転職したい1,023万人、実際に動いた330万人

1,023万人。総務省「労働力調査(詳細集計)」の2025年平均で、転職等希望者はこの数になった。比較可能な2013年以降で最も多い。同じ調査で、実際にこの1年に仕事を変えた転職者は330万人。前年より1万人少なく、2023年からほぼ動いていない。
動きたい人は増えているのに、動いた人は増えていない。採用の現場では「機会があれば話を聞きたい」と言う人は多いのに、オファーまで進む人はその一部にとどまる、という話をよく耳にする。統計もその見方とおおむね合っている。ただ、二つの数字をそのまま割り算するのは危ない。
二つの数字は何を数えているのか
先に定義を確認しておく。労働力調査の「転職者」は、就業者のうち前職があり、過去1年間に離職を経験した人を指す。2025年平均で330万人、就業者に占める割合(転職者比率)は4.8%だった。
「転職等希望者」のほうは範囲が広い。今の仕事を辞めて別の仕事に変わりたい人に加えて、今の仕事を続けながら別の仕事もしたい人を含む。副業をしたい人も入っている。報道では「転職希望者1,023万人」と書かれることが多いが、統計上の名前は「転職等」希望者である。
どちらも、ある時点の人数(ストック)だ。離職率でも成功率でもない。330万人の転職者は1年前に希望者だった人と同じ集団とは限らず、思い立ってすぐ動いた人も、会社都合で動くことになった人も含まれる。だから「330÷1,023で約3割が転職を実現した」と読むのは誤りになる。この二つから言えるのは、希望の量と移動の量がここ数年違う方向に動いている、というところまでだ。
希望者は10年で211万人増え、転職者は31万人増
統計局が公表している2015年以降の推移を並べると、差ははっきりする。転職等希望者は2015年の812万人から2025年の1,023万人へ、211万人(約26%)増えた。転職者は299万人から330万人へ、31万人(約10%)の増加にとどまる。
転職者の山は2019年の353万人で、コロナ期の2021年に290万人まで落ち、2023年以降は328万人、331万人、330万人と横ばいだ。希望者のほうは2024年に一度7万人減ったものの、ほぼ一本調子で増えてきた。
Fig.1転職等希望者は2015年の812万人から2025年の1,023万人に増えたが、転職者は299万人から330万人への小幅な増加にとどまり、2023年以降は横ばい。希望者のうち実際に仕事を探している求職者は2025年で360万人。出典:総務省統計局「労働力調査(詳細集計)2025年平均結果の概要」
1,023万人のうち、実際に探しているのは360万人
詳細集計は、転職等希望者を「求職者」と「非求職者」に分けている。求職者は希望する仕事を実際に探しているか、その準備をしている人で、非求職者はそれ以外だ。2025年平均で求職者は360万人、非求職者は663万人。希望者のおよそ65%は、まだ探してもいない。
求職者自体は2015年の271万人から360万人へ増えている。探す人は増えた。それでも転職者は増えていない。探したが決まらなかった人、探した結果いまの会社に残ることにした人が増えている、と読むのが自然だと思う。ただしこれは私の推測で、統計は理由までは教えてくれない。
なぜ希望は増えても、移動は増えないのか
ここからは統計の外の話になる。採用の現場でよく見るのは、転職を考えている人が最後に止まる場面だ。年収は上がっても、退職金や手当を含めた総額で得なのかが読めない。家族の同意が取れない。今の上司やチームに迷惑をかけたくない。そして、次の会社で自分が通用するのかが分からない。
希望を口にするのに費用はかからない。実際に辞めるには、こうした引っかかりを一つずつ外す必要がある。日本の転職では、その手間が目に見えにくい形で積み上がっている。
希望者が増えたのは、転職が「ありえない選択」から「考えてもいい選択」に変わったからだろう。それ自体は大きな変化だと感じている。終身雇用は緩んでいる。ただ、崩れたとまでは言えない。
採用する側は、意欲を段階で見る
人材マップを作るとき、候補者を「動く意思がある・ない」の二色で塗ることが多い。この統計を見ると、二色では足りない。希望者のうち探しているのは3人に1人強で、探している人も決まるとは限らない。マップ上の「意欲あり」は母集団としては大きいが、成約に近い層は小さい。
人材マップをリストとして扱わず構造として描くべきだという考えは人材マップは名簿ではないに書いた。付け加えるなら、意欲の段階も構造の一部として持っておくことだ。「話は聞く」「具体的に探している」「家族と話がついている」くらいに分けるだけで、パイプラインの見積もりはかなり現実に近づく。オファー段階で何が起きるかは内定辞退率の数字でも見た。
年齢別に誰が動いているかは日本の転職率を年齢で読むにまとめたので繰り返さない。一点だけ挙げると、2025年の転職者比率は15〜24歳の9.9%が最も高く、45〜54歳は3.5%だった。管理職クラスを外から採るほど、意欲と行動の差は大きいと見ておいたほうがいい。
動かずにいる側から見ると
転職を考えている側には、1,023万人という数は少し気が楽になる材料かもしれない。迷っているのは自分だけではない。663万人はまだ探してもいない。
迷う期間が長いこと自体は悪くないと思う。気になるのは、迷いの中身が「何が分からないのか」まで分けられないまま、何年も同じ場所にいる場合だ。自分がマップのどこにいるのかを確かめる方法は人材マップのどの円にいるかに書いた。
最後に限界を書いておく。転職等希望者には副業希望も含まれるので、純粋に「辞めて移りたい」人の伸びは、1,023万人という見出しより小さい可能性がある。希望者の年齢別の内訳も今回は確かめていない。それでも、探している人が10年で約90万人増え、転職者がほとんど増えていないという事実は、採用計画を立てる側が一度は直視しておくべき数字だと考えている(2026年10月時点で確認できる最新は2025年平均)。
記事にするほどではない日々の気づきは、LinkedIn に書いています。LinkedIn をフォローする