佐藤伸明 Nobu Sato

育休復帰後のキャリア:評価と昇格の線をつなぐ

育休復帰後のポジション、評価、昇格の線をどうつなぐかを示すカバー画像

育休から戻る人と話していると、最初に出てくる心配は仕事の勘が戻るかどうかより、「自分の席はまだあるのか」「評価はどうなるのか」という話であることが多い。勘はたいてい数週間で戻る。戻りにくいのは、評価と昇格の線のほうだ。

この記事では、復帰後のポジション、評価、昇格がどうつながるのかを、法律が守ってくれる範囲と、自分で取りにいくしかない範囲に分けて整理してみる。女性だけの話にはしたくない。男性の育休もこの数年で当たり前になりつつあり、同じ問題に男性がぶつかる場面も増えてきた。

育児・介護休業法が止めてくれるもの

育児・介護休業法は、育休の申出や取得を理由とする解雇その他の不利益な取扱いを禁じている(第10条)。厚生労働省の解説では、降格、昇進・昇格の人事考課で不利益な評価をすること、不利益な配置の変更、減給や賞与の不利益な算定などが例として挙げられている(両立支援のひろば Q&A)。

復帰先については、指針が「原則として原職又は原職相当職に復帰させるよう配慮」することを求めている。厚生労働省の資料では、原職相当職かどうかの目安として、職制上の地位が下がらないこと、職務内容が同じであること、勤務場所が同じであることが示されている(厚生労働省 資料)。

ここで一つ、知っておいたほうがいいことがある。原職復帰は「配慮」であって、元の席を必ず空けておく義務までは書かれていない。通常の人事異動の範囲なら、復帰時に部署が変わること自体は違法とは限らない。法律が止めてくれるのは「育休を取ったから」不利に扱うことであって、組織が動いた結果として席がなくなることまでは止めにくい。

短時間勤務の扱いも同じ考え方だ。厚生労働省の指針では、短縮した時間分を超えて働かなかったものとして評価や賞与を算定することは不利益な取扱いにあたるとされる。逆に言えば、実際に短くなった時間に比例して賞与が減ること自体は認められうる。また、本人の希望する期間を超えて、意に反して短時間勤務を続けさせることも不利益な取扱いの例に入っている。

2025年の改正で何が変わったのか

2024年5月に成立した改正育児・介護休業法は、2025年4月と10月の二段階で施行された(厚生労働省「育児・介護休業法について」)。キャリアに関わるところだけ拾うと、次のようになる(2026年10月時点)。

2025年4月からは、残業免除(所定外労働の制限)を請求できる対象が、3歳未満の子から小学校就学前の子を育てる労働者に広がった。男性の育休取得率の公表義務も、常時雇用1,000人超から300人超の企業に広がった。

2025年10月からは、3歳から小学校就学前の子を育てる労働者のために、会社が始業時刻の変更、テレワーク(月10日以上)、短時間勤務、養育両立支援休暇(年10日以上)、保育施設に準ずる便宜供与のうち二つ以上を用意し、本人がそこから一つを選べるようにすることが義務になった。あわせて、妊娠・出産の申出時と子が3歳になる前に、勤務時間や業務量などについて本人の意向を個別に聴き、配慮することも義務になった(BUSINESS LAWYERS の解説)。会社は意向をすべて叶える必要はないが、難しい場合は理由を説明することが求められ、意向を述べたことを理由に不利に扱うことは禁じられている。

この意向聴取は、使い方次第でかなり役に立つと感じている。会社の側から一度は必ず話を聴く機会がある、ということだからだ。

数字が示しているもの

厚生労働省の令和7年度雇用均等基本調査(2026年7月公表)では、男性の育休取得率は50.9%で、初めて5割を超えた。前年度は40.5%、女性は88.3%だった(雇用均等基本調査)。取る人は増えた。ただ、取ったあとのキャリアがどうなっているかは、この数字からは見えない。

そちらを映しているのが、内閣府「男女共同参画白書 令和8年版」の図だ。

0%25%50%75%100%20-2425-2930-3435-3940-4445-4950-5455-5960-64年齢62.854.243.639.529.2女性の就業率男性の正規雇用比率女性の正規雇用比率出典:内閣府「男女共同参画白書 令和8年版」2-2図(2025年)

Fig.12025年の女性の就業率は20代後半から50代前半まで8割前後で横ばいだが、正規雇用比率は25〜29歳の62.8%を頂点に下がり続け、55〜59歳では29.2%になる(L字カーブ)。男性の正規雇用比率は20代後半から50代前半まで7割台を保つ。

2025年の女性の就業率は、25〜29歳の87.4%から50代前半まで、ほぼ8割前後で横ばいだ。M字の谷はもうほとんど見えない。ところが正規雇用比率は25〜29歳の62.8%が頂点で、35〜39歳で43.6%、55〜59歳では29.2%まで下がる。男性は30代から50代前半まで7割台を保っている。白書はこの形を「L字カーブ」と呼んでいる。

働き続ける女性は増えたが、正社員の線に残る人は年齢とともに減っていく。育休そのものより、復帰後に時短や配置の変更を経て、昇格の線から少しずつ外れていく、その積み重ねがこの形になっているのではないかと私は見ている。いわゆる「マミートラック」だ。本人が選んだ緩やかな働き方なら問題はない。問題になるのは、本人が選んだつもりがないまま、責任の軽い仕事に固定されていく場合だ。

復帰前に、誰と何を話しておくか

話す相手は、人事より先に直属の上司だと思っている。評価をつけ、仕事を割り振るのは上司だからだ。誰の下で働くかがキャリアをどれだけ左右するかは、会社より上司を選ぶという話でも書いた。

聞いておきたいのは、だいたい次のようなことだ。

まずポジション。原職に戻るのか、違う役割になるのか。違うならその理由と、元の線に戻る道があるのか。

次に評価期間の扱い。休業が評価期間の途中にかかるとき、その期の評価を「対象外」にするのか、出勤した期間だけで評価するのか、前回の評価を据え置くのか。昇格の要件に「直近◯回の評価」や「在籍年数」があるなら、休業期間がそこでどう数えられるのか。ここは会社によって本当にばらばらで、聞かないと分からない。

そして時短。時短中の目標は時間に比例して下げるのか、フルタイムと同じ目標のままなのか。時短中も昇格の候補になれるのか。いつごろフルタイムに戻すつもりか、を自分の側から伝えておくのも大事だと思う。期限のない時短は、周りから「この人はしばらくこのままでいい」と読まれやすい。

男性も同じことを聞いていい。数か月の育休を取った男性が、戻ったら担当顧客が引き継がれたままだった、という話はよく耳にする。男性の場合は「取ったこと」自体が目立つぶん、評価の話を自分から切り出しにくいようだ。

四層のうち、休んでいる間に傷むところ

私は人を核・行動様式・装備・状況の四層で見ることにしている(転職の前に自分の四層を描く)。育休で傷みやすいのは、外側の二層だ。

装備(知識やスキル)は、ツールや製品が変わる職種ほど早く古くなる。全部を追う必要はないが、チームの議事録や製品のリリースノートだけでも月に一度眺めておくと、戻った初日の会話についていける。

傷み方が見えにくいのは状況のほうだ。上司が替わった、組織が変わった、自分を知っている人が減った。休んでいる間にこれが起きると、能力は同じでも、任される仕事が変わる。復帰の1か月前に、上司と、できれば仕事上の距離が近かった一人か二人と短く話しておくだけで、戻ったときの立ち位置はかなり違うと感じている。

核のほうが変わることもある。子どもができて、仕事に求めるものが変わるのは自然なことだ。その場合は、昇格の線に戻ることにこだわらず、四層を描き直すほうがいい。

復帰直後に原職に戻るのと、思い切って新しい役割を取りにいくのと、どちらが長い目で見てよいのか。私にはまだ答えがない。原職は勘が戻りやすいが、「前と同じ人、ただし時間は短い」と見られやすい。新しい役割は評価の比較対象がなくなるぶん、かえって公平に見てもらえることもある。どちらが合うかは、上司と組織の状況による部分が大きいと思う。

ここに書いた法律の話は一般的な情報で、個別の事情への法的な助言ではない。復帰後の扱いが不利益だと感じたら、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナー、弁護士に相談するのがいい。

復帰の面談で、上司に「次の昇格はいつごろを想定していますか」と聞けるかどうか。聞きにくい質問だと思う。けれど、そこを聞けた人のほうが、数年後に線がつながっていることが多い気がしている。


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