佐藤伸明 Nobu Sato

立ち上げの実務:日本法人の最初の一年

日本法人の立ち上げに関する記事をまとめた、コラム「立ち上げの実務」の案内

日本法人の設立が決まると、最初の数週間は登記、銀行口座、オフィス探しで埋まる。本社の計画書でも、手続きの欄がいちばん細かく書かれていることが多い。ところが、JETROの2025年の調査で外資系企業が日本で困っていることとして挙げたのは為替、コミュニケーション、採用が上位で、事務手続きは九番目だった。このコラムは、日本法人の立ち上げを決めた本社の経営者と、現地を任された責任者に向けて書いている。

日本の立ち上げで時間とお金を食うのは、手続きより人と関係のほうだ。最初の一人には、営業より先に、日本語の資料、現地の契約、サポートの約束を整えられる人を置いたほうが、あとから入る営業が動きやすい。競合や代理店は知名度で選ばず、人材、顧客、販路のどれを押さえている相手なのかで選ぶ。

日本の立ち上げは、どこで詰まるのか

書類で止まる会社は、意外なほど少ない。詰まるのは人とのやり取りで、JETROの2025年調査でも事務手続きは九位にとどまっている。為替には本社の側でも手が打てるが、コミュニケーションと採用は、日本側に人がいなければ前に進まない。もう一つ見落とされやすいのが競合の選び方で、ここを誤ると採用も営業も見当違いの相手を追うことになる。

競合の記事では、一社ごとに載せた理由を書き添える形をとっている。理由が書けない会社は、名前がどれほど知られていても外してかまわない。逆に、無名でも同じ人材を取り合っている会社は、採用の計画に直接効いてくる。採用でぶつかる相手と営業でぶつかる相手は、同じとは限らない。

最初の一人は誰で、いくらかかるのか

年収600万円の人を雇うと、会社の負担は二年目以降で年におよそ710万円、エージェント経由なら一年目はおよそ920万円になる。給与の1.2倍から1.5倍を見込んでおけば、予算の読み違いはかなり小さくなる。給与だけを予算に載せると、エージェント経由の一年目には300万円を超える差が出る。誰を最初に置くかは、その金額をどこで回収するかの判断でもある。

  • 日本法人の最初の一人は、営業でないほうがいい:営業を先に雇うと、顧客から日本語の資料、現地の契約、サポートの約束を求められたところで手が止まる。本社と日本の顧客のあいだを訳せる人を先に置く理由を書いた。資料と契約を整える仕事は地味だが、ここが空いたままだと、営業がどれだけ動いても成果が受注につながりにくい。
  • 一人雇うと、給与の何倍かかるか:社会保険の会社負担、通勤手当、賞与、紹介手数料を積み上げて、一人あたりの実額を出している。年収600万円で計算すると、一年目は給与の約1.5倍、二年目以降は約1.2倍になる。
  • 日本進出初年度の予算は、なぜ半分も超過するのか:進出企業の調査では、半数超が5,000万円未満で予算を組み、65%があとで1.5倍以上を必要とした。差が出るのは人件費、入社時期、営業の立ち上がりの三か所だ。
  • トップが二人いる組織は、いつうまくいくのか:共同CEOの会社は大きく勝つか大きく負けるかに振れやすい。Netflix、SAP、Salesforceの例を、二人で率いる日本法人に置き換えて読んだ。役割の線をどこで引くかは、始める前に決めておきたい。

二人目からの順番は、最初の一人が整えた資料と契約がどこまで使えるかで変わってくる。営業を迎えるのは、顧客に渡せるものがそろってからでも遅くないと私は考えている。そのほうが、営業として入った人も最初の数か月を言い訳なしに過ごせる。

代理店は、なぜ売ってくれないのか

代理店の営業担当の頭の中で、新しく扱い始めた製品は十番目あたりに置かれていることが多い。契約を結んだだけでは順位は上がらない。代理店探しそのものが止まる場合も、努力の量より情報の並べ方に原因があることが多いと感じている。名指しの担当者がいない製品は、代理店の中で誰の仕事にもならない。

  • 代理店が自社製品を売らない理由:契約から半年たっても注文が来ない場面から始め、担当者の名指し、同行営業、段階的なマージンで順位を上げていく。マージンは最初から厚くするより、実績に応じて上げていくほうが代理店の動きが続きやすい。
  • 営業代理店開拓の方法論(店舗・中小事業者向け商材):販路から先に考える五段階の開拓手順と、つまずきやすい失敗の型をまとめた。店舗や中小事業者に売る商材なら、ここから読むと早い。

代理店と組むか直販で行くかは、誰に売るかで決まる。中小企業に広く売るなら、すでに販路を持つ相手と組むことになりやすい。そのときに勝負を分けるのは契約の条件より、相手の営業担当の頭の中で自社製品が何番目に来るかだ。

閉じるときのことも、始める前に考えておく

株式会社の清算は最短でおよそ2.5か月、登記などの費用は10万円未満で済む。重いのは人、契約、そして資金を本国に戻す部分で、ここは立ち上げのときの契約の書き方で大きく変わる。撤退を前提に始める会社はない(あったら、それはそれで少し心配になる)。ただ、最初に結ぶ雇用契約や取引契約の条項は、閉じるときにそのまま効いてくる。

  • 日本法人の閉じ方:手続きの流れより先に、社員、取引先との契約、資金の戻し方で何が起きるかを整理した。撤退を決めたら、その時点から逆算して、社員への説明、契約の解約、資金の移動の順番を組んでいくことになる。

一週間で準備するなら

最初の日は、JETROの調査を扱った記事と雇用コストの記事で、予算と順番の前提をそろえておく。次の二、三日で競合の記事を使って市場地図を一枚描き、残りの日を最初の一人と代理店の設計に充てる。清算の記事は、最初の契約に署名する前に一度目を通しておけば足りる。

一週間ですべてを決める必要はない。最初の一人と予算の幅さえ決まれば、残りはその人と一緒に詰めていける。

立ち上げのあとに来る組織の問題は組織と採用で、市場の数字は数字で見る日本で扱っている。市場地図などの言葉は用語集で定義した。

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日本市場での立ち上げについて、三言語で書いています。