キャリア:動く前から入社後90日まで

エージェントから、いまより年収が二割上がるという話が来る。悪い話には聞こえないので、すぐに職務経歴書を開きたくなる。ただ、その前に確かめておけることがいくつかある。このコラムはそこから始まっている。日本で働く会社員、とくに転職を考え始めた人や、上司や会社の変化に向き合っている人に向けて書いている。
転職の当たり外れは、会社名や年収の総額より、上司と、自分のどの層に値がついているかで決まることが多い。動く前に過去の転職の本当の理由を並べ、内定は報酬を三つの軌道に分けて下限で比べ、入社後は聞いた約束を90日で確かめる。日本の法律は働く側をかなり守っているが、評価や昇格の線は上司との話し合いで決まる部分が大きい。
動く前に、自分の何を見ておけばいいのか
直近の転職の本当の理由を並べてみると、何度も顔を出すものがある。それが、次の職場に求めたいものだと思う。年齢の壁も、以前ほど高くはない。厚生労働省の2025年の数字では、転職者のおよそ半分が40歳以上になっている。
- 転職の前に、自分を四層で見ておく:二割増しの話が来たとき、経歴書に手をつける前に、直近三回の移動の本当の理由を四つの層で並べる方法を書いた。
- AIのあと、どの層から値が下がるか:人を四つの層に分けると、言葉に書き出せる技能から先に値が下がる。AIの影響を受けやすい職種で22〜25歳の雇用が13%減ったというスタンフォードの研究も紹介した。
- 「慣れ」が強みでなくなる日:経験はばらされ、値段をつけ直されている。判断が高くなった理由と、面接の関心が人数から担える量へ移ったことを扱った。
- 40代の転職で売るのは、判断の仕方だ:35歳の壁という言い方はもう古い。40代以降に雇う側が払うのは判断の仕方で、それを選考でどう見せるかを書いた。
- 人材マップの、どの円にいるか:エージェントから電話が来るかどうかは、履歴書の出来より人材マップ上の位置で決まることが多い。同じ領域、隣の領域、遠い領域のどこに自分がいるかを確かめる。
- 市場地図で次の会社を選ぶ:高く評価してくれる可能性がいちばん高いのは、自分の職種群を採用していて、いまの勤務先と競っている会社だ。公開情報だけで地図を描く手順を載せた。
書類選考と面接で見られているもの
書類選考の大半は仕分けで、面接は証拠集めだ。面接官が失敗の経験を聞くのは、プレッシャーの下での行動パターンを見たいからで、欲しいのは反省の言葉より、そのとき何をしたかのほうである。
- 分類は運命を決める 履歴書は「どの箱に入るか」の申請書である:履歴書を、どの箱に入れてほしいかの申請書として読み直した。組織の箱がキャリアを形づくる例と、箱をまたぐ方法も書いている。
- 書類選考のあと、面接で私が探しているもの:条件、取捨選択、結果、代償という、面接で私が集めている証拠を、箱と箱のあいだにいる候補者の側から読めるようにした。
- 失敗の経験を、証拠として話す:あとから引き出した教訓は短くていい。当時の判断と行動を中心に話を組み立てる。
- 不採用のあとに、どの層で止まったかを読む:否決項目に当たったのなら職種を変える話になり、いちばん弱い層が足りなかったのなら直せる。どちらだったかを面接のやり取りから見分ける。
- エージェントから返事が来ないのはなぜか:日本のエージェントは採用企業から、多くは初年度年収の30〜35%を成功報酬として受け取る。誰に先に電話するのか、何で候補から外れるのか、5行で送るメッセージの書き方までを書いた。
内定は、どう読めばいいのか
同じ800万円の内定でも、リスクが倍違うことがある。総額を基本給、手当、賞与に分けて、悪い年の下限どうしで比べてみる。そのうえで否決項目を確かめ、いちばん弱い層で判定する。
- オファーを三つの軌道に分けて読む:等級で決まる基本給、役割で決まる手当、結果で決まる賞与に総額を分け、下限どうしを比べる。
- 手元の内定に五段階判定をかける:会社が候補者にかける判定を、そのまま自分の内定にかけてみる。署名の前に、労働条件の「変更の範囲」を読んでおきたい。
- 50%昇給でも、彼は辞めた:50%のカウンターオファーを受けても辞めたエンジニアの話は、引き留めを受ける側にとっても判断の材料になる。
- 会社より、上司を選ぶ:退職代行の利用者のほぼ3割が上司を怖れていた。面接の最後の五分は、上司について聞くことに使いたい。
辞め方と、入ってからの90日
法律上は二週間前、慣習では一か月前に伝える。最初に伝える相手は直属の上司で、対面で、一文で済ませる。辞め方は、狭い業界では驚くほど長く覚えられている。入社後の90日は、次の評価の土台になる。
- きれいに辞める:退職は相談事として切り出さず、決めたこととして伝える。順番と言い方を具体的に書いた。
- 辞め方は帳簿に残る:前職との貸し借り:日本のリファレンスチェックで前職が話すことは少ないが、評判は小さな市場ですぐに伝わる。引き継ぎ、辞める時期、誰を連れて行くかは何年も記憶に残る。
- 入社後90日、聞いた約束を確かめる検証リスト:職責の範囲、予算、人員、昇給について聞いた約束を入社前に書き出し、30日、60日、90日で照らし合わせる。ずれは早めに口にする。
- 上司が替わったら、最初の三か月は新しい面接だ:上司が替わると、自分は同じでも周りの条件が入れ替わる。新任の上司が90日で何を判断するのか、仕事を見える形にして優先順位を合意し直す方法をまとめた。
会社の都合で状況が変わったとき、何ができるのか
日本の法律は、たいていの人が思っている以上に働く側を守っている。退職勧奨は断れるし、育休のあとの職は守られる。ただし勤務地の限定がない契約なら転勤の内示は断りにくく、評価や昇格の線は話し合いで決まる。
- 転勤の内示は断れるのか:断れるかどうかは契約の書き方次第だ。交渉するなら内示を受けたあとで、その前に契約書の変更の範囲を確かめておく。
- 育休復帰後のキャリア:評価と昇格の線をつなぐ:職そのものは法律で守られる。評価と昇格の線をつなげられるかは、復帰前に上司と何を話すかでほぼ決まる。
- 外資のリストラが日本法人に来たとき、社員にできること:PIPの意味、労働契約法16条の解雇のルール、離職理由で給付が変わる理由、労働審判までを順に追った。
- 定年後再雇用の5年間:給与と役割の決め方:60歳で再雇用されると、給与は2〜3割下がると見込まれる。法律、名古屋自動車学校事件の判決、小さくなる公的給付、事前に決めておくことを整理した。
どの段階の記事でも、最後に頼りになるのは自分で書き残したものだと私は感じている。過去の転職の理由も、面接で聞いた約束も、内定の内訳も、書いておけばあとで読み直せる。記憶だけに頼ると、都合のいい話から先に残ってしまう。
雇う側から見た同じ話は組織と採用に、転職率や求人倍率の数字は数字で見る日本にある。四層や五段階判定の定義は用語集で確かめられる。
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