組織と採用
組織の不調、七つの症状はどの層から来るのか
採用や新システムでは治らない
佐藤伸明約9分
目次7
健康診断の結果票には、数値の横に「要経過観察」「要精密検査」と書いてある。どちらも症状の名前で、病名ではない。組織の不調にも、同じことが言える。決めたはずのことが翌週また議題に上がる。定例会議の参加者が、気づけば倍になっている。担当者が一週間休むと、見積もりが一週間止まる。どれも目に見える症状だが、原因がどの層にあるかは症状だけではわからない。ここでは、外から観察できる七つの症状を、自社に当てはめて確かめられる形で並べてみる。
なぜ組織図より先に症状を見るのか
組織図は会社の主張であり、症状は事実だからだ。組織図には誰が誰に報告し、誰が予算を持つかが書いてある。しかし実際の決定がどう下され、人と予算が最終的にどこへ流れたかは、図には出てこない。症状なら数えられるし、特定の出来事に結びつけられる。
私は組織を四層で見ている。組織の内核(本当の優先順位、権力の構造、賞罰)、組織のパターン(圧力がかかったときの脱線の仕方)、組織の装備(人、機能、仕組み)、組織の環境(いまどの段階にいるか)の四つだ。いちばん多い見立て違いは、内核やパターンの問題を装備の問題として扱うことである。人もシステムもお金で買える。ただ、上の層の問題はお金では買えない。
以下、症状ごとに「何が見えるか」「たいていどの層の問題か」「最初に聞くべき問い」の順で書く。症状と層の対応は私の見立てで、統計に基づくものではない。同じ症状が別の層から出ていることもある。
決めたことが何度も蒸し返される
会議で決まったことが、会議のあとで誰かが別の人に相談し、翌週には振り出しに戻っている。これはたいてい内核の問題だ。会議に出ている人たちが、本当に決める人ではない。決める人はその場にいないか、いても黙っていて、結果が出てから覆す。
日本企業なら、稟議の途中で上の誰かが一言入れて差し戻す形が多い。外資や中国系企業の日本法人では、日本側で決めたことを本社が電話一本でひっくり返す形になる(このとき日本側の担当者は、本社の決定を顧客に説明する役まで引き受けることになる。気の毒な役回りだ)。
Amazonのジェフ・ベゾスは2016年の株主への手紙で「disagree and commit」という言い方を勧めている。意見は違うと承知のうえで、この方向に一緒に賭けてくれないか、と頼む言葉だ。ベゾスはこの言い回しで時間がずいぶん節約できると書いている。ただしこの言葉が使えるのは、言う本人に決める権限があるときに限られる。
最初に聞く問いは、前回覆された決定は、誰が、どういう理由で覆したのかである。答えがいつも同じ不在の人なら、問題は権力の構造にある。この点は責任者が不在のとき、日本法人では誰が決めるのかでも書いた。
指標はよいのに、顧客が離れていく
新規契約数も口座数もアクティブ率も伸びているのに、更新率が落ち、苦情が増えている。これも内核、具体的には賞罰の問題であることが多い。会社が実際に報いているものと、口で求めているものが一致していない。
よく知られた公開事例に、米国のウェルズ・ファーゴがある。2016年9月8日、米消費者金融保護局(CFPB)は同行に1億ドルの制裁金を科した。通貨監督庁とロサンゼルス市・郡の分を合わせると1億8,500万ドルになる。銀行自身の分析によれば、従業員は顧客の承認を得ていない可能性のある預金口座を約150万件開設し、承認のない可能性があるクレジットカードを約56万5,000件申し込んでいた。CFPBは、この行為が「販売目標と報酬のインセンティブ」に後押しされていたと述べている。数字はきれいに伸び、その裏で顧客が損をしていた。
最初に聞く問いは、この指標で誰が報酬を受け取ったかだ。顧客満足度の会議を何度開くより、賞与の流れを逆にたどるほうが早い。国内の事例は完全歩合の営業チーム、日本で何が危ないのかで取り上げた。
この二つの症状が出ていたら、いったん手を止めたほうがよい。内核の問題は株主の層の問題であり、採用や新システムでは覆い隠すことしかできない。
何でも社長決裁、増え続ける会議の参加者
この二つは組織のパターン、つまり圧力がかかったときの癖から来ていることが多い。
何でも社長決裁になる。五万円の購買も、社外へのメール一通も、アルバイトのシフトも、社長の承認待ちになる。社長が三日出張すると、会社には三日分の行列ができる。社長が忙しすぎるように見えるが、実態は脱線の一種だ。不安になるたびに権限を手元に戻し、最後には部下が判断をやめて、資料を回すだけになる。
最初に聞く問いは、この一か月で社長が決裁した案件のうち、結論を変えたものは何件あったかだ。ほとんどゼロなら、その決裁は社長の安心のためにあり、判断は何も足されていない。
会議の参加者が増え続ける。三人で決められることが、十数人の会議になる。一人呼ぶたびに、あとで「聞いていない」と言う人が一人減る。裏にあるのは責任を負いたくない空気か、悪い知らせを一対一では伝えにくく、全員の前で一度に聞かせたいという事情だろう。人数が増えれば一人あたりの力は落ちる。リンゲルマン効果として知られている話だ。
最初に聞く問いは、この会議で、その場で決める権限を持つのは誰かである。答えられないなら、その会議は責任を薄めるために開かれている。
担当者が休むと止まる、部署間は個人のつながり頼み
この層の問題は、お金と時間で本当に直せる。
担当者が休むと業務が止まる。見積もり、照合、ある大口顧客との窓口。やり方を知っているのが一人だけで、その人が一週間休めば全員が一週間待つ。代理がいない、手順が書かれていない、二人目が一度も一緒にやったことがない。装備の欠けである。
最初に聞く問いは、その人が前回休んだ週に、何が止まったかだ。書き出して一件ずつ代理を決め、本人がいるうちに代理に一度やらせておく。
部署間の調整が個人のつながり頼みになっている。営業と導入支援のあいだ、日本法人と本社のある部門のあいだで、話が通るかどうかが担当者同士の仲で決まる。仲のよい人が辞めると、その線は切れる。個人のつながりそのものは悪くない。組織にはもともと貸し借りの帳簿がある。困るのは、それ以外の道がないことだ。
最初に聞く問いは、前回二つの部署の意見が割れたとき、何のルールで決着したかである。答えが「〇〇さんに頼んだ」なら、ルールはまだない。
新人が三か月で辞める
入社して二、三か月で退職届が出る。採用を間違えたと考える経営者は多いし、実際そういう場合もある。ただ、私がよく目にするのは環境の食い違いだ。採用のときに語った会社と、入ってから見える会社が違う。
厚生労働省が2025年10月に公表した数字では、2022年3月に大学を卒業して就職した人の3年以内離職率は33.8%で、従業員5人未満の事業所では57.5%だった。小さな会社で人が定着しない理由はいくつもあるが、その一つは、面接で語られた段階(「急拡大している」)と、新人が実際に出会う段階(「まだ顧客を探している」)の差だと思う。数字をもう少し細かく分けた話は「3年3割」を分解するにある。
最初に聞く問いは、採用時に説明した職務と、最初の一か月に実際やった仕事は、どれだけ違うかだ。求人票と本人の最初の一か月の予定表を並べてみればわかる。
七つの症状のうち二つは内核にあり、採用や新システムでは治らない
四層モデルに当てはめた筆者の見立て(統計ではない)。同じ症状が別の層から出ることもある
朱の二行から確かめる。内核が通らなければ、その先の処方は効かない。
当てはめたあと、どの層から手をつけるか
内側の層から順に確かめる。いくつもの症状が同時に当てはまるなら、まず内核の二つがあるかを見る。あれば、人事担当の採用や評価システムの導入はいったん脇に置き、株主や本社と「結局誰が決めるのか」「結局何に報いるのか」を詰めることが先になる。ここを飛ばして使ったお金は、症状にお化粧をしているのに近い。
内核に問題がなければ、次はパターンだ。パターンは組織の上限を決める。変わるのは遅いが、変えられる。社長が権限を戻す癖には、金額と案件の種類を書いた権限表が効く。会議の問題には、会議ごとに決める人を一人書いておくことが効く。
装備は最後でよい。代理、手順書、部署間のルール。お金と時間で埋められるし、目に見えて早く進むので、経営者がいちばん先にやりたがるのもここである。
判断には必ず具体的な出来事を一つ結びつけ、結びつかないものは「要検証」として結論に入れない。推測しないための決まりに書いたやり方だ。この表を使うときも同じで、「うちには派閥っぽいものがある」と印象で語らず、派閥で止まった直近の一件を探す。誰が出して、誰が止めて、最後にどうなったか。
正直に言うと、七つでは足りない。悪い知らせが上がらない、火消しが常態になっている、手続きの完璧主義など、四層のページにはほかの脱線も挙げてある。ここでは外から見えやすいものだけを選んだ。冒頭の健康診断でいえば、この表は結果票の「要精密検査」の欄にあたる。精密検査のほう、つまり誰に何を聞くかは、収入がどう入り、資源がどう配られ、人事がどう決まるかという決定の流れに沿って進める。まずトップに、次に中間層と現場に聞き、最後にもう一度トップに戻って食い違いを確かめる。
出典(2026年11月時点)