50メートル離れると、会話は消える

連載「人は組織図どおりには動かない」 · 第4回/全13回 · 第二部 · 構造は行動をどう形づくるか
序章:組織図に載っていない人
日本法人がオフィスを移転した。営業は三階、エンジニアは五階、あいだにエレベーターが一つ。組織図は変わらず、報告線も変わらない。三か月後、営業はエンジニアが反応しないと言い始め、エンジニアは営業が勝手に約束すると言い始める。互いに相手が変わったと思っている。変わったのは階だけだ。
1977年の一本の曲線
MIT のトーマス・アレンは1970年代にエンジニアどうしの技術的なやり取りを調べ、やり取りの頻度と席の距離の関係を測った。描かれたのは急な下り坂だ。10メートル以内なら週に一度は話す確率が高く、30メートルあたりで大きく落ち、約50メートルを超えると曲線はほぼ平らになり、別の建物、別の都市にいる場合と有意な差がなくなる。
この曲線はその後何度も確かめられた。意外なのは、電話、メール、チャットが現れても平らにならなかったことだ。アレン自身の2007年の追跡研究では、近くに座る人は対面だけでなく、電話もメールも多かった。近さがもたらすのは特定の手段ではなく、やり取りをしようという意欲そのものだ。
論争はリモートワークにある。完全リモートのチームでも意図的に設計した連絡の律動で曲線を補えるとする研究がある一方、リモート化のあと部署をまたぐ弱い結びつきが明らかに減り、チーム内の強い結びつきはむしろ強まったという研究もある。私の読み方は、曲線はいまも成り立ち、「50メートル」の単位が物理的な距離から「一回のやり取りをわざわざ始めるコスト」に変わった、というものだ。
Fig.1アレン曲線の形。10メートル以内は高頻度、30メートルで大きく落ち、50メートル以降は平ら。数値は模式で、形は繰り返し確かめられている。
席順は組織図である
多くの会社はオフィスのレイアウトを総務の仕事と見なし、部署ごとに並べる。部署ごとに並べると、もともと十分に話している部署内はさらに近づき、もともと少ない部署間のやり取りは50メートルの外に置かれる。組織図に描いた連携の線が、席順で切られている。
日本のオフィスにはもう一つ特徴がある。島型の席を部署ごとに作り、部長が島の端に座る。この配置は場の境界を非常にはっきり描き、場の中の縦のやり取りは滑らかで、場と場のあいだの横のやり取りはほぼゼロになる。
設計上の結論:誰を10メートル以内に置くかを先に決める
席順を組織設計の一部として扱い、組織図を描くときに一緒に描くことを勧めたい。
まず、この半年で最も頻繁にやり取りが必要なのに、組織図では同じ箱に入っていない役割の組を二つか三つ挙げる。法人営業とソリューションエンジニア、カスタマーサポートとプロダクト、など。次に、その組を10メートル以内に置く。部署の島を割ることになっても。部署内のやり取りは心配しなくてよい。報告線と週次の会議が支えていて、数メートル離れても切れない。
ハイブリッド勤務のチームでは、同じ原則を出社日に置き換える。頻繁なやり取りが必要な組は、出社日を必ず重ねる。部署ごとに出社日を決めるのは、部署をまたぐ連携をすべて50メートルの外に置くのと同じだ。
オフィス選びも同じで、二層のオフィスはワンフロアより50メートルの壁が一枚多い。賃料の節約分で、その壁の代価はたいてい賄えない。
診断への接続
組織診断モデルの環境の層は、人と環境の組み合わせを問う。物理的な距離は、環境の中でいちばん見落とされ、いちばん変えやすい項目だ。診断では席順の図を一枚もらい、三本の意思決定の連鎖に出てくる人を印して、互いの距離を見る。次回は同じことの裏側、やり取りの構造が製品に複写される話を書く。
自社でいちばん連携が必要な二つのチームは、いま何メートル離れているだろうか。
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