佐藤伸明 Nobu Sato

やる気は、組織の形で決まる

やる気は、組織の形で決まる

連載「人は組織図どおりには動かない」 · 第10回/全13回 · 第三部 · 人はなぜ動くのか
序章:組織図に載っていない人

二つの会社が同じような人を採った。一年後、一方の社員は意欲が高く、もう一方は日々をやり過ごしている。管理職の説明はたいてい、運か、採用で見誤ったか。より可能性が高いのは、二つの会社の組織図が違う、ということだ。

三つのもの

心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンは1970年代から自己決定理論を発展させた。結論は、内発的な動機は三つの基本的な心理的欲求が満たされることに依存する、というものだ。自律。自分で決めていると感じること。有能感。自分にはできる、上達していると感じること。関係性。周囲の人と本当のつながりがあると感じること。三つが揃えば人は自ら取り組み、一つ欠ければ、取り組みは外からの圧力で支えることになる。

この理論は四十年にわたり教育、医療、スポーツ、職場で繰り返し検証され、動機研究の中で最も証拠の厚いものの一つだ。論争は主に外的な報酬の作用にある。初期の研究は金銭的報酬が内発的動機を損なうとしたが、のちのメタ分析は、それは報酬の与え方によるとし、成果に結びついた報酬は条件によっては損なわないとした。だが三つの欲求そのものを疑う人は少ない。

自律報告線・承認の段数伺いなしで決められる三つは?有能感等級の階段・昇格基準次の等級まで何年?基準は?関係性チームの大きさ・頻度週に何人と本当のやり取り?

Fig.1三つの欲求はそれぞれ一つの構造の決定と点検の問いに対応する。構造的に塞がれた項目は、管理職の努力では埋まらない。

三つはそれぞれ、構造の決定に対応する

多くの会社はこの理論を、管理職の行動リストに変えて読む。もっと権限委譲を、もっと称賛を、もっとチームビルディングを。どれも間違いではないが、どれも管理職の個人的な努力で構造の穴を埋めている。三つの欲求は実はそれぞれ一つの組織設計の決定に対応していて、構造を正しく描けば、管理職が毎日埋める必要はない。

自律は報告線に対応する。上司が何人いるか、承認を何段階通すか、何を自分で決めてよいか。組織図に書かれているこれらが、その人が毎日どれだけ「自分で決めた」と感じるかを決める。二重の報告、三段階の承認、すべて本社の承認待ち。こういう構造の中では、どれだけ権限を委譲する管理職でも自律を与えられない。前回書いた手続きによる窒息が傷つけるのは、これだ。

有能感は等級の階段に対応する。有能感は「上達していて、それが見える」ことから来る。等級が五年に一段しか上がらない、あるいは昇格の基準を誰も説明できないなら、目に見える進歩がない。階段の段数、各段の基準、一段から次の段までの平均の時間。これらは構造の決定で、管理職の励ましで代替できるものではない。

関係性はチームの大きさに対応する。本当のつながりには、頻繁で、対面で、往復のあるやり取りが要り、それには人数の上限がある(ダンバー数の記事で書いた)。二十人が一人に報告するチームで関係性が育たないのは、管理職の努力が足りないからではない。

設計上の結論:一つずつ照合する

組織図を描くとき、または描き直すとき、この三つを点検表として使い、各項目に具体的な問いを一つ立てることを勧めたい。

自律。この職位の人が、伺いを立てずに決めてよいことを三つ挙げられるか。三つ挙がらなければ、報告線か承認線が締まりすぎている。有能感。この職位から次の等級へ上がる基準は何で、平均何年かかるか。答えられなければ、階段は飾りだ。関係性。この人は週に何人と本当の仕事上のやり取りがあるか。十五人を超えるか三人を下回るなら、一度見たほうがいい。

日本法人でよくある問題は、前の二つに集中する。本社の承認線が自律を最低まで押し下げ、日本の年功的な等級が有能感をほとんど見えなくする。昇格は年数で決まり、出来の良し悪しでは決まらない。二つが欠けた組織で人が頼るのは三つ目の関係性で、これが日本のチームの結束が強いのに意欲が高くないことが多い理由だ。

診断への接続

組織診断モデルの内核の層が見る動機は、この三つの欲求を別の言葉で言ったものだ。診断では三つを組織図と突き合わせ、どれが構造に押さえつけられているかを見る。「社員にやる気がない」という依頼の多くは、最後に見つかるのが人の問題ではなく、三つのうち一つが構造的に塞がれていることだ。退職理由の記事で書いた、人が辞める内側の二層とは、この三つのことだ。

自社の組織図で、現場の社員が伺いを立てずに決めてよいことは、いくつあるだろうか。

連載
前回:同じ会社に四つの人間関係。給与設計がこじれる理由
次回:給料で不満は消せるが、満足は生まれない


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