組織と採用
紹介会社の推薦が、いつも同じ顔ぶれになる理由
総務省統計局 労働力調査 2025年平均
佐藤伸明約7分
紹介会社から届く推薦は、回転寿司のレーンに少し似ている。何社に頼んでも、同じ皿が何周も回ってくる。先月スカウトを送った人、別の紹介会社が先週出してきた人。これは紹介会社の怠慢というより、市場の構造である。転職を考えている人のうち、実際に動いているのは三人に一人ほどで、レーンに乗っているのはその一人のほうなのだ。
転職したい人のうち、探している人はどれくらいか
三分の一ほどである。総務省統計局の「労働力調査(詳細集計)」2025年平均によると、就業者6,820万人のうち、今の仕事を辞めてほかの仕事に変わりたい人と、今の仕事のほかに別の仕事もしたい人を合わせた「転職等希望者」は1,023万人いる。このうち実際に仕事を探している「求職者」は360万人、探していない「非求職者」は663万人だった。
同じ2025年に、過去1年間に離職して別の仕事に就いた「転職者」は330万人である。
数え方の違いには触れておきたい。転職等希望者とその内訳は年平均の人数で、転職者は過去1年の動きを数えたものだ。ストックとフローなので、引き算はできない。それでも、変わりたい人の約65%がまだ探していない、という比率は読める。
紹介会社も求人サイトも、日々向き合っているのは主に360万人のほうである。欲しい人は、663万人の側にいることが多い。
転職したい人の三分の二は探していない。推薦が集まるのは残り三分の一から
転職等希望者とその内訳(万人、棒の長さは1,023万人を100%とした比)。総務省統計局「労働力調査(詳細集計)」2025年平均
- 転職等希望者変わりたい・別の仕事もしたい1,023万
- うち探していない非求職者663万
- うち探している求職者360万
- 転職者330万
推薦は探している人の中から集まる。合う人は、探していない側にいることが多い。
同じ人が何度も推薦されるのはなぜか
みんなが同じ池で、似た網を使っているからだ。
まず候補者の側。動いている人は、たいてい一つの経路に絞らない。厚生労働省の「令和7年転職者実態調査」で転職者に転職活動の方法を聞くと(複数回答)、求人サイト・求人情報誌等が45.1%、ハローワーク等の公的機関が29.6%、縁故が22.2%、民間の職業紹介機関が20.9%、企業のホームページが13.5%だった。一人がいくつもの経路を同時に使っている。厚生労働省は「職業紹介事業報告」でも、求人者も求職者も複数の紹介事業者を使うことがあるので、求職申込件数と求人数には重複がある、と注記している。
次に紹介会社の側。多くは成功報酬で、入社が決まって初めて売上になる。限られた時間を、早く決まりそうな人に使うのは自然な判断だ。すでに動いていて、条件がはっきりしていて、来月には面接に来られる人である。誰かの性格の話というより、報酬の仕組みの話だと思う。候補者側から見た同じ構造は、エージェントから返事が来ないのはなぜかに書いた。
道具の話もある。推薦の多くは、データベースのキーワード検索から始まる。職種名、業界、日本語レベル、技術の名前。似たデータベースに似た言葉を入れれば、似た名簿が出てくる。職務経歴書が整っていて言葉がそろっている人ほど何度も拾われ、同じ仕事をしていても経歴書を何年も更新していない人は、誰の検索にも出てこない。
三社に頼んで届くのは、たいてい一つの名簿の三つの版である。
探していない人には、どうやって届くのか
どの会社に、どんな仕事をしている人が、何人いるかを先に知ることから始まる。検索では出てこないので、地図を描くことになる。
人材マップでは、まず会社を並べる。自社と同じ仕事をしている人がどの会社に何人くらい、どの階層にいるか。第一の円は同業同職、第二の円は日々の仕事が近い隣の領域、第三の円はもっと遠く、育成計画が前提になる。描き方は二枚の地図:誰と顧客や人を取り合うかにまとめてある。地図ができると、663万人のうち自社に関係のある数十人、数百人に、ようやく名前と居場所がつく。
描いてみると、データベースに登録している人はそのごく一部だと分かる。残りの人には一人ずつ連絡することになり、最初の返事はたいてい「今は考えていない」である。それで構わない。人材マップはもともと求職者の名簿として作るものでもない。人材マップは名簿ではないで、この地図が本当に答えている問いについて書いた。
声をかけるとき、何を伝えるか
自社の魅力より先に、その人が動くかもしれない理由に答えるほうが届きやすい。
探していない人には、こちらの会社説明を聞く理由がない。手がかりになるのは、実際に動いた人がなぜ辞めたかである。同じ「令和7年転職者実態調査」では、転職者の直前の勤め先の離職理由は自己都合が81.3%で、自己都合の理由(3つまでの複数回答)の上位は「賃金が低かったから」25.5%、「会社の将来に不安を感じたから」25.2%、「満足のいく仕事内容でなかったから」24.7%だった。
どれも、具体的に答えられる問いである。賃金なら「競争力のある水準」と書かず、幅と内訳を示す。会社の将来なら、日本法人のこの二年の計画と、資金の出どころと、誰が決めるのかを書く。仕事内容なら、入社後半年で何をするのか、誰に対して責任を持つのかを書く。ここが具体的なスカウト文のほうが、「急成長」「裁量大」と並べた文より返事は来やすいはずだ。もっとも、これは見立てであって、裏づけのデータはない。
声をかける作業自体は紹介会社に任せられる。ただ、文面の中身を持っているのは採用する側だけだ。中身を渡さなければ、届くのはひな形の文面になる。
採用する側が変えられること
最初に変えるのは、紹介会社に渡す依頼書である。
依頼書の多くは、職種名と条件の羅列になっている。受け取った側にとっていちばん手早いのは、その条件で検索することだ。違う結果がほしければ、このポジションで実際に何を見極めたいのか、どの条件なら譲れるのか、入社後どれくらいで補えるのか、そして何を求めないのかまで書く。条件がキーワードに近いほど、届く名簿は他社の名簿に近くなる。
次に、最初に求めるものを変える。いきなり履歴書を求めず、まず地図を求める。対象企業の一覧、各社の推定人数、すでに接触した人と、その反応。これを出せる紹介会社は探索をしていて、履歴書しか出せないところは検索をしている。どちらにも使い道はあるが、払う額と期待は分けて考えたほうがいい。
そして推薦の出どころを確かめる。一人ひとりについて、登録者なのか、こちらから声をかけた人なのか、推薦前に本人の意向を確認したのかを聞く。十人中九人が登録者なら、また同じレーンの皿を見ている可能性が高い。複数社から同じ人が出てきたときの扱いも、依頼の段階で決めておくと揉めにくい。たとえば、本人が推薦に同意した日時の早いほうを優先する、といった決め方である。
もっとも、この方法は手間も費用もかかる。探していない人に当たるのは時間がかかり、断られることも多い。紹介会社のほうも、より高い報酬や、より明確な依頼の形を求めてくるだろう。すべてのポジションでやる必要はないと私は考えている。数が多く定型的な職種なら、動いている360万人の中にたいてい合う人がいる。
回転寿司でも、本当に食べたいネタはレーンを待たずに注文する。そのぶん少し待つし、少し高い。どの席でそれをやるかは、その席が空いているあいだに毎月いくら失っているかを、金額で言えるかどうかで決めればいいと思う。
出典(2026年11月時点)