三言語を話す人を、通訳で終わらせない

連載「人は組織図どおりには動かない」 · 第7回/全13回 · 第二部 · 構造は行動をどう形づくるか
序章:組織図に載っていない人
日本法人に、中国語、日本語、英語を話す人がいる。肩書きは「業務支援」。日々の仕事は本社のメールを訳し、社長の会議に同席し、日本の顧客の言葉を本社に伝えること。会社のすべてを知り、すべての決定に関わり、給与は全社で下から三番目。二年後にその人は辞め、法人は本社との意思疎通を立て直すのに一年かかった。
隙間にある価値
社会学に、同じことを言う二つの結論がある。マーク・グラノヴェッターの1973年の「弱い紐帯の強さ」。新しい情報と機会の多くは弱いつながりから来る。強くつながった相手は自分と同じ人を知り、同じことを知っているからだ。ロナルド・バートの1992年の「構造的空隙」。ネットワークの中で二つの集団がつながっていなければ、あいだに穴がある。穴の上に立って両側をつなぐ人が情報の流れを制御し、機会を最初に見る。
バートの研究は企業で繰り返し確かめられた。構造的空隙の位置にいる管理職は昇進が早く、提案が通りやすく、評価が高い。論争は、この優位が集団主義の文化でも同じように成り立つかだ。中国や日本の組織では、空隙の占有者がむしろ「どちらの側の人間でもない」と見られ、優位が割り引かれる、という研究がある。私はこの発見自体が問題を示していると思う。日本では、穴の上に立つ人がいちばん価値があり、同時にいちばん信頼されにくい。だからこそ、正式な位置で守る必要がある。
Fig.1二つの集団のあいだの構造的空隙と、その上に立つ人。箱には支援と書いてあり、機能は意思疎通の構造そのものだ。
日本法人でいちばん大きな穴
外資系企業の日本法人で、最大の構造的空隙は一つしかない。本社と現地のあいだだ。言語が違うのは目に見える。問題を見る粒度、決め方、「同意」の意味が違うのは目に見えない。外資系企業の記事で書いたとおり、この溝は言語の問題ではない。
複数の言語を話す人がこの穴の上に立っているのは、訳せるからではなく、両側を理解できる唯一の人だからだ。訳しているのは言葉ではなく意図である。本社の「なるべく早く」は今週を指し、日本の顧客の「検討します」は断りを指す。この二つを対応させられる人が、穴を埋めている。
この人を通訳として位置づけると、三つの結果になる。一つ、給与が通訳の水準で決まるが、実際に担っているのは意思疎通の構造そのもので、遅かれ早かれ辞める。二つ、正式な権限がないため、本人の判断は「提案」の形でしか出せず、本社は聞かなくてよい。三つ、辞めたとき穴が開き直るのに、組織図からは何が欠けたかわからない。箱に書いてあるのは「業務支援」だけだからだ。
設計上の結論:穴に正式な位置を与える
三つある。
一つ、この位置を組織図に書き、等級と報酬は言語能力ではなく、つないでいる両側の重さで決める。妥当な目安は、法人トップの直属であって、アシスタントではない。
二つ、少なくとも一種類の事柄について正式な決定権を与える。たとえば本社の要求と現地の現実が衝突したとき、折衷案を出すのはこの人で、その案はトップが否決しない限り採用される、と決めておく。これがなければ、永遠に伝言役で終わる。
三つ、穴の上に一人だけを立たせない。一人の構造的空隙は組織の単一障害点だ。言語が少し劣っても二人目を育て、本社の会議に同席させる。人材マップの記事で書いた「橋渡しの人材」と同じ種類の人で、日本市場にはもともと少なく、先に確保しておく必要がある。
診断への接続
組織診断モデルの一層目「実際の権力構造」では、構造的空隙の上にいる人をわざわざ探す。本社と現地のあいだの唯一の通路は誰か。見つけたら、その人の等級と実際に担っている機能がどれだけ離れているかを見る。離れているほど、その組織の意思疎通の構造は脆い。
自社の法人で、本社と現地のあいだの穴の上には、いま何人が立っているだろうか。
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