佐藤伸明 Nobu Sato

組織の不調、七つの症状はどの層から来るのか

採用や新システムでは治らない

目次7
  1. なぜ組織図より先に症状を見るのか
  2. 決めたことが何度も蒸し返される
  3. 指標はよいのに、顧客が離れていく
  4. 何でも社長決裁、増え続ける会議の参加者
  5. 担当者が休むと止まる、部署間は個人のつながり頼み
  6. 新人が三か月で辞める
  7. 当てはめたあと、どの層から手をつけるか

健康診断の結果票には、数値の横に「要経過観察」「要精密検査」と書いてある。どちらも症状の名前で、病名ではない。組織の不調にも、同じことが言える。決めたはずのことが翌週また議題に上がる。定例会議の参加者が、気づけば倍になっている。担当者が一週間休むと、見積もりが一週間止まる。どれも目に見える症状だが、原因がどの層にあるかは症状だけではわからない。ここでは、外から観察できる七つの症状を、自社に当てはめて確かめられる形で並べてみる。

なぜ組織図より先に症状を見るのか

組織図は会社の主張であり、症状は事実だからだ。組織図には誰が誰に報告し、誰が予算を持つかが書いてある。しかし実際の決定がどう下され、人と予算が最終的にどこへ流れたかは、図には出てこない。症状なら数えられるし、特定の出来事に結びつけられる。

私は組織を四層で見ている。組織の内核(本当の優先順位、権力の構造、賞罰)、組織のパターン(圧力がかかったときの脱線の仕方)、組織の装備(人、機能、仕組み)、組織の環境(いまどの段階にいるか)の四つだ。いちばん多い見立て違いは、内核やパターンの問題を装備の問題として扱うことである。人もシステムもお金で買える。ただ、上の層の問題はお金では買えない。

以下、症状ごとに「何が見えるか」「たいていどの層の問題か」「最初に聞くべき問い」の順で書く。症状と層の対応は私の見立てで、統計に基づくものではない。同じ症状が別の層から出ていることもある。

決めたことが何度も蒸し返される

会議で決まったことが、会議のあとで誰かが別の人に相談し、翌週には振り出しに戻っている。これはたいてい内核の問題だ。会議に出ている人たちが、本当に決める人ではない。決める人はその場にいないか、いても黙っていて、結果が出てから覆す。

日本企業なら、稟議の途中で上の誰かが一言入れて差し戻す形が多い。外資や中国系企業の日本法人では、日本側で決めたことを本社が電話一本でひっくり返す形になる(このとき日本側の担当者は、本社の決定を顧客に説明する役まで引き受けることになる。気の毒な役回りだ)。

Amazonのジェフ・ベゾスは2016年の株主への手紙で「disagree and commit」という言い方を勧めている。意見は違うと承知のうえで、この方向に一緒に賭けてくれないか、と頼む言葉だ。ベゾスはこの言い回しで時間がずいぶん節約できると書いている。ただしこの言葉が使えるのは、言う本人に決める権限があるときに限られる。

最初に聞く問いは、前回覆された決定は、誰が、どういう理由で覆したのかである。答えがいつも同じ不在の人なら、問題は権力の構造にある。この点は責任者が不在のとき、日本法人では誰が決めるのかでも書いた。

指標はよいのに、顧客が離れていく

新規契約数も口座数もアクティブ率も伸びているのに、更新率が落ち、苦情が増えている。これも内核、具体的には賞罰の問題であることが多い。会社が実際に報いているものと、口で求めているものが一致していない。

よく知られた公開事例に、米国のウェルズ・ファーゴがある。2016年9月8日、米消費者金融保護局(CFPB)は同行に1億ドルの制裁金を科した。通貨監督庁とロサンゼルス市・郡の分を合わせると1億8,500万ドルになる。銀行自身の分析によれば、従業員は顧客の承認を得ていない可能性のある預金口座を約150万件開設し、承認のない可能性があるクレジットカードを約56万5,000件申し込んでいた。CFPBは、この行為が「販売目標と報酬のインセンティブ」に後押しされていたと述べている。数字はきれいに伸び、その裏で顧客が損をしていた。

最初に聞く問いは、この指標で誰が報酬を受け取ったかだ。顧客満足度の会議を何度開くより、賞与の流れを逆にたどるほうが早い。国内の事例は完全歩合の営業チーム、日本で何が危ないのかで取り上げた。

この二つの症状が出ていたら、いったん手を止めたほうがよい。内核の問題は株主の層の問題であり、採用や新システムでは覆い隠すことしかできない。

何でも社長決裁、増え続ける会議の参加者

この二つは組織のパターン、つまり圧力がかかったときの癖から来ていることが多い。

何でも社長決裁になる。五万円の購買も、社外へのメール一通も、アルバイトのシフトも、社長の承認待ちになる。社長が三日出張すると、会社には三日分の行列ができる。社長が忙しすぎるように見えるが、実態は脱線の一種だ。不安になるたびに権限を手元に戻し、最後には部下が判断をやめて、資料を回すだけになる。

最初に聞く問いは、この一か月で社長が決裁した案件のうち、結論を変えたものは何件あったかだ。ほとんどゼロなら、その決裁は社長の安心のためにあり、判断は何も足されていない。

会議の参加者が増え続ける。三人で決められることが、十数人の会議になる。一人呼ぶたびに、あとで「聞いていない」と言う人が一人減る。裏にあるのは責任を負いたくない空気か、悪い知らせを一対一では伝えにくく、全員の前で一度に聞かせたいという事情だろう。人数が増えれば一人あたりの力は落ちる。リンゲルマン効果として知られている話だ。

最初に聞く問いは、この会議で、その場で決める権限を持つのは誰かである。答えられないなら、その会議は責任を薄めるために開かれている。

担当者が休むと止まる、部署間は個人のつながり頼み

この層の問題は、お金と時間で本当に直せる。

担当者が休むと業務が止まる。見積もり、照合、ある大口顧客との窓口。やり方を知っているのが一人だけで、その人が一週間休めば全員が一週間待つ。代理がいない、手順が書かれていない、二人目が一度も一緒にやったことがない。装備の欠けである。

最初に聞く問いは、その人が前回休んだ週に、何が止まったかだ。書き出して一件ずつ代理を決め、本人がいるうちに代理に一度やらせておく。

部署間の調整が個人のつながり頼みになっている。営業と導入支援のあいだ、日本法人と本社のある部門のあいだで、話が通るかどうかが担当者同士の仲で決まる。仲のよい人が辞めると、その線は切れる。個人のつながりそのものは悪くない。組織にはもともと貸し借りの帳簿がある。困るのは、それ以外の道がないことだ。

最初に聞く問いは、前回二つの部署の意見が割れたとき、何のルールで決着したかである。答えが「〇〇さんに頼んだ」なら、ルールはまだない。

新人が三か月で辞める

入社して二、三か月で退職届が出る。採用を間違えたと考える経営者は多いし、実際そういう場合もある。ただ、私がよく目にするのは環境の食い違いだ。採用のときに語った会社と、入ってから見える会社が違う。

厚生労働省が2025年10月に公表した数字では、2022年3月に大学を卒業して就職した人の3年以内離職率は33.8%で、従業員5人未満の事業所では57.5%だった。小さな会社で人が定着しない理由はいくつもあるが、その一つは、面接で語られた段階(「急拡大している」)と、新人が実際に出会う段階(「まだ顧客を探している」)の差だと思う。数字をもう少し細かく分けた話は「3年3割」を分解するにある。

最初に聞く問いは、採用時に説明した職務と、最初の一か月に実際やった仕事は、どれだけ違うかだ。求人票と本人の最初の一か月の予定表を並べてみればわかる。

七つの症状のうち二つは内核にあり、採用や新システムでは治らない

四層モデルに当てはめた筆者の見立て(統計ではない)。同じ症状が別の層から出ることもある

組織の内核 権力の構造と賞罰
決めたことが蒸し返される
本当に決める人がその場にいない
前回は誰がどんな理由で覆したか
指標はよいのに顧客が離れる
報いているものと求めているものが違う
この指標で誰が報酬を得たか
組織のパターン 圧力下の脱線
何でも社長決裁
不安になると権限を戻す
決裁で結論を変えたのは何件か
会議の参加者が増え続ける
責任を薄め、悪い知らせを一対一で言えない
その場で決める権限は誰にあるか
組織の装備 人、機能、仕組み
担当者が休むと止まる
代理も手順書もない
前回の休みの週に何が止まったか
部署間は個人のつながり頼み
意見が割れたときのルールがない
前回は何のルールで決着したか
組織の環境 いまの段階
新人が三か月で辞める
採用時に語った段階と実態がずれている
求人票と最初の一か月の差はどれだけか

朱の二行から確かめる。内核が通らなければ、その先の処方は効かない。

図1 組織の七つの症状と四層の対応:決めたことの蒸し返しと、指標はよいのに顧客が離れる現象はたいてい組織の内核に、何でも社長決裁と会議参加者の増加はパターンに、休むと止まる業務と個人頼みの部署間調整は装備に原因があり、新人の三か月離職はまず環境の食い違いを疑う。

当てはめたあと、どの層から手をつけるか

内側の層から順に確かめる。いくつもの症状が同時に当てはまるなら、まず内核の二つがあるかを見る。あれば、人事担当の採用や評価システムの導入はいったん脇に置き、株主や本社と「結局誰が決めるのか」「結局何に報いるのか」を詰めることが先になる。ここを飛ばして使ったお金は、症状にお化粧をしているのに近い。

内核に問題がなければ、次はパターンだ。パターンは組織の上限を決める。変わるのは遅いが、変えられる。社長が権限を戻す癖には、金額と案件の種類を書いた権限表が効く。会議の問題には、会議ごとに決める人を一人書いておくことが効く。

装備は最後でよい。代理、手順書、部署間のルール。お金と時間で埋められるし、目に見えて早く進むので、経営者がいちばん先にやりたがるのもここである。

判断には必ず具体的な出来事を一つ結びつけ、結びつかないものは「要検証」として結論に入れない。推測しないための決まりに書いたやり方だ。この表を使うときも同じで、「うちには派閥っぽいものがある」と印象で語らず、派閥で止まった直近の一件を探す。誰が出して、誰が止めて、最後にどうなったか。

正直に言うと、七つでは足りない。悪い知らせが上がらない、火消しが常態になっている、手続きの完璧主義など、四層のページにはほかの脱線も挙げてある。ここでは外から見えやすいものだけを選んだ。冒頭の健康診断でいえば、この表は結果票の「要精密検査」の欄にあたる。精密検査のほう、つまり誰に何を聞くかは、収入がどう入り、資源がどう配られ、人事がどう決まるかという決定の流れに沿って進める。まずトップに、次に中間層と現場に聞き、最後にもう一度トップに戻って食い違いを確かめる。


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