働く外国人257万人は、どこに、どの資格でいるのか」に書いた。

日本語の代わりに英語で、という発想もよく聞く。チームによっては成り立つが、日本の働く人の英語力の分布を見ると、前提にするのは心もとない。数字は「日本人の英語力はどの程度か」にまとめてある。

N1を必須にしたままなら、探す円は狭くなり、採用にかかる月数が延び、空席のまま過ぎる月が増える。条件を緩めれば円は広がるが、別の費用がかかる。日本人の同僚が毎週何時間か仕様のすり合わせや報告の手直しに付き合う時間と、最初の三か月の指導である。どちらが高くつくかは会社によるので、ここで答えは出せない。ただ、前者の費用は目に見えにくく、後者は自分で選んで払える費用だ、という違いはある。

22社の調査から言えることは多くない。言えるのは、事前に9割が心配したことと、あとで実際につまずいたことは同じではなかった、というところまでだ。それだけでも、求人票の日本語の一行を分解してみる理由にはなると思う。


日本市場での立ち上げについて、三言語で書いています。