佐藤伸明 Nobu Sato

製品、営業、組織の順に決める理由

方法論のカバー:製品、営業、組織の三段階の順番

日本法人を立ち上げて最初の数か月、本社からいちばんよく聞かれるのは「何人採れたか」だ。

日本で何を売るのか、誰に売るのか、誰を通じて売るのか。こちらを聞かれることは、意外なほど少ない。

ここが決まらないまま採用すると、入った人が自分で答えを探すことになる。見つかれば運がいい。見つからなければ一年後にその人が辞め、同じ求人がまた出る。

全体像のページで、順番は二枚の地図、製品、営業、組織、最後に制度だと書いた。このページでは真ん中の三つを分けて、それぞれ何を決めるのか、飛ばすと何が起きるのかを書く。

製品:日本は何を変えろと言ってくるか

製品の段階で決めるのは「何を売るか」だ。二枚の地図で並べた事実をもとに、日本でどの面を前に出し、何にはまだ手を出さないかを選ぶ。

本社は、製品はもうできているから持っていけば売れる、と考えがちだ。ところが日本はほぼ毎回、リストを渡してくる。法規の認証(電気製品の PSE、無線機器の技適)、ローカライズ(マニュアル、帳票、顧客システムとの接続)、保守の体制、そして導入後の変更要望。このリストを最初から見積もれていた本社を、私はまだ見たことがない。

ローカライズは、画面を翻訳すれば終わりというものでもない。日本の顧客が求めるのは、業務の流れを自分たちのやり方に合わせて設定できることだ。この層は日本のチームが持ったほうがいい。でないと、要望のたびに本社の順番待ちに並ぶことになる。

もう一つ、順番がある。まず置き換えを売り、変化はそのあとで売る。顧客がすでに何かを使っているなら、乗り換えのコストとリスクがどれだけ小さいかを先に示す。仕事のやり方を変えてもらう価値の話は、使い始めてからでいい。このあたりは日本企業の8割がクラウドを使っている、では何にで詳しく書いた。

この段階を飛ばしたときの姿は、だいたい同じだ。日本のチームが、顧客の苦情を本社に取り次ぐだけの窓口になる。本社は日本の要求が多いと感じ、日本側は本社が聞いてくれないと感じる。誰かが悪いわけではない。最初にリストを書き出す人がいなかっただけだ。

組織に引き継ぐことは一つしかない。日本法人の中に、「これは nice to have ではなく blocker だ、直さないと売れない」と言える権限を持つ人を置くことだ。

営業:まず、どの層に売るかを決める

営業では「どう売るか」を決める。私はまず、どの層の顧客に売るのかを聞く。販路はその層について回る。

日本の企業の99%以上は中小企業だが、どの層に売るかで道はまるで違う。大企業なら直販が効く。中堅企業は、代理店や SIer、業界団体を通ることが多い。小規模事業者には、銀行、商工会、税理士のように、もともと信頼されている相手を通すか、プラットフォームに乗る。層を先に選び、一社に届くまでにいくらかかるかを計算する。最初の二年は、層を一つに絞ることを勧めている。詳しくは売る相手を先に決めるに書いた。

直販か代理店かが、この段階でいちばん大きな分かれ道になる。代理店は早く届く。ただ顧客との関係は代理店の側に残り、粗利は二割から三割、ときにそれ以上を渡すことになり、製品へのフィードバックも一枚挟んでしか返ってこない。直販は遅いが、顧客は自分のものになる。

私がよく使うのは、両方を走らせて役割をはっきり分けるやり方だ。代理店には広げてもらい、自社の直販では二、三社の導入事例を自分でつくる。公開できる導入事例をつくるのは営業の仕事で、マーケティングに渡す仕事とは考えていない。代理店がなぜ売ってくれないのかは、こちらで書いた。

この段階を飛ばすと、両方やって両方とも形にならない、ということが起きやすい。代理店は顧客を取られると感じ、直販チームは代理店が足を引っ張っていると感じる。

価格の決め方については、正直なところ、まだ形になったやり方を持っていない。いま言えるのは一つだけで、価格の下限は本社が決め、日本はその上で交渉する、ということだ。

組織:人数より先に、権限の線を引く

組織の段階で、問いはようやく「誰が売り、うまくいったかをどう測るか」になる。何人必要かと最初に聞かれることが多いが、私が先に聞くのは権限のほうだ。日本で決めてよいのは何か。

私の線の引き方はこうだ。日本に置くのは三つ。サービスの約束をどの水準にするか、代理店との条件をどう交渉するか、日本の製品要望を本社の開発計画に直接上げられるか。本社に残すのも三つで、製品のロードマップ、価格の下限、資金だ。

この線が書かれていないと、面接の最後に日本の候補者が聞く「日本では何を決められるんですか」という質問に、答えられない。

評価も、前の二段階から決まる。一年目に活動量を KPI にするのは避けたい。電話の本数や訪問件数は、価値を生まなくても増やせる数字だ。代わりにマイルストーンで見る。販路をいくつ契約できたか、公開できる最初の導入事例があるか、サービスの約束を何か月続けて守れているか。

組織をどう診断し、人をどう見るかは四層と人と職位の適合に、等級とお金のつけ方は等級・手当・賞与に書いた。

逆にした場合の請求書

逆にしたとき、いちばんよく見るのは組織から始める形だ。まず社長を採る。あるいは営業を二人採って様子を見る。採用は目に見えるし、進んでいる感じがあり、本社にも説明しやすい。その気持ちはよくわかる。

困るのは、地図と製品が答えるはずの問いに、組織の打ち手で答えようとしてしまうことだ。入った人は、何を誰に売るのかが決まっていないことに気づき、売りながら決めることになる。決まった方向がその人の経験と合わなければ、人は残らない。日本法人の責任者を一人入れ替えるには、たいてい六か月から一年かかる。そのあいだ、日本の事業はほぼ止まる。

後ろの段は、前の段の答えを使う。飛ばして進めば、後ろの段はずっと補習になる。

このページは育てながら書いている

三つのうち製品と営業は、私の方法のなかでいちばん未完成な部分だ。ここに書いたのは、これまで何度か立ち上げに関わるなかで繰り返し出てきたことで、そのまま当てはめられる手順と呼べるものにはまだなっていない。価格の決め方、営業活動のリズム、営業をどう職位に分けるかも、まだ書けていない。実際の案件でうまく回ったら、このページを書き直す。

次のページでは、この順番を、まだ何もない日本法人に当てはめる。日本法人をゼロから立ち上げる。全体像に戻ることもできる。

日本市場での立ち上げについて、三言語で書いています。